表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
七章・白銀が奏でる。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

268/288

夏の予定が少しずつ。

原作7巻の予約がはじまっております!

web版ともども、どうぞよろしくお願いいたします……!



 幾日か過ぎて。

 この夏、最初の試験は学院の訓練場で行われた。

 レンとリシアが一年次に引きつづき参加を免除されている科目だが、試験は別。彼らもこの日は朝から参加すると、基本剣術とも呼ばれる帝国剣術の試験を受けて間もない。



 授業を免除されている立場に加え、最近は七英雄の末裔たちに負けずに名が知られているレンである。そんな彼とリシアが注目を集めないはずもなかったが、主に剣の型などを見る試験だったためか、思っていたほど注目されるようなことはなかった。



 一足先に試験を終えたリシアがいた、学院のシャワールーム。

 彼女が乳白色の洗面台を前に椅子に座ると、



「隣、いい?」


「ええ」



 同じく試験を終えてシャワーを浴びたばかりのセーラが腰を下ろした。

 二人は隣り合って座りながら魔道具を使って髪を乾かしはじめるのだが、魔道具から生じる温風の影響でうまく声が聞こえなくなるから、このときばかりは会話を避けた。



 やがてリシアが制服のシャツに袖を通すと、湯上がりの僅かに桃色の肌が透けて見えた。一年次のときと違い身体つきも起伏に富みはじめている彼女のことを、セーラは思わず羨ましそうに見てしまった。



「……はぁ」


「私をじっと見てどうかした? 何か変なとこでもある?」



 リシアは身体をくるくる回転させて自分の全身を確認してみたのだが、何も変わらない気がして困惑した。

 その仕草もまた可愛らしい。

 戸惑う彼女の様子に、セーラがニヤニヤ笑って。



「好きな人ができると可愛くなるって、やっぱり本当なのかしら」


「っ~~い、いまはそんなの関係ないでしょ!?」


「関係あるから言ってるんだけどね。まぁいいの。気にしないで」


「もう……気にしないでって言われても……」



 完全に無視することができず、鏡に映る自分を見たリシアが前髪に手を伸ばす。

 入念に前髪の角度を調整しながら、「何なのよ……」と唇を尖らせた姿。セーラはそんな親友を愛らしく思って抱きついた。



「あっ、もう! だからどうしたのよ!」



 不満ではないが、リシアは驚きの声を上げてみせる。



「ごめん。つい暴走しちゃった」


「……」


「あーごめんってば! 悪かったから、そんな目であたしを見ないで!」



 じとっと冷たい視線を向けられたセーラが慌てて否定し、へたくそな口笛を吹きながら自分も制服に着替えた。



「セーラとの付き合い方、ちょっと考えたほうがいいのかしら」


「だ、だから、ごめんってばぁ!」



 それからも冗談交じりに話をしながら身支度を終えた二人がシャワールームを出る。

 剣術の試験とあってセーラにも心配している様子はなかった。いまのように冗談を口にできる余裕もあるほどだ。



「そういえば、二人って喧嘩したことなさそうよね」


「二人って、誰と誰のこと?」


「リシアとレンのことだけど。さっきは剣術の試験だったでしょ? それで、リシアってずっと前からレンと一緒に訓練してたなーって思って」



 普段の姿から二人が喧嘩する様子がまったく想像できなかったのだ。

 しかし、



「……喧嘩くらい、ちゃんとあるわよ」



 あまり想像していなかった返答にセーラが思わずリシアの顔を見た。



「あるの!?」


「べ、別にいいでしょ! そのくらいにしておかないと、もう試験勉強に付き合うのはやめちゃうから!」



 リシアの逆襲がはじまれば、セーラが再び慌てた。

 わざと数歩前へ進みながらの白の聖女が、今度はセーラへと挑発的な笑みを向けた。



「ダメだから! それだけは勘弁して!」


「どうしようかしら……親友の頼みでもさっきのことがあるし……」



 そう言いながら軽い足取りで前を進むリシアの背に、慌てて駆け寄るセーラから「待ってよ!」

 という必死な声が届いたことで、リシアがくすりと笑っていた。



 そうして教室へ向かいながら話をつづけていたら、二人が進む先から上級生たちが姿を見せた。

 彼らもこれから二年次につづいて剣術の試験を受けるのだろう。

 その中に交じっていた女子生徒が一人、リシアたちの元へ歩を進めてきた。



「二人はもう終わり?」



 シャーロット・ロフェリア。

 三年次の特待クラスに所属の、七大英爵家の少女であった。

 学生というにはその艶やかさがあまりにも目立つ顔立ちと、凹凸に富んだ人目を惹く肢体。その大人びた容姿とは裏腹に、セーラとリシアに向ける表情は年相応の少女らしい。



「さっきね。シャロはこれから?」


「そういうこと。二人の試験は――――って聞くのは愚問だったわね」



 くすりと笑って。

 セーラは剣の名手で知られる七英雄の末裔だし、リシアは幼い頃からセーラより剣の腕で名を馳せている。

 いくら名門の学院で行われる試験だとしても、その手応えなんて聞くまでもなかった。



「じゃーね。私も頑張ってこないと」


「あっ、待ってシャロ。カイトはいないの?」


「カイトなら私よりずっと早く訓練場に行ったはずだけど、見なかった?」


「見なかった気がするけど……リシアはどう?」


「ええ。私も見てないと思う」



 カイトもまた七英雄の末裔であり、兄貴肌で身体を動かすことを何より得意とした少年だ。

 あの少年がいればすぐに気付くはずなのだが……。



「……身体を動かしたくてしょうがなかったんでしょうね。訓練場は試験で使えないから、どこかで運動してるのかも」


「でしょうね。カイトのことだし」



 最後にそう話すと、シャーロットは二人に背を向けた。

 少し離れたことろで上半身だけ軽く振り向き、雅やかな動きでひらひらと手を振る。



「この後の試験もお互い頑張りましょ。終わったらすぐ夏休みだしね」



 再び教室へ向けて歩みを進めたセーラが、ついさっきシャーロットが口にした言葉を思い出して話す。照りつける厳しい陽光を浴びながら、盛夏が間もなく訪れるであろうことをひしひしと感じつつ。



「リシアって、夏休みはどうするの?」



 数秒考えてみたリシアがいつもの調子で言った。



「クラウゼルに帰る予定もないから、獅子聖庁で訓練したり補習を受けてると思うけど」


「……はぁ~」


「ねぇ、聞いておいていきなりため息をつかないでくれる?」


「だってそう言われても、リシアの夏休みの予定がいつも通りすぎたんだもの」



 呆れ半分、そして驚き半分。



「あのね」



 と、指先をずいっとリシアに向けた七英雄の末裔が言うには、



「リシアが言ってることも大切だし、最近は魔王教のこともあるけど……」


「ええ。魔王教のこともちゃんとしないとね」


「……そうよね。リシアだからそう言うと思ってた」



 予想通りすぎた返答に、七英雄ガジル・リオハルドの末裔は笑みを零した。




「だけど、『祈りの夜々(よる)』は?」



 思いがけない言葉。

 それにはリシアが一瞬反応が遅れた。



「……え?」


「最近は受験勉強とか獅子王大祭とかで行ってなかったけど、夏になったらクルシェラで大きい催しがあるじゃない。クラウゼル家も招待されてるんだと思ってたけど」



 そのことを告げられたリシアが考える様子を見せた。

 クルシェラという都市のことは当然知っていたし、大きい催しがあるということも知っているのだが……。



「私――――その催しには一度も行ったことがなくて」


 


 ◇ ◇ ◇ ◇




 少し離れたところでは、レンがカイトとリズレッドの二人と顔を合わせたところだ。

 身体を動かしたくてたまらなかったカイトが爽やかな笑みでレンに話しかける。

 そこから、リシアたちが話していたように夏休みの過ごし方が話題に上っていた。



「んで、アシュトンたちはどうするんだ?」


「いつも通り訓練とか補習を受けるくらいですかね。もちろん、魔王教の調査もつづける予定ですけど」


「ははっ! アシュトンらしいな! っても、俺たちも似たような感じになると思うんだけどよ」



 試験が始まる前だというのに豪快に笑っていたその人こそ、カイト・レオナールである。

 昨年、先祖が用いたとされる英雄の盾――――銀王盾(アイリア)に主として認められてからは、重要な場では必ずと言っていいほどそれを身に着けていた。



 大盾を用いて仲間たちを守る姿は先祖のように雄々しい。

 仲間たちから慕われる、はっきりとした気持ちのいい性格の少年だ。



「そういえば、アーケイさんはどうしてレオナール先輩と?」


「私はバカみたいに走り回ってたカイトを見かけたので、何をしているのかと話しかけてたところでした」


「あー、だから一緒にいたんだ」


「とはいえ、私もそろそろ教室に移動しないといけませんけどね」



 ミルクティーに桜色がさしたような明るい色の髪を、ふわりと広げて。

 小柄で可愛らしいその少女の名をリズレッド・アーケイという。偉大な魔法使いを先祖に持つ、七大英爵家の令嬢だった。

 帝国士官学院へはこの春に入学し、一年次特待クラスに所属している。



 カイトは先ほどリズレッドからバカみたいにと言われたことに気づいていない様子で彼女に顔を向けた。



「ところでよ、リズ。もうすぐ夏だってのに、制服の上にローブを着てて暑くないのか?」


「やれやれ……何を言うかと思えば」



 リズレッドは制服のジャケットこそ羽織っていないが、シャツの上には彼女の象徴(トレードマーク)とも言えるローブを重ねている。レンの目にもそれが暑そうに見えてならなかった。

 自信ありげなリズレッドの態度に、レンもそれが温度調節もできる特別なローブなのだろうと思ったのだが、



「まだ耐えられますよ。問題ありません」


(……そんなことなかった)



 すべては力技でしかない。

 一応、魔法的な力へ作用する効力があるローブだが、先ほどレンが想像したような効果はなかったようだ。



「それにしても、アシュトン先輩と落ち着いて話せるの、地味に久しぶりですね」


「地味に?」


「そう思いませんか? あまり時間が経ちすぎているわけでもなく、でも、つい先日とは言い難い微妙な感覚じゃないですか、これ」


「言われてみれば、そうかも」


「……とはいえ、あの夜のことは昨日のことのように思い返せますけど」



 思い出されるのはウィンデアでの出来事、司祭オルフィデとの死闘。

 リズレッドは仲間たちの奮闘に報いようと炎の高位魔法、竜の息吹を二度も放った。

 文字通り命懸けの戦いの中で追い詰められ、高位魔法を連発したリズレッドもとうとう力を使い果たす寸前に――――そのときが訪れた。

 自分たちが七人がかりで戦ったオルフィデに対し、突如レンが立ち向かったのだ。



「それなのに、アシュトン先輩って学院ではいつも通り過ぎますね」



 リズレッドが笑って肩をすくめる。

 学院での姿しか知らなかった、一つ年上の先輩。獅子聖庁の話なども耳にしていたが、戦う姿を目の当たりにしなければ現実味はない。



 じ――――っと。

 黙ってレンを見ながらあのときの彼との落差を感じていると、彼の口から「どうかした?」と普通の声で、なんてことのない台詞が出てきた。



「なんでもありませんよ。なんでもね」



 リズレッドは深いため息をついて強引に話を終わらせると、



「ではでは。夏休みのためにお互い頑張りましょう」



 そう言い残して、この場を後にした。

 夏休み。リズレッドの言葉を反芻していたレンは、いま隣で気持ちよさそうに日光を浴びているカイトに問いかける。



「夏休みって、レオナール先輩たちは何か予定があるんですか?」



 そう尋ねながらも、レンはどんな予定があるのかを知っていた。

 しかし、帰ってきたのは予想していた言葉ではなく……。



「おう! 俺たちはクルシェラに行くぜ! ってか、今年はうちの生徒もかなり行くんじゃねーかな。今年の祈りの夜々は、何百年だかの節目だしな」


「え……そうなんですか?」


「どうしたんだよアシュトン、そんな不思議そうな顔して」



 俺、変なこと言ったか? カイトが汗を流しながら首を傾げてみせると、レンは妙な反応をしてしまったことを反省した。

 彼にはクルシェラという都市の名にいくつか思うことがあったのだ。



「そんなことないですよ。ただその、七大英爵家も最近の魔王教のことで忙しそうなのにな……って思って」


「まーなー……ウィンデアのことからすぐだし、予定してた通りネムんとこの屋敷に行っての仕事も考えてたんだけどよ」



 それこそが、レンの思い描いていた返事だ。

 七英雄の伝説のことを思い返すのが最近は以前より難しく感じるのは、そもそもの話として、レンが七英雄の伝説Ⅱを一度しか終えていないことも大きかった。



 しかし、何度か整理していたことだってある。

 その思い返しの中、この時期にヴェインたちが別の催しに参加していた記憶はない。国境に面したアルティア領にて、魔王教の司祭と戦っていたはずなのだが。



「けどそれって、アシュトンのおかげでもあるんだぜ」


「え? 俺、何かレオナール先輩たちにしましたっけ」


「第三皇子殿下たちと協力して、魔王教の調査とか先手を打ったりしてくれてるだろ。おかげで俺たちも柔軟に動けるようになったんだ~……って、前に父上が言ってたんだ」


(――――そっか)



 オルフィデの騒動の際、各地で動いていたレオメルの戦力があった。

 それが各地における不審な動きを未然に防いだことに加え、魔王教の戦力を削ぐことにも繋がっている。



 ……だからアルティア領じゃなくて、クルシェラなんだ。

 ……確かあそこって、七英雄の伝説Ⅲで行ける予定だった重要都市のはず。

 ……探索できる場所も多そうだって、Ⅱの中で出てたような。



 そこが重要都市であることは間違いないが、重要都市の一言に収めるにはあまりに惜しい。



 レオメルの長い歴史において、国境付近を守る拠点の役割を担った過去がある。魔王軍が消滅してからは風光明媚な地が人を呼び寄せ、貿易の拠点としてもその名を国内外に広めている。古くからの神殿も立ち並ぶ、長い歴史を誇る地だった。

 レンなりにそれらの情報を咀嚼できたところで、つづきを。



「アシュトンも祈りの夜々のことは知ってるだろ?」


「少しだけ。元は終戦祭って呼ばれてたことくらいですけどね」


「安心しろって。俺も似たようなもんだからな!」


「え、えぇー……説明してもらうつもりだったのに……」



 そうレンが呟き、カイトが楽しそうに笑ったときだった。図書館の近くを歩いていたこともあり、仕事用の制服(スーツ)に身を包んだミレイの姿が見えた。

 彼女の姿を視界に入れたレンは「ミレイさん」といつもより大きめの声を発して、



「ニャ?」



 自身の存在を彼女に知らせると、レンはカイトと歩いてミレイに近づいた。



「午前中の試験は終わったのかニャ?」


「はい。それで、ちょっと教えてほしいことがあって」


「んむんむ。ミレイさんにお任せ――――って、隣にいるのはレオナール殿だニャ?」


「お久しぶりです。以前は城で開かれたパーティで、アークハイセ伯爵とご一緒にいらしたときにご挨拶を」



「そうだニャ。ま、私は図書館で唸ってるレオナール殿のことを何度か見てましたけどニャ」


「はは……久しぶりに改まって挨拶してみせたんだから、それは勘弁してほしいです……」



 二人が軽い挨拶を交わしたのちにレンは言う。



「祈りの夜々のことが知りたくて」


「ニャ? レン殿ならそのくらい知ってそうな気がするんニャけど」


「簡単なことしかわからないんです。たとえば、昔は終戦祭って呼ばれてたこととかしか」



 それなら、とミレイが猫耳を揺らした。



「祈りの夜々が終戦祭って呼ばれてたのは、それこそ七英雄がいた時代に遡るのニャ。そこから名前を変えたのは、終戦祭が行われるようになったことに起因して――――」



 終戦祭として定められていた日は、エルフェン大陸における戦争が終結した日とされている。

 列強国が顔を揃えたこの大陸において、各地で関連した調印が行われた。

 それがメディル公国があった地も含め、大陸中の民に新たな時代の到来を予感させる。

 調印がなされた日の夜は、レオメル各地でも終戦が祝われた。中でもクルシェラでは、終戦祭という名で毎年祈りが捧げられる夜ができたという。

 そこはどこより美しい星夜が訪れることと、獅子王が星に祈りを捧げた



「以来、クルシェラは星謳う地なんて呼ばれるようにもなったのニャ」



 そこはレオメル南方に位置した古都であり、夏場は多くの人を呼び寄せる避暑地。レンが住むエレンディルにも似た歴史情緒と近代建築が融合した都市だった。

 美しく澄み渡る、まるで海のように広大な湖が都市の中心にある。それに掛かる巨大な橋が都市の象徴だった。



「もうすぐ夏休みだし、レン殿も行ってきたらどうかニャ?」


「祈りの夜々のためにですか?」



 ニャ、と頷いてみせたミレイだったが、レンが言ったことのためだけに勧めたわけではなかった。



「観光のためってのも悪くないニャ。それはそれとして、私が言いたいのは別のことで――――」



今日もアクセスありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
>>>7巻の予約が開始しております! 書籍版もどうぞよろしくお願いいたします!<<<
k9t0jgcm7u679lcddexxirle65p1_15qj_m8_vl_inir
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ