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物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
七章・白銀が奏でる。

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長官殿からの助言。

原作7巻が1月17日に発売です!

引き続きご予約など、どうぞよろしくお願いいたします!

 レンもそうだがリシアも同じで、試験があるからその対策のため獅子聖庁へ行くのはしばらく自重していた。



 しばらくといっても一週間と少しくらいなのだが、それまで毎日のように通っていたことを思えば久しぶりの獅子聖庁だ。

 勉強ばかりの日々に窮屈さを感じていなかったとは言えない。



 久しぶりの時間に二人は気分転換もできた気がして、訓練が終わった頃に浮かんだ笑みはやはり晴れやかなものだった。



「久しぶりにレンの剣を見たが、休む前とほぼ遜色なかったように思える」



 時刻が夕方の六時になり、シャワーを借りてから外に出たレンをエステルが待っていた。

 燃え盛る炎より紅く、上質な艶を浮かべた長髪。自身を表すような苛烈な雰囲気を纏いながら、それでいて品格の高さを窺わせる雅やかな立ち姿。



 獅子聖庁の長官にして、レオメルが誇る最強の騎士として知られる彼女――――エステル・オスロエス・ドレイクがレンの傍へ足を運んだ。



「むしろ、司祭との戦いを経て苛烈さが増したようだ。――――しかし、今日は随分と早いうちに帰るのだな」


「試験期間中なので、我慢しておこうと思いまして」


「そういえば殿下も仰っていたな。勉学のほうの調子はどうだ? 剣を振りに来ているのだから、悪いということはなさそうだが」


「そこそこ余裕があるので平気です。それを言うとリシアもですけど」


「ふむ、ならいいが」



 ただ剣を振ることをよしとしていないエステルらしい質問だった。

 リシアが身支度を終えて戻るまでの時間の会話は、もうしばらくつづいた。



「互いに近況報告程度はできていたが、落ち着いて話せる機会はしばらくなかったな」


「ウィンデアの頃からエステル様も忙しかったですしね。確か……大樹海でしたっけ」


「ああ。面倒な話だが、念のために何度か調査してきた。ようやくそちらも落ち着いたところでな。最近はここでの訓練にも参加している」



 大樹海。

 七大英爵家が一つ、ロフェリア家の領地にある秘境だ。 

 最奥には黒帝角(こくおうかく)のベヒーモスという名の強力な魔物の棲み処があり、エステルが何度か様子を見に行っていた。

 それらは、オルフィデによる騒動の際に妙な動きを見せたことによって。



「静かなものだ。最初のとき以来、奴に暴れる様子も棲み処を出る様子もない」


「じゃあ、落ち着きましたか?」


「そうだな。これで帝都と往復する日々ともお別れできる。以後、軍部が大樹海周辺に常駐することになろう。私の役目もこれで果たされた」



 ため息を漏らしたエステルが苦笑。



「あれほどの格を持つ魔物とは、戦わないに越したことはない」


「クロノアさんの前では、余裕そうに仰ってなかったでしたっけ?」


「言ったとも。しかしレンの受け止め方は少し違うな」


「えっと……?」


「私はあれほどの魔物を相手にしても勝つ自信がある。そこに疑いも過信もないが、あくまでも私が自分の実力を疑っていないという話にすぎん。それが楽な戦いになるとは微塵も思っていない」



 エステルの矜持の表れだろうか。

 決して例の魔物を卑下しているわけではなかった。



「レンも前に、誰が相手でも負けるつもりはないと言っていただろう。それと同じことだ」


「あー……わかりやすいかもしれないです」


「だからウィンデアへ行ったのだろうしな。あれは大儀であった。……それ故、傷を負ってしまったようではあるが」



 獅子聖庁の長官は、ちらりとレンの腕を流し見た。

 最近、様々な人から心配されることのある呪いを受けた腕だ。



「呪いを受けた腕はもうほとんど何ともないようだな。だが、身体の奥底が浸食された名残は、神聖魔法や高価なポーションでも治りが悪い。この機会にしっかり休めておけ」


「ですね……そのつもりです」



 最近よくする話をしていると、レンが返事をしてすぐに近くで足音が聞こえ、つづいて「レン!」という声が届いた。

 声のほうへ顔を向ければ、帰り支度を終えたリシアの姿がある。



「日に日に剣の腕を上げているな、リシア」



 誇らしげに笑うエステルの言葉に迎えられた白の聖女が、くすりと。

 頬に喜色を浮かべた彼女が唇を動かした。



「そうでなければ、またレンに置いていかれちゃいますから」


「違いない。とはいえリシアらしく腕を磨いていけばいいだろう。レンをきちんと休ませて、いまのうちに追いついてしまえ」



 彼女らしい言葉選びの中、レンに無理をするなと説いていた。

 一方でリシアは、何か気にした様子である。



「どうした。思うことでもあるのか?」


「ええ……毎日神聖魔法を使っているのに、レンの腕にまだ違和感があるのが気になって」


「クロノアにも相談はしたのだろう?」


「はい」とリシアがすぐに首肯。


「それで、クロノアはなんと?」


「神聖魔法は呪いに強い効力を示しますが、その……呪いそのものが強すぎたことと――――」



 言いづらそうにレンを見上げたリシアと視線が交錯し、レンが口をはさんだ。



「俺が無理して立ち向かったせいで、呪いが俺の身体の奥底にまで入り込んでて」


「何を言うかと思えば、レンの自業自得(勲章)ではないか。教え子の雄々しさには誇らしさを覚えるとともに、もっと自分を大事にしろと言いたいところだが」


「でもダメなんです! 私、ずっとこういうときのために頑張ってきたのに……!」



 リシアが強く言いたくなる理由はエステルも理解できる。

 それでもリシアの神聖魔法があったからこそ、レンはいまの状態に戻れたことも事実なのだ。



「魔王教の司祭が聖遺物の力を借り、さらに命を懸けて作りだした呪いだ。それをこれほど違和感なく回復させたことのほうが、私の目には凄まじく見える」



 結局のところ、これに尽きるのだ。

 黒の巫女の力が関係するからフィオナも力を尽くしてたことは言えない。

 それにしても、エステルが言ったほどの呪いに対して十分……それどころか、奇跡的な回復なことに違いはない。



「同じことを俺も言ったんですが」


「レンは気にしないで。私が不満なだけだから」


「ふむ。負けず嫌いは美徳だ。よしとしよう」



 向上心があるならまたよし、とエステルが笑った。

 やがて、欠伸交じりにエステルが話題を変える。



「剣聖になるため、新たに見えてきたものはあるか?」


「いえ、まだ探り探りです」



 リシアが苦々しい笑みを繕いながら答え、隣に立つ少年にちらりと顔を向けた。



「一足先に剣聖になった男の子が隣にいるので、負けないようにって頑張ってはいるんですが」


「そんなことだろうなと思った。しかしさっき言ったように、リシアらしく磨くことも努々忘れることのないように」


「それって……?」



 エステルはリシアの頭を軽く撫でて。

 白の聖女を応援して、同時に彼女への助言になればと考えて口を動かす。



「誰かの背を追うのも間違いではないが、それにばかり気を向けすぎるなよ。ということだ」


「……はい。改めて自分を見つめなおしてみます」


「それも悪くないさ。リシアが考えるべきは、自分自身の心が何をもって震えるかということだろう。ふむ、我ながら抽象的だな」


「い、いえ! 参考になりますから!」


「はっはっは! 私だったらそんな殊勝な返事はできんな!」


「もう! エステル様!」



 リシアの声にエステルは満足いくまで笑い、すぐに背を向ける。

 この季節だから羽織っていない外套を、彼女は小脇に抱えたまま歩きはじめた。



「――――『剣聖が謳う』。リシアがそれを迎える日が楽しみだ」



 剛剣使いが剣聖になる際、全身に用いた纏いが音を奏でる現象のこと。

 身体が新たな纏いに順応するため、体外に生じた魔力の膜と体内の魔力が擦れ合い、共振することで音が生じるというものだ。

 昨冬、レンが剣聖になる際にも生じた現象だった。



「もっと話していたいところだが、これから仕事だ。終われば明日は久しぶりの休暇だから、ゆっくりさせてもらう」



 背中越しに手を振りながら立ち去る女傑に、レンとリシアは挨拶の言葉を投げてから獅子聖庁の外へ。



 いつもより早く獅子聖庁を出たから、その分だけ屋敷へ帰れる。

 だが、二人が早くに魔導列車に乗り込むと、ちょうど帰宅する人で車内は賑わっていた。

 エレンディルに着いた頃には微妙に疲れを感じていたほどで、二人は屋敷の門をくぐるとまっすぐ自室に向かって荷物を置く。



 ――――翌日の試験の勉強を終えたのは、日付が変わってしばらく経った頃だった。 



 試験期間らしく、朝起きても眠気がいつもより残されている。

 それでも食堂に着いたときにはそうした様子は一切見せず、今日も試験を頑張らなければ……と気持ちを新たにした。

 そんなとき、レンが耳に入れた会話。



「ヴァイス、今日は午後から夜まで帝都だ」


「承知いたしました」



 クラウゼル家当主にしてリシアの父であるレザード・クラウゼルと、彼に使える騎士のヴァイスが話をしていた。

 相変わらず忙しそうにしている父が席を立ったのを見て、リシアが言う。



「今日も会合ですか?」


「いくつかね。数多くお声がけいただけているおかげで、秋まで暇せずに済みそうだよ」



 涼しげな笑みを浮かべた子爵がふと。



「ここ数年でも特に忙しい夏になりそうだ。……夏のパーティのお誘いもいただいているが、すべてに応じることは難しいな」


「帝都で行われるパーティ、今年はすごく多いみたいですもんね」


「それもあるが、確実に断らなければならないのは離れたところのものだね」



 たとえば。



「クルシェラ伯爵のお誘いなどがそうだ。私としても行きたいところなんだが、帝都で上位貴族が集まるパーティと日程が被っていてね」



 それにはリシアとレンが昨日話したばかりのことを思い返させられる。ともにクルシェラのことが話題に出たばかりなこともあり、いまの言葉が強く耳に残った。



「祈りの夜々が節目の年だって聞きました」


「ああ、レンが言った通りで――――」



 話をしながら何か思いついた様子のレザードの目はレンに向けられ、再び唇が動いた。



「レンの休暇にもなるかもしれないな。私の名代としてリシアに伯爵へと挨拶をしてもらってから、夏休みをゆっくり過ごしてきてもらうのもいいかもしれない」



 それは昨日、ミレイが最後に言っていたことにも関係する。



 クルシェラという地には古くから、癒やしの力が宿っている。それは古の時代のかの地に多くの精霊が棲んでいたからで、いまあるのはその名残だった。

 現代において、ポーションの原料に使われることも珍しくない効力に各所で触れることができるという。だがその一方、クルシェラを離れると癒やしの効力が徐々に失われていってしまうため、直接触れる以上のことはない。



 リシアとフィオナのおかげで呪いの影響がほぼ消えたレンだが、まだ違和感が微かに残されているのなら、触れに行く価値はあるだろう。




 ◇ ◇ ◇ ◇




「いいんじゃないか?」



 そう軽く言い放ったのは、午前の試験を終えた休み時間に、レンと廊下で話していたラディウスだった。

 彼はレンがクルシェラに行こうか迷っていることに、あっさりと賛意を示した。



「それで、宿はどうする?」


「行くって決めたらすぐに予約をしようと思ってたとこ」


「それではもう難しいはずだ。今年は祈りの夜々も節目の年だし、もうどの宿もまったく空いていないと思うが」


「あー……やっぱり、そうだったんだ」



 だから、余計に今年は難しい。

 いざとなったら魔導船内に宿泊するべきなのかもしれない。そんな最終手段を考えていたレンへ、彼の親友が助け船を出す。



 ……実際のところ、宿くらい招待した側が用意するのが当然のことだ。このときばかりはレンがそのことを失念していた。



「クルシェラにもアーネヴェルデ商会の宿がある。そこに泊まれるよう手配しておこう」


「いやいやいや、それこそ余計に予約できないんじゃ……」


「そんなことはないとも」



 ラディウスが幼かった頃、ポーション開発などのためにラグナとともに興したアーネヴェルデ商会。



 国内外へ名を轟かす存在へと成長したその商会は、貴族でも予約を取るのが難しい宿を帝都に構えている。これまでに何度か、レンたちも世話になったことのある有名な宿だ。

 それとは別で、クルシェラにも支店があるとのことだが……。



「いざというときのために、いくつかの客室は常に空けてある」



 急な用で皇族が足を運んだときや、国外からの賓客のためであるという。クルシェラが国内外に知られた重要都市であるからこその準備だった。



「それなのに俺が借りても大丈夫なの?」


「ああ。というか、私にとっても都合がいいといえば都合がいい」


「っていうのは?」


「ウィンデアの件でのことだ。イグナート家、そしてクラウゼル家にもそうだが、ウィンデアで戦ったレンへの礼もさせてほしい」



 ラディウスはレンが口を挟む間もなくつづけた。



「城からだと、褒美という名の偉そうなものへと変わってしまう。だから私から礼という言葉で言い換えさせてもらいたいが」


「つまり、お礼として宿を用意してくれるってことなんだ」


「ということになる」



 だから遠慮しないでほしい、と。

 第三皇子は繰り返すように話した。



「昨年の冬からレンには世話になることばかりだ。是非とも受け入れてくれたら私も嬉しく思う」


「――――わかった。それなら遠慮なく」



 親友の計らいにこれ以上遠慮するほうが悪いと思い、レンは素直に受け入れ、そして「ありがと」と礼を口にした。



「ってか、ラディウスも一緒に行かない?」



 正面から迷うことなくそんな誘いをしてくるのは、第三皇子にとってレンただ一人。いまのように誘われることへ喜びを覚える相手だって、きっとレンくらい。

 それ故、この言葉を返すのは心が痛む。



「私は気になること────いや」



 ラディウスは何か隠すように含みを持たせると、言葉を選んだ。



「すまない。公務があって難しい」


「……わかった。じゃあ、また別の機会にしよっか」




 残念そうに笑ったレンを見ていると悪い気になってしまう。本心ではレンと夏を過ごしたかったけれど、どうしても時間が許してくれなかった。



「三人でゆっくりしてきてくれ。祈りの夜々の時期には、あの地でしか見られない美しい空も見られるはずだ」



 ラディウスが次に添える言葉は、レンをよく理解した内容のものだ。



「それにあの二人がいれば、レンもしっかり休む気になるだろう?」


「あの二人って、リシアとフィオナ様のこと?」


「ああ。恐らく両家ともに、今年の祈りの夜々に招待されている。帝都でのパーティもあって当主が顔を出すのは難しそうだが、皆が名代としていけば貴族としての顔も立てられるさ」


「実は最近、同じようなことを話したばっかりだった」


「なおのこと都合がいいじゃないか。ただ休暇を過ごすのではなく、こなすべき仕事がある。これならレンも気兼ねなく行けるだろう」



 魔剣使いの少年は第三皇子と言葉を交わして、試験が終わってから訪れる夏休みへと意識を向けはじめた。

 窓の外を見れば、この日も燦々と輝く陽光が帝都中に降り注いでいるのが見えた。



今日もアクセスありがとうございました。

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