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物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
七章・白銀が奏でる。

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隠れ家にあったもの。

まだ少し早いのですが、年末年始の更新についてのお知らせです。

数日お休みをいただく可能性はあるのですが、基本的には更新できるようにと考えております!

引き続き、予約受付中の原作7巻と一緒にどうぞよろしくお願いいたします!

お知らせもいくつか控えておりますので、続く展開にも是非お付き合いいただけましたら幸いです……!

 いくつかの本棚が並び、最奥には大きな机と暖炉が一つ。天井までもかなり高くて、獅子聖庁の訓練場にも劣らぬ広さを誇った。まっすぐ奥へ敷かれたふかふかの絨毯の上を歩きながら、左右に並んだ本棚をレンは流し見ていた。



「気になるのか?」


「逆にラグナさんは気にならないんですか?」


「気になっているとも。気を抜いたら最後、俺のロマンを求める心が暴走し、借りられる限りの資料を借りて帰っているだろう」


「でも、しないんですね」


「くくっ、わかるだろ?」



 首を縦に振ったレンが精神を研ぎ澄ます。

 不気味なくらい静かなこの空間だ。隠れ家を見つけ出すまでの流れを踏まえれば、ここに何もないとは思えなかった。



「すでに得体の知れない魔道具の反応がある」



 果たしてそれが防衛のためか、何かを隠すためか。

 また、他にも反応がない魔道具だってあるかもしれないし。



「いまさらだが、俺が急いでいたとはいえ一人で来た理由がわかるか?」


「こんなことになるかもれないって思って、下手に動いてしまわないように――――とかですか? この様子だと、少数精鋭のほうがよさそうなので」


「正解だ。その代わり、神秘庁の叡智の結晶である魔道具を揃えている。金額のことを考えると頭が痛くなるくらいの品々をな」 



 ラグナは大きな机の前に立つと、一度周りを見回した。

 腕時計のような姿かたちの魔道具を作用させてみせたり、大きな鞄から取り出した別の魔道具を使って周囲の様子をもっと丁寧に確かめる。

 何か、防衛用の魔道具が作動するような気配はなかったが、



「警戒するに越したことはない」



 ラグナは机の奥側へと回り込み、向かい合うように置かれていた椅子を見た。

 椅子の背には手触りのいい白のカーディガンがかけられている。ミューディが着ていたものに間違いない。



 机の上には使いかけのペンがあって、ペン先のインクは固まりきっている。

 雑多に置かれた紙を取ったラグナが「頭のいい人間が書いた文章だ」と笑った。

 同じようにレンも適当な紙を手に取ってみるも、何が書いてあるのかまったくわからない。



「ぜ、全然読めない……」


「それはエルフ文字だ。内容は……西方大陸での旅を謳ったもののようだな」



 これらのほかにも様々な言語で書かれた紙があって、そのどれもが文字で埋め尽くされている。

 ラグナが言うには、書かれているのはすべて日々を切り取ったような、まるで日記のようなものだ。



 探していたのはセシル・アシュトンについてなのだが――――それもあった。

 レンにもわかる、現代も使われている言葉で書かれた手紙が机の上に置かれていた。しかもそれは、セシル・アシュトン本人が書いたと思しきものだ。



『この前、龍食花(ドラゴンイーター)の種をジェノに送ったら、もう送るなって言われたよ。大人が数人で持ち上げるくらい大きい種だから、やっぱり邪魔だったのかも』



 手紙に書いてあったのはこれくらいだが、傍には返事が書きかけの紙が一枚ある。



『次はもう少し小さい種にしろ。師である私に恥をかかせるな』



 先ほどラグナが読んだエルフ文字と同じ筆跡だ。こちらはレンも読めるレオメルの言葉だったのだが、後半の文言が特に気になる。



「ミューディが、セシル・アシュトンの師?」


「祖先の師が、世界に名を遺す偉人だと知った気分はどうだ?」


「一瞬驚きましたけど、いろいろといまさらなので」



 冒険家アシュトンのことなら、アスヴァルと戦ったという過去のことから驚かされっぱなしなのだし。



「でも、種の大きさのせいじゃない気が……」



 祖先と偉人が交わそうとしていた手紙にそう告げると、探索に戻った。

 本棚をくまなく捜索する前に、ラグナの目が机に備え付けられた引き出しに向けられ、そのままの流れで手を伸ばした。



 もちろん、そうする前にラグナが徹底的に調べて仕掛けがないか確かめてある。

 引き出しは一切の抵抗なく前に出てくる。そこにあったのは装飾が施された木箱で、銀の鍵穴を備えていた。



 隣には雑に折りたたまれた羊皮紙があって、まずはそれが取り出されラグナの手で広げられる。



「また、随分と珍しいな」


「その紋章と、添えられてる文字がですか?」


「これは遊戯の神ミセルの紋章。隣に書かれているのは『望めよ、謳えよ、ミセルの遊戯を』、竜言語だ」


「……なるほど?」


「レンがその顔をするときは、よくわかっていないときだな」



 どれもよくわからず苦笑したレンに、ラグナは面倒くさがらずに語り聞かせる。



「ミセルはその言葉通り、遊戯を司っていた神だ。望む者へ試練を与え、乗り越えた者へは神の褒美を与えたとされているが、所詮は神話の一部分だ」


「そんな神様が……」


「それと、竜言語は長い時を生きた龍種が用いた言葉のことだ。それ自体が魔力を孕んだ危険なものだから、覚えておいて損はない」


「いいんですか? ラグナさんはいまその竜言語を読んじゃいましたけど」


「現代語に訳せば問題ない。それはもはやただの共通語だ」



 そう話すと、ラグナはその羊皮紙を懐にしまい込んだ。



「しかしわからないな。ミセルの紋章にどうしてこんな文言を添えていたのか……」



 ここで考えてみても答えは出ず、ラグナはつづいて装飾が施された木箱に手を伸ばした。

 特に迷いもなく。探し物を見つけたと言(、、、、、、、、、、)わんばかりに(、、、、、、)



「ミューディは学問にも精通した御仁だったと聞く。神学の理解も深かっただろうし、旅をしている途中にでも見つけたのだろうか」


「世界中を旅していたって聞きますしね。どこかで知ってメモしてたのかも」


「かもしれないな。いずれにせよ重要な資料になり得る。借りていこう」



 ……と。

 ラグナが言って、箱に触れかけた寸前のことだった。




 巨大な地下室の中の空間が不規則に揺らぎ、



「な――――」


「ラグナさん、これって……!?」



 彼らが来たときの道が遠ざかっていく。上へ戻るための階段までも、いまでは随分と遠くなってしまった。

 柔らかな飴をねじりながら引っ張ったかのように、周りの様子が不規則に一変した。



『――――かといって、空間をねじ曲げたような痕跡もないようだ』



 外でラグナが口にしていた言葉がレンの脳裏を掠めた。

 現代には残されていない古代の術。それは、ごく一部の人間しか組み上げることができなかった超高度な技術を要する術式がもたらすもの。空間に影響をもたらす最上級魔法にも劣らぬ、人が生み出した希少な産物だ。



「ふ――――ざけるなッ!」



 鞄の旅人がこの状況に、珍しく激高した。



「これほど慎重に準備して調査したというのに、まだ現代の叡智を上回るか……! ミリム・アルティア!」



 油断はせず、用意できる最大限の技術と知恵を尽くして調査にあたっていたというのに、すべての準備が一瞬で崩壊した。



 結末は、七英雄ミリム・アルティアの技術によって。

 一秒、また一秒と時間が経つにつれて帰路が狭まっていく。空間ごとねじれ、二人を呑み込まんとしているように見えた。捻じれが生じた地下室の壁から濃い紫色に輝く魔法の剣がいくつも現れ、いたる方向から迫っていた。



 異変を感じると同時に腰に携えていたミスリルの魔剣を抜いたレン。

 彼が剣を一本迎撃して、



「ラグナさん!」


「わかってる! 撤退だ!」



 これ以上ここにはいられないと思い、大きな声で合図した。

 放たれる剣は数を増した。レンが一本落とせば今度は二本に、二本落とすと四本に。そしてそれは終わらない。増える一方だ。



「なんだ……この力!?」



 剣聖のレンにとっても重く、鋭く、疾い。

 終わりはなく、あるとすれば侵入者の死を以て迎えるのみ。出口は空間が歪むのにつれさらに遠ざかっていく。

 伝説の偉人が遺した防衛装置もまた、ミリム・アルティアという英雄の力が交じっていた。



“剣の風”



 七英雄が一人、リノ・アーケイが作り出した魔法――――。

 リノ・アーケイは偉大な魔女だ。それは彼女の末裔の実力をウィンデアで垣間見たレンも理解していたが、この『剣の風』は明らかに劣化したそれ。

 所詮、比較対象にすらできない紛い物だろう。



「これもミリム・アルティアによるものだろうな!」


「こんな魔法を封じる魔道具なんて、彼女以外に作れたらどうかしてますよ!」


「まったく……! こんなところで七英雄の魔法を拝見できるとは光栄だ!」



 汗を浮かべながら笑ったラグナが、周囲に魔法の鎖を生む。



「たとえそれが、こんな紛い物の劣化品だろうとな!」



 レンがしたようにラグナも魔法の剣を叩き落とすが、彼の力で防げるのはそのとき限り。 

 猛烈な圧は絶えずこの場を支配して、二人の行く手をどこまでもかき乱す。

 紛い物とは言うが、その性質はまさしく英雄のそれを秘めている。古き時代から今日まで封印されていた術式でありながら、もしそれが本物であればどれほどの脅威だったのか……と想像させるほど。



 だが――――。



 レンはそれらをねじ伏せた。

 一つ大きく息を吸い、五感を研ぎ澄ませる。一瞬、足を止めたと思えば刹那に迫りくる剣の数々を視界いっぱいに収めて。



「はぁあああああ!」



 吼え、ミスリルの魔剣を鋭く横へと薙ぐ。

 魔道具により発生したものでも魔法は魔法。状況を見定め終えたいまなら――――殺げる。



 横薙ぎが伴った剣圧が迫りくる風を凌駕。触れたものから光る魔力の粒へと還し、気が付けば周囲に迫る剣の一切が消えた。



 しかし……いまの戦技、星殺ぎはレンが想像していたより微かに効力が弱い。

 怪我の影響が微妙に残されていることを感じるが、その程度だ。歪む道は元に戻ることなく二人の道を遮っていたから、意識を向けるべきはそちらに対して。



「急ぎましょう!」



 剣の風を脱してからも、彼らは懸命に足を動かしつづけた。



 部屋を出て階段に差し掛かると、そこから先の様子は変わらず穏やか。

 念には念を入れて地上階にある家まで一気に駆け上がると、窓から差し込む穏やかな陽光が二人を迎えた。



「ふぅ――――地下は自動で封印される仕組みになっていたようだ」


「……本当だ。俺たちが行ったときと様子が違いますね」



 レンが階段の奥に目を凝らすと、光る霧のような壁が揺れているのが見える。その先へは進めそうにない。



「以前までローゼス・カイタスを覆っていた霧に近いものに思える。下手に手を出すと、先ほど以上の仕掛けが発動するかもしれない」


「もっと調べたいところですけど、これだと無理そうですね」


「ああ。この様子じゃ、さらに時間をかけて準備したところで無駄だったな」



 さっきまでのことから明らかだったが、レンはラグナがあまり悔しがっているように見えなかったことが気がかりだった。

 まるで、満足した様子なことが不思議と目につく。 



(どうしようもないから諦めてるのかな)



 普段のラグナならもっと惜しがるというか……そんな様子を見せたような気もするのだが……。地下の状況を鑑みれば、他に選択肢がないからと思ってしまうのも無理はなかった。



「ミリム・アルティアの技術をあれほど相手にするのは、いまは正直不可能に近い」


「俺もそう思います」と同意したレンが隠れ家の扉を開けて外に出てみれば、隠れ家の中で感じなかった熱気に嫌気がさす。


「そういえば、ミリム・アルティアの魔道具だったって断定できた理由が知りたいです」


「彼女が作る魔道具には共通点がある。魔力の流れ方がどうの……とか細かいことで、百年近く前に当時のアルティア家と神秘庁が協力して調べた成果だ」


「へぇー……だから中であんな風に言ってたんですね」



 ラグナは持ち込んだ魔道具を一つずつ鞄にしまうと、隠れ家の地下室から拝借してきた貴重品については何やら厳重な箱に納めてから鞄に入れた。



「土産はこのくらいか」


「手紙とその箱、ちゃんと持ってきてたんですね」


家主(ミューディ)には悪いが勝手に借りてきた。ここに来た目的を思えば、手ぶらで帰るのもこれまでの努力を無に帰してしまう。というか、あれだけ準備してきた意味がわからん」



 ラグナは苦笑して言い、ミューディの隠れ家があった場所に顔を向けた。



「しかし俺が言うのもなんだが、レンならまだ探索したいと言う可能性を考えていたのだが」


「場合によってはそうだったかもしれませんけど……」



 さすがに言うのが照れくさかった。

 まさかここで、



(二人にまた心配かけちゃうし)



 この言葉を口にするわけにはいかなかった。

 ただでさえあんなことがあって外に脱したばかりなのだ。これ以上を求めてしまっては贅沢だろう。



「けど、どうした?」


「――――いえ。想像以上に罠があったので、あれで正解だったと思います」


「そうだな。俺も同じ意見だ」



 話をしている途中、隠れ家の扉が勝手に閉じられた。

 隠れ家は現れたときと同じように光に包まれると、はじめからなかったかのように姿を消す。宝石の使い魔たちの姿もまたそうだった。



 そのラグナとは別々の帰り道だが、また彼から何かしら連絡はあるだろう。

 帰りの列車の中で、レンはリシアとフィオナへと隠れ家での出来事をひとつ残らず共有した。



今日もアクセスありがとうございました。

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