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物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
七章・白銀が奏でる。

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歴史ある古都。

原作7巻が1月17日に発売です!

書籍版はweb版に数万文字の加筆となっておりますので、どうぞよろしくお願いいたします!

 ――――クルシェラ。

 以前、ミレイが話していたレオメル南方に位置する古都。



 七英雄の伝説ではⅢになってから足を踏み入れるらしい……そんな雰囲気が漂っていた重要都市であり、帝国において特に長い歴史を持つ地。



 自然と調和する景観は風光明媚。

 避暑地としても知られ、いまの季節に行われる終戦を祝う催しには国内外から観光客が多く姿を見せる。

 この地へ向かう魔導客船の内装も相まって、高揚感も煽られる。



 終戦を祝う祈りの夜々は今年、節目の年を迎える。

 この日、クルシェラは帝都でも滅多に見ない人混みに見舞われていて――――



「魔導船があんなに並んでるのなんて、エレンディルでも見たことないかも……」


「それに見てください。気球も飛んでますよ」



 魔剣使いの少年と、黒の巫女が周囲の様子を目にして。

 少し前までレオメルが誇る帝国士官学院で試験を受けていたはずが、いまいる場所はそんな帝都を離れた地の上空――――。

 巨大な魔導船の展望フロアにて、二人は大きな窓から眼下に広がる光景に目を奪われていた。



 三人で同じ魔導船に乗り、帝都を発ってからおよそ半日の道のりだった。

 普段はあまり経験のない長距離移動も、同じ便に乗っていた友人(ヴェイン)たちの存在もあり退屈せずに済んでいる。



 魔導船を出るまでのレンは、ヴェインをはじめとした少年たちとほとんどの時間を過ごしていたくらいだった。



 リシアやフィオナをはじめ、帝都を離れられない貴族の名代を務める者の姿も多かったし、それでなくとも夏休み人気の高い地だからこそ見慣れた顔も何度かみつけた。それが、誰もが予想していた通りとも言えたのだが。



 ……間もなく、クルシェラに到着いたします。

 ……祈りの夜々を控え、当該地域は非常に混雑しており――――。



 展望フロアに魔道具を通して案内の声が響き渡ると、レンの周囲では乗客の多くが船を下りるための支度をしに自室へと戻っていく。



 レンとフィオナは少し時間をおいて展望フロアを後に。

 リシアも合流すると三人は連絡通路へと戻り、ガラス張りで見晴らしのいいその場所を進んだ。



「今年は他の大陸からいらしてる方も多いそうですよ」


「なので、ラディウスには宿のことで何度もお礼をしてきました。……そんなのいいから楽しんでこいって言われましたけど」


「ふふっ、殿下らしいですね」



 その際に、ラディウスはこうも言っていた。



『元をたどればクルシェラ伯爵からの招待だ。宿の用意もせず、遠方の貴族を呼び寄せるはずはないがな』



 レンはあの日失念していたが、それが常識。宿泊先に困ることはなかっただろうけれど、ラディウスの計らいには感謝することしきりだ。



 ただ、ラディウスのそうした人となりを見られるのもレンがいるときだけだろう。ミレイやフィオナ、リシアに対しても多少砕けてくれはするが、同性の親友であるレンに対してはまた違った印象だ。

 彼ら二人の関係性を窺えるやり取りに笑みを零したフィオナが、人差し指を立て年上らしくも。



「でも、お仕事だけじゃダメですよ?」



 それぞれ、名代などの仕事を任されていることも事実。夏休みではあるが、その仕事量はそれなりどころではなかったから、常にゆっくりできるというわけではなかった。

 だが、フィオナが言いたいのは仕事以外について。レンの腕のために来たという重要な目的のことも忘れてはならない。



「わ、わかってます! ちゃんと自分のためにも時間を使いますから!」


「ええ。せっかくここまで来たんですもの」


「けどそれを言ったら、フィオナ様たちも同じような……」


「そうですね……一応夏休みですし……」



 歩いているうちにも高度が引きつづき下がり、地上が近づいてきた。

 連絡通路を歩きながら……再び窓へと目を向けたレンは、その景色を目の当たりにして改まって考えさせられる。



「……クルシェラって、こんな場所だったんだ」



 たとえばエウペハイムがそうだったように、重要な機関の建物もいくつか立ち並ぶ。

 その広大な都市はただの避暑地ではなく、レオメルにおける特筆すべき重要都市であることを現わしているかのよう。



 つまり、祈りの夜々が近いこの時期の人混みは凄まじいということ。

 魔導船を下りれば、特にその様子が見て取れた。想像の倍を優に超える人の多さに圧倒される。どこを見ても多くの人で歩くのにも苦労してしまいそうだ。



「獅子王大祭より混んでるかも」


「レンー? 何か言ったー?」


「いえ、何でもありません!」



 レンは数歩前を歩くリシアを追って歩を進めながら、周囲の様子に目を配った。

 行きかう人々の中に、帝都やエレンディルでは普段見ることのない種族の異人を散見する。国外からの観光客が多いという話も間違いではないようだ。



 いままさに魔導船から下り立ったばかりの二人だ。

 これからカウンターで所定の手続きを踏んでから外に出ることになるのだが、魔導船乗り場の大きな窓に広がるクルシェラの景色を見ていると、随分と日差しが強そうだ。

 外はどれくらい暑いのだろうかと思っていると、



「日差しは強そうですけど、帝都よりは涼しいらしいですよ」



 レンの隣を歩いていたフィオナが言った。

 一瞬、きょとんとした表情を浮かべたレンが彼女を見た。彼女は彼の様子を楽しそうに視線を返す。



「暑そうって考えてるように見えたんですが、当たってましたか?」


「……完璧に看破されました」


「ふふっ、だと思いました」



 人混みの中、離れ離れにならないよう少し歩くと、目的のカウンターが視界に入った。

 各々が自分で手続きをしなければならず同じ列に並ぶと、他の来客たちにつづいてレンの出番が近づいてくる。

 先にリシアとフィオナをカウンターへ進ませて、ようやくレンの番が訪れようとしていた。



 そんなときに。



「あれ、君は――――」



 途中ですれ違った女性の声とその姿に、レンは覚えがあった。

 確か以前、中立都市で同じく魔導船乗り場のカウンター近くですれ違ったような……。というのも、魔王教の動きを調査するために一人で中立都市へ向かったときのことだ。



「前も魔導船乗り場でお会いしましたよね?」


「そうだね。前は中立都市だったけど……また会うなんて、すごい偶然」



 菫色の髪を揺らす、眼鏡を掛けた女性。絵になるような笑みを浮かべた彼女は、前と変わらず腕に大きな本を抱いていた。

 いったいどんな本なのだろう。

 レンは気になったが、その本はカバーが掛けられていて表題が見えなかった。



「ここへも本を探しに?」


「それも……かな。ほかにも大切なものがあって、探してみたくて来たんだよ」



 女性は本に添えた手にぎゅっと力を入れ、心なしかその声にも強い感情を込めているかのようだった。

 すぐに彼女はその様子を消すと、話題を変えてしまう。

 レンより少し背の低い彼女が彼を見上げていた。



「君はどうしてクルシェラに?」


「俺はちょっと療養とか……いろいろです」


「癒やしの力を求めてってところかな」


「ですね。あとはせっかくの休暇なので、本屋とかにも行ってみようって思ってます」


「いい休日になりそう。どうか、君が素敵な本に出会えることを」



 偶然の出会いに取り留めのない話をつづけつつ……。

 レンははじめて会ったときに、彼女が口にしていた言葉を思い出した。



「確か本って言ったら」



 それは、こんな言葉だったはず。



「本は唯一、神々の影響を受けない世界の記憶……でしたっけ」


「っ……覚えててくれたんだね」



 女性はレンが覚えていたことを意外に思ったのか、レンズの奥で目をこれまでより大きく開く。

 喜色を垣間見せながら、しかし彼女は近くの時計を見て息を吐いた。まだ話していたそうだったけれど、彼女はその足を動かした。



「ごめんね、もう行かないと」


「っと……すみません、呼び止めるみたいになっちゃって」


「そんなことないよ。それじゃ――――もしまた会うことがあったら」


「はい。なかなかそんな偶然はなさそうですけど」


「そう思うよ、私もね」



 二人の会話は終わり、互いに別々の場所へ。

 レンは頃合いよく自分の番が訪れると、荷物を手にカウンターへ向かいながらも窓の外に広がる景色を再び見た。



 ……フィオナ様が言ってた通りだ。

 ……日差しは強いけど、意外と涼しい。



 受付を終えると、一足先にそれを終えていた二人の元へとレンが。

 エレンディルの空中庭園に負けじと大きな魔導船乗り場を出ると、普段は感じることのない日差しが三人の頭上に注がれた。



 クルシェラは帝国が誇る都市であると同時に、七英雄が生きていた時代は中立都市にも似た性質を持っていた。周辺諸国との連携にあたって、大陸の終戦を祝うべきこの地はどこより見栄えするし、異論を誘うこともなかったと記録されている。

 それについてリシアが話していた。



「普段はあり得ないけど、そのときだけは他国の戦力の通過も条件付きで認めたことがあったみたいよ」


「へー……いまだと無理なことも、やっぱり魔王がいたら違ったんですね……」


「当時はほぼすべての国が魔王を相手に団結してましたものね。時間が経って、マーテル大陸などではまた紛争がはじまっちゃいましたけど……」



 エレンディルを発ち半日と少しの時間が過ぎて、彼らは遂にクルシェラの町へ。



「アリューエには、まっすぐ魔導列車に乗って行っていいみたい」



 リシアが言ったのは、帝都にある宿アーネアのクルシェラ支店の名だった。

 魔導列車というが、帝都やエレンディルと違い目抜き通りを進む路面電車だ。路面を進む魔導列車なんて普段は見ることができないし、乗り込むだけで新鮮味に溢れる。



 クルシェラは海に臨んでいるわけではなかったけれど、湖は端が霞んで見えるほど巨大。砂浜にも似た場所だって広がっていた。



 特にレンたちの目を引いたのは、湖にかかる見たこともない規模の橋だ。

 それこそが、クルシェラの象徴。

 湖に架かる以外にも大きな橋を散見する。その橋は平坦な地形と高低差に満ちた地形が入り乱れたクルシェラにおいて、各区画を繋ぐ役割を持ちながら、他の都市にない景観を作り出すためのものだ。



「あっちに並んでるの、全部宿なんですって」


「ほぼ満室なのもわかりますね。こんなに人がいるんですし」



 リシアとフィオナが驚きの声を漏らした。

 都市の中心部に立ち並ぶ巨大な建物群を気にして窓へと顔を近づければ、誘われるようにフィオナも外を見ていた。

 彼女たちが夏を満喫するのを見てから、レンは二人と反対側の窓へと目を向ける。

 湖と、それに架かる橋。帝都やエレンディル、エウペハイムのどれとも違った威容。まるで、物語の終盤に足を運ぶような神々しさすら漂っていて――――



 ……そっか。

 ……ずっと気になってたこと、やっとわかったかも。



 ただ休むために来た気がしなかった。という感覚がずっと心に残っていた。

 クルシェラはエウペハイムにも負けない重要都市で、国内外に名を馳せる避暑地。さらに、祈りの夜々という名の帝国の歴史を象徴するような催しが行われる地……。



 そうした地だからこそレン自身、このクルシェラに特別な意識を持っていたということをようやく理解できた。



「腕のことはついで……っていうと怒られちゃいそうだけど」



 考えて、さらに呟いてしまうのは仕方のないこと。別にレンだって、腕の療養を無視しているわけではないのだ。

 などと、彼は心の中で言い訳をしてみせた。



 路面を走る魔導列車が停車したのは、間もなくだった。

 魔導船乗り場直通の駅から移動して十数分の旅路を終え、目抜き通りを少し抜けた先。立ち並ぶ建物群の合間を縫うように造られた駅から地上に降り立った三人。

 各々が荷物を手に、再び厳しい日差しを浴びて。



「不思議。同じ国にいるはずなのに、外国に来たみたい」



 リシアはそう呟くと、「私、外国に行ったことはないんだけどね」と可愛らしくはにかんだ。

 目的の宿の周囲に立ち並ぶ高層建築はいずれも有名な宿の数々だ。間に建てられている洒落た構えの店だってどれも少女たちの気を引く。

 中でも不意に、彼女たちの目をこれまでより強く引き寄せた店があって……



「え? あれってヴァーナ?」


「隣にあるのってミリエアでしょうか……?」



 彼女たちは当然のように知っているようだったけれど、レンは耳にしたことのない名だ。

 しかし、看板にあるシンボルに見覚えがなかったわけではない。帝都でちらりと、何度か見たことがあるような気がしていた。



「もしかして、年に何度か食堂で争奪戦になってる?」


「そう! 抽選でほとんど買えないお菓子のお店!」


「帝都には支店がなくて、クルシェラにしかないから滅多に買えないんですよ!」


「な、なるほど……だからそんなに……」



 二人が気になるのなら行ってみてもいいだろう。祈りの夜々の期間に入店が叶うかどうかは別として、せっかくクルシェラに来たのだ。

 だがその前にしておきたいことも。



「――――でも、先にお昼のほうがいいでしょうか」


「そうですね……後にしたらどこも混み合いそうですし」



 フィオナの案にリシアが同意し、つづけてレンも首肯した。



「宿に向かう途中で気になるレストランがあったら、そのまま寄っていきますか」



 レンは二人に告げ周囲を見回した。

 彼らが歩く目抜き通りは、輝く陽光を受けた砂浜にも面していた。

 海ではなく湖だから、砂浜に似た光景があるといわれても半信半疑だった。しかし足を運んでみればただの砂浜よりずっと美しく、煌めく光景にはただ目を奪われる。



「あれが海じゃないなんて」



 レンは湖の方向を眺めて口にする。

 ここから湖や都市の象徴である橋までを一望できた。

 海ではないから泳ぐ人の数はそう多くないけれど、子供たちは砂浜で遊び、大人は砂浜を歩いていた。



(……さすが、レオメル一の避暑地)



 学院でセーラたちがクルシェラの話をしてはしゃいでいた理由も、これならよくわかる。

 鮮やかな緑と、澄んだ青。

 帝都でも評判の名店が立ち並んでいるし、ここで夏を過ごすと思えばあの反応も当然だ。

 三人が湖沿いの通りを歩いていると、フィオナが思い出した様子で言った。



「さっきリオハルド様たちがいらっしゃいましたよ」


「セーラたちは向かい側の宿に泊まるみたいです。そこ、英雄派の方が経営されてるんですって」


「じゃあ、ヴェインたちとすれ違うこともありそうですね」



 近くにヴェインたちもいるのかと思いながら、レンが腰に手を伸ばした。

 携えてある剣の鞘の位置を整えると、それを見たリシアとフィオナが苦笑した。制服のときはもう見慣れているが、夏の私服だといつもより目立って見えた気がした。



「これは癖というか、俺は二人の護衛でもあるので!」


「知ってる。癖って言われたら私も――――ほら」



 リシアも腰に白焉を携えているのは普段と変わらない。この地で過ごすために新調した夏服へも、彼女らしさを忘れていなかった。

 フィオナだって、必要なら自慢の魔法をいつでも行使できるのだし。




今日もアクセスありがとうございました。

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