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物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
六章・二年目の春

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シェルガド人とドワーフの邂逅。

3巻が好評発売中です!

つづく4巻も準備中なので、どうぞよろしくお願いいたします!

挿絵(By みてみん)

 カイトが振り向いてすぐにぶつかるくらいの距離に彼女はいた。



「ふぐぅ……やるじゃないですか、カイト! この私が近づいてきたことに勘付くとは、さすがレオナールの血を引く男です!」


「いやまぁ、それは嬉しいんだが……リズは俺の後ろで何をしてたんだ?」


「なっさけない姿勢でぐーたらしてるのを見かけたので、小腹でも突いてやろうと思っていたのですよ。それなのにカイトがいきなり振り向いたせいで、私の鼻先がごっつんとぶつかってしまったわけです。地味に痛いです」



 まだ鼻先が赤い少女の告白に、カイトは「お、おう。そうか」と微妙な返事。

 その少女は、気が付くと涙目で、



「い、痛い……」



 まだ辛いらしく、小声で弱音を吐いている。

 レンも何とも言えず苦笑しながら様子を見た。



「大丈夫?」


「だ、大丈夫です……これくらい問題ありません……ばば様の稽古に比べたらだいぶマシです」


「アーケイ家の方は、魔法を教えるのも厳しそうだしね」


「むむっ、私の家名をご存じでしたか」



 有名な家系の生まれである彼女をレンが知っていても不思議じゃない。



「七英雄リノ・アーケイは現代魔法教育の基礎を築いた人だ。教科書にも彼女の名前はいくらでも書いてあるからさ」



 リノ・アーケイは勇者ルインとともに魔王を討伐した魔法使いで、リズレッドもこの年にして魔法のエキスパート。

 破壊力に富んだ魔法を放てるため、パーティに欠かせない存在だった。



 つまり、彼女も七英雄の末裔の一人。

 名をリズレッド・アーケイ。



 リズレッドはレンが言ったことを満足そうに、勢いよく首を縦に振っていた。



「そんなだけどこいつ、シャロには妹枠って言われて抱き枕にされてるんだぜ」


「ちょちょちょっ! 初対面の人の前で不名誉なあだ名を言わないでください! 喧嘩売ってるなら、カイトが相手でもかましますよ(、、、、、、)!?」



 一見すれば、年上の男子生徒に弄ばれる少女である。

 幸いにも、さっきから近くで様子を見ていた生徒たちにしてみれば、知り合い同士で遊んでいるようにしか見えなかったが。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 昼休み、レンが珍しくラディウスと学食へ足を運んで話をしていた。

 そこそこ目立つが、二人はあまり気にしていない。



「というわけで、にぎやかな子だった」


「あのアーケイの令嬢と早速出会うとはな」


「出会うってほどのもんじゃないけどさ。俺が偶然、レオナール先輩の隣にいたってだけだし」



 ラディウスがレンの話を聞いていると、学食の一角が賑わいはじめる。

 カイトにヴェイン、シャーロットと噂のリズレッドが学食にやってきたのだ。

 彼らが他の生徒たちの注目を集めてしまうのも無理はない。いま話題のヴェインが、他の英爵家の者たちと歩いていれば仕方のないことだ。



 彼らは――――というよりリズレッドがレンの姿を見かけて「あっ」と声に出し小走りで近づいてくる。

 けれど彼女の足は、レンの隣にいるラディウスを見て止まった。

 緊張のあまり、全身が凍り付いたかのように。



「ラディウス、何かしたの?」


「するわけがあるか。話したことすらないぞ」



 レンはもちろん冗談で聞いていた。

 理由は分かっている。リズレッドはラディウスを見て驚いただけだ。



「私はもう食事を済ませたし、図書館に行ってくる。新人職員のミレイと仕事のことで少々話さなければならない」


「こういうときのために、ミレイさんは非常勤になったわけか」


「そういうわけだ。それでは悪いが、私はもう行く」


「りょーかい。じゃあ、またね」



 ラディウスに用事があったことは事実だが、他にもリズレッドを気遣っての振る舞いだ。席を立った彼はそのまま一人で歩きはじめ、周りに目もくれず食堂から立ち去った。



 すると、リズレッドが様子を伺ってから、今度はゆっくりとした足取りでレンの方に歩いてきた。

 数歩遅れてヴェインたちもやってくる。



「朝はばたばたして、すみませんでした」



 リズレッドはぺこりと音が聞こえてきそうな、小さくも丁寧なおじぎをしてからレンに言う。



「私はリズレッド・アーケイです。ご存じのようにリノ・アーケイの末裔で、私もそこそこすごい魔法使いです」



 そこを聞き逃さないのがシャーロットだ。



「リズあなた、自分ですごい魔法使いって言うの恥ずかしくない?」


「……だからそこそこって付けたんじゃないですか。それと、改まって指摘されるとちょっとだけ照れ臭いので、言わないようにしてほしいです」


「はいはい。今度からそうしてあげる」


「まったく……シャロは身体ばっかり成長して。どこに行っても恥ずかしくないレディになるためには、相手への気遣いも重要ですよ」


「安心してくれる? リズ以外にはきちんとできてるから」


「みょ、妙に腑に落ちない返事ですが……今回はこのくらいにしてあげましょう」



 彼女たちのやり取りが終わり、リズレッドがレンに意識を戻した。



「あなたにお願いがあるのです。アシュトン先輩」



 珍しい。

 というかこれまで近しい後輩がいなかったから、レンはいまのような呼び方をされたことは少ない。

 先輩と呼ばれたレンが、そういえば自分は二年次になったんだ、と再確認した。



「俺にお願い? ってか、俺のこと知ってたんだ」


「アシュトン先輩が私のことを知っていたように、私もアシュトン先輩を知る理由はいくつもありますから。特に当家は剛剣使いと相性が最あ――――もとい、因縁もありますので!」


「……星殺ぎを使う俺たちは、魔法使いにとって天敵みたいなものだからかな?」



 星殺ぎは纏いの力を駆使することで、魔法すら断ち切る剛剣使いの戦技(アーツ)

 剣豪になったことの証でもあることから、星殺ぎを用いる者は剣の扱いにも長けている。ただでさえ白兵戦を苦手とする魔法使いにとって、天敵以外のなにものでもなかった。



「そ、それです! あんなのずるです!」


「いや、ずるって言われても、あの技を編み出したのは獅子王だし」


「……ぐっ。さすがの私も、獅子王には何も言えませんが!」



 リズレッドは決して剛剣使いへの不満を口にしたかったわけではない。少しだけ話がそれてしまった。

 彼女はレンにお願いがあると言っていた。話はここで本題に戻る。



「あのですね」



 と、改まった前置き。



「今度の連休、私たちと一緒にウィンデアへ行きませんか?」


「行かないかな」



 想定外に早すぎる返事にリズレッドの口が半開きになってしまう。どうやら力が抜けているようだ。

 彼女の反応がいちいち面白くて、レンもつい笑ってしまう。



「どうしてダメなんです!?」


「先に予定を入れちゃってたから、ごめんね」


「うぐっ……よ、予定ですか……」



 紋章付き(エンブレム)の件を詳しく話すことはしない。

 


「では……無理にとは言えませんね」



 意外と素直に諦めたリズレッドがレンに背を向けた。

 彼女は大股で歩き出し、食堂の外へ向かった。



「行きますよ、カイト。約束していた昼休みの訓練です!」


「待て待て! どうして食堂に来たと思ってんだ! まずは昼飯だろ!」


「おっとっと……そうでした。すみません」



 二人のにぎやかなやり取りの横で、次にヴェインがレンを見た。



「急にごめん。レンの噂を聞いて、よかったら一緒にって思ってたみたいでさ」


「腕を買ってもらえるのはうれしいけど、ごめん。さっきも言ったけど、俺も予定があって」


「いいよいいよ。俺もレンと一緒に行けたら嬉しかったけど、急にこんなお願いをしたほうが悪いしな」



 レンはヴェインたちと同じところへ行く予定だが、別行動の方が都合がいいからこればかりはどうしようもない。

 詳細は語らずとも理解は得らえた。



 またここにはいないがもう一人、一年次の特待クラスに英爵家の者が入学しているはず。



 これでようやく、七英雄の末裔が全員学院に揃った。

 ただ、レンがわざわざ最後の一人に自分から会いに行くことはなかった。

 どうせ同じ学院の生徒なのだ。どこかで出会うこともあるだろう。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 数度の試験飛行を経て、魔導船レムリアの修理が終了したと判断された。

 空中庭園のドックでヴェルリッヒが腰に右手を当て、左手を伸ばして持っていた紙をレンに見せつける。

 レンがリズレッドと知り合った日の放課後だった。



『ここに”レムリア”を認め、特定空域を除く空域の飛行を許可する』



 関係各所の確認もすでに終え、これで試験飛行以外でもレオメルの空を飛ぶことが許可されたことになる。

 魔導船乗り場の利用は各都市とのやり取りがあるそうだが、それは各地の領主やら責任者とのやり取りになるため、すべてレザードの仕事だ。

 そちらもいくつか、すでに滞りなくやりとりが交わされていた。



「ってなわけで、レムリアは完全復活だ!」



 見てくれは先日見たときと変わらず。

 しかしレムリアは、前日より堂々としているように見えた。



 レンはヴェルリッヒが突き出した手元にある許可証をまじまじと見る。

 彼の隣では、彼に同行してここにやってきたラグナがレムリアを興味津々な様子で眺めていた。



「噂に聞いたことがある。間抜けな皇族のせいで使えなくなった船があったそうだが、これがそのレムリアか。これほど見事なものだったとは」


「おうおう! そこのあんちゃんは見る目があるな!」


「ああ、とても美しい。この船に俺が渡した龍脈炉が使われてると思うと、それも悪い気がしないな」


「んお? あの龍脈炉はあんちゃんのもんだったのか?」


「そうだ。レンに謝礼として渡したものなのだが、想像以上に有用な使い方だった。賞賛に値する」



 許可証を読むレンの傍で、初対面の男たちが言葉を交わす。

 どちらも気難しい一面のある、言わば面倒な男たちなのだが、変わった面がある者同士でも相性は悪くなさそう。



 ヴェルリッヒとラグナの間で自己紹介が交わされた後のことだ。



「ヴェルリッヒさん、早速、今度の連休に俺たちを連れて行ってほしいところがあるんですけど、大丈夫ですか? レザード様の許可もあるので」


「いいぜ! もう好きに飛ばせるしな!」



 レンがちらっとラグナを見て、説明を委ねた。



「レンに紋章付き(エンブレム)を受託してもらった。俺が魔導船を用意してもよかったのだが、明らかにこのレムリアの方が性能がよさそうだから、よければこちらの魔導船で行きたいと話していた」


「ほうほう……ま、そんじょそこらの魔導船じゃ太刀打ちできねーだろうな」



 ただの自信ではない。

 間違いなくそうだと確信しての声だった。



「いいぜ。つづけてくれ」



今日もアクセスありがとうございました。

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