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物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
五章・剣聖が謳う。

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手紙と絵。

更新までお時間をいただいてしまい恐れ入ります……。

お休みをいただいておりましたが、本日から更新を再開してまいりますので、5章の物語、レンの活躍などをお楽しみいただけますと幸いです!


※夏に発売予定の3巻は、既刊以上のボリュームによる加筆や改稿でお送りできるよう引き続き準中です!


 手紙を受け取った者に思うことがあったのか、手紙の端には僅かにくしゃっと皺が付いている。



「ジェノって、この孤児院の院長さんかしら」



 リシアが横から手紙を覗き込んで言う。

 つづけてフィオナがその反対から覗き込み、リシアと声を交わす。



「だとすると、院長さんのご友人からの手紙みたいですね。魔王の襲撃があった時代に天空大陸へ行ける人なんて、すごく少ないはずなんですが……」


「そうなんですか?」 


「ええ。当時はまだ魔導船の技術が発達していなかったので、空に浮かんだ天空大陸に行く手段は限られていたみたいです」



 つづきが気になっていた三人。

 レンが別の手紙にも目を向けた。



『俺が送った龍食花(ドラゴンイーター)の種を、植えずに研究所に送ったことは許すことにしたよ。あれは確かに俺が悪かったかもしれない。でも珍しい花だから、大事にしてよ。それと、こないだマーテル大陸でミリム・アルティアと会えた。他の六人に内緒で会って色々と作ってもらえたよ。これでそっちに帰ることができる』



 ミリム・アルティア。

 ネム・アルティアの先祖にして七英雄の名がでたことにレンが、リシアが、フィオナが驚きを隠しきれなかった。



「龍食花って、絶滅した魔物じゃ……」



 リシアが唖然とした声を漏らし、フィオナがつづく。



「ええ……その名の通り、龍種を餌とする巨大な花の魔物です。貴重な種が帝立博物館に保管されていたはずです……」


「そんな種をどうして孤児院の院長に――――レン! 封筒に送り主の名前は書いてない!?」


「書いてません。送り主の名前も受取人の名前も」



 首を左右に振ったレン。

 この手紙に書かれていることが本当かどうか論ずる必要があるとしても、それ以前に彼ら三人は、書かれていることの規模が大きすぎたせいで驚きの感情が何よりも勝っていた。

 やがてフィオナが、



「――――こういう事情もありそうです」



 公的な機関やギルドに頼んで手紙を交わした可能性が限りなく低い。

 フィオナが言うには、こうした私的な手紙を渡す機会は大抵、両者の間で特別な従者を挟んで秘密裏に手紙を交わしている場合が多いそう。



 つまり、院長と手紙を交わしていた人物は訳アリである。

 手紙に書かれたことが真実であるなら、間違いなく。



 便箋はあと一つだ。

 つづきが気になる三人を代表して、レンが中身を取り出した。



『ここにきて問題というか心配事があるんだけど、あの子、また俺と話してくれるかな? ほら、前は俺を追い払う方便だったり……ああいや、ジェノの妹を悪く言うつもりじゃなくて、心配で心が落ち着かないと言うかなんというか……。わかるよ。この手紙を読んでいるジェノが俺に、黙って帰って来いって考えていそうなこともね。だからとりあえず、急いで帰るよ』



 こんどの手紙は先ほどと落差がありすぎて、三人の身体から少し力が抜けた。

 手紙は最後にもう一つ。



『魔王との戦いがつづいてるから、孤児が多いっていうのもわかる。けど、ジェノだって大変だと思う。本来の立場(、、、、、)もあるわけだしさ。無茶してばっかりの俺に言われるのは嫌だろうけど、無理はしないように』



 読み終えてもジェノという人物が何者なのか、彼に手紙を送っていたのが誰なのかはっきりしなかった。

 わかることは少ない。手紙の送り主がミリム・アルティアと知り合いだったことと、送り主がジェノという人物の妹に好意を抱いていることくらい。



 それでもレンは不思議と、送り主が自分の先祖――――冒険家アシュトンのような気がしていた。多くが直感によるもので、もしかしたら……という程度でしかなかったが。



「この手紙は持って帰った方がいいわね」


「そうですね。神秘庁も関わりますから、その方がいいと思います」


「では、俺が持っておきますね」



 レンは上着の内ポケットに手紙をしまってから、壁画に意識を向けた。

 壁一面の絵は、手前に設けられた祭壇より上に描かれている。壁画もそうだが、レンは祭壇に置かれていた小さなキャンパスを気にしていた。

 ここに描かれているのは、一組の男女の姿である。



「このお二人、すごく幸せそうです」



 フィオナが微笑みを浮かべて言った。

 場所はこの孤児院の外のように見える。庭園の片隅にある木製のブランコを揺らす少女と、少女を近くから見守る男が描かれた風景画だ。



 男性の軽装と女性のドレス姿という差が少し気になるが、見ている者を暖かな雰囲気にさせてくれる優しい絵だった。壁画を描いたのと同一人物の作品なのか、二つは雰囲気がよく似ている。

 


 リシアとフィオナはわざわざ声に出して話すことはなかった。



 描かれた男性の顔立ちはほんの僅かだがレンに似ていて、優しい雰囲気に至ってはよく似ていた。

 だが明らかに別人だから、気のせいだろうと思い口にしなかった。




 ◇ ◇ ◇ ◇




「卒業したらうちに来ないか?」


「来ません」



 同日夜、話を聞いたラグナがレンを神秘庁に招待していた。

 この部屋自慢の巨大すぎる窓の外に、エウペハイムの美しい夜景が広がっている。



「ってか、いきなり勧誘された意味がわかりません」


「開かずの扉を開けてくれたんだ。説明ならそれ事足りる。本気で考える気はないか? 俺はレンの人となりを気に入っている。どうせなら、俺の助手として入庁するとか」


「すみません。俺はいずれ村を継ぐ予定なので無理です」


「……ふむ」



 以外にもすんなり引き下がったように見えたが、ラグナはレンを見ながらつづける。



「非常勤ならどうだ?」



 食い下がったのである。

 しかし、それもどうかと思ったレンが、



「時間があるとき、俺に余裕があったら少しくらいなら手伝えますよ」


「十分だ。友人として付き合いをつづけてくれるのだろう?」


「まぁ、似たようなものですね」


「ならいい。――――それにしても興味深い」



 扉が開いた孤児院を見たあとで、レンたちは、他の開かずの扉も開けられないか確かめた。しかし他の扉は微動だにせずどんと構えており、孤児院だけレンに反応を示した結果となった。



 これにはラグナも原因不明の現象と言い切る。

 いまは孤児院の中への興味が強すぎたから、それどころではなかったこともあるが、



「絵もよくわからんし、ジェノという人物の名も聞いたことがない。愛称の可能性もあるから歴史書を読み漁り、似た名前の人物を探すしかなさそうだ」


「手紙の送り主が、あのミリム・アルティアと知り合いだったこともありますしね」


「それはあまりあてにできない。当時の人間関係ほど調べにくいものはないさ。金を払い仕事を依頼していたら、それこそ調べようがない。ただの客だ」


「あー……じゃあ、神秘庁で少しずつ調べるしかないでしょうか」


「それも悪くないさ。祭りは準備期間が何より楽しいとも言われている。ロマンを追うのもまた同じだ」



 ラグナはいまにも踊り出しそうなほど上機嫌だった。



「ああそうだ。そこの絵は持って帰って構わないぞ」



 小さなキャンバスに描かれた絵のことだ。

 レンは描かれた人物が誰かわかるかもしれないと思い持ってきた。小さいから、持ち運びも楽なのも影響して。



 ……というのは、ただの言い訳かもしれない。

 これもまた確証のない第六感のようなもので説明するのが難しいが、



(持って帰ってほしそうに見えたんだよな)



 レンが思い出しながら声に出すことなく、絵を見て考える。

 絵が人の手により持ち帰られることを望むだなんて、自分でもどうかしているとしか思えなかった。



「美しい絵だと思うが、そのくらいだ。紙が特殊なわけでも、絵に使われているインクが特殊なわけでもない。キャンバスの中に何か隠されている可能性も考えたが、いくら調べても何もない。どこからどうみても美しいだけの絵だ」


「美術品として、歴史的な価値があるかもしれませんよ。ラグナさんが好きなロマンがありませんか?」


「俺はロマンを抱かせてくれるものへの敬意も忘れていない。そうなれば研究室に置いておく方がもったいない」


「だとしても、発掘した品を持って帰っていいんですか?」


「ああそうだったな……忘れていた。あの地で発掘された品だが、確かに神秘庁が管理に携わっている。大いにな。だがイグナート家も密接に関りがある。純粋な美術品の管理はあちらさんだ」



 元を辿ればレンはラディウスの紹介を経てラグナと知り合ったこともあり、信用に関わる心配事は一切なかった。……ユリシスとの縁もあるだろうが。



「じゃあ帰りに、ユリシス様に話しておきますね」


「どうせあの男も好きにしてくれと言うだろうさ。そのときはエレンディルの屋敷で大事に飾ればいい。描かれた二人が幸せそうでいいじゃないか」


「それはそうですけどね」



 時間はもう夜の十一時を過ぎている。

 ラグナが欠伸を漏らした。



「あとは、机の中にあったという黒く腐食したコインのことだ。あの腐食した品々は孤児院と何か関係があるのか……? 興味深い」



 まぁいい、あとで調べる。

 ラグナが欠伸を交えながら言った。

 するとレンが、孤児院で開けられた扉のことを口にしていく。本当に特筆すべきことは何もしていないから、気になることばかりだ。



「あの扉、どうして俺が開けられたんでしょうか」


「さっきも言ったがわからん。魔道具の動作が終了する直前にレンが触れたのかもしれないし、別の要因があるのかもしれない。知っての通り、ミリム・アルティアの魔道具はほとんど解析できていない。現アルティア英爵ですら解析が難しい未知の技術だ」


「ですよねー……」


「魔道具研究が世界一のレオメルでわからない現状を鑑みれば、解析できる日はまだまだ遠いかもしれん。あまり期待しないことだな」



 残念そうに言ったラグナが少し面倒くさそうに、



「俺が嫌いなシェルガドの技術でも解析できんだろう」



 レンは「へぇ」と呟いた。



「シェルガドの技術力もすごいんですね」


「奴らは腐っても世界第二位に数えられる軍事大国だ。それ相応の技術力をどの分野でも誇っている」


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