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物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
五章・剣聖が謳う。

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気になるポスター。

原作2巻が好評発売中です。

引き続き、どうぞよろしくお願いいたします!

1巻(電子版)は各所でセール中なので、引き続き併せてご検討ください!


挿絵(By みてみん)

 レンとリシアに訪れた変化があった。

 リシア様、という呼び方がリシアに代わってから二か月も経っていない。

 獅子王大祭の最中、何かあったのだろう。周りの生徒たちはそれしかわからず、リシアに尋ねる者もいたが彼女は特に語らなかった。



 呼び方の変化が周知のものとなったのは、ローゼス・カイタスを覆う時の檻が消えて間もない頃のことだ。

 教室で、レンがいつものようにリシアに声を掛けたのだが、



リシア(、、、)、帰りましょう』


『ええ』



 いつもと違う呼び方だったことが、特待クラスの生徒たちを驚かせた。

 レンは平然としており、呼ばれたリシアも当たり前のように応じていたから、周りの生徒たちは何が何だかわからなかった。



 中でも、セーラは特にそうだった。

 しかし彼女はすぐに微笑み、リシアが頑張った結果と勘付く。

 驚く生徒たちの中でも彼女だけが、嬉しそうに見守っていたくらいだった。

 だが、何事も慣れはあるもので、レンがリシアを呼びすてても周りは徐々に反応を示さなくなる。



 いまとなっては、他の生徒が二人の会話を耳にしてもわざわざ顔を向けることはほとんどない。

 獅子王大祭以前の空気が戻っていた。



 一年次の特待クラスの外でも、名前の呼び方への変化は話題になった。

 リシアに後れを取るフィオナが人知れず自身を鼓舞することもあったのだが、あくまでもそれはそれ。彼女の奮闘はこれからだ。



 ――――朝方の学院に、普段より早く登校していたレンとリシアの二人。

 彼らは学院長室へ足を運び、世界最高の魔法使いの一人と称される、クロノア・ハイランドと会っていた。

 クロノアはリシアの手に触れて、



「神聖魔法は使い手が極端に少ないから、あまり研究が進んでないんだ」



 リシアが発現させた翼のような力は例になく、叡智に富んだクロノアにも理由がわからなかった。

 いまの話はレンとリシアが相談して決めたことだ。

 あれほどの力を無意識に行使したことを、リシアは誰にも明かすことなく日々を過ごすことはできなかった。



 頼りになるのは、やはりクロノア。

 父のレザードにも何があったのか騒動のあとで話している。他に詳細な事情を知るのはクロノアと、あの日、レンとリシアを迎えに来たフィオナだけだ。



 ユリシスやラディウスに話すのは、もう少し落ち着いたら。

 そう決めていた。



「ごめん……うちにある本を読み漁ってるんだけど、こっちにもめぼしい情報がなくて……」



 学院長の屋敷には数えきれないほどの蔵書を誇る書庫があるという。

 そこを探したが、同じ現象は見当たらなかった。



「い、いえいえ! 気になさらないでください! 元はといえば、私がよくわからない力を勝手に使っちゃったからですもの!」


「でも、リシアちゃんの意思じゃないよ!」


「お二人とも、元はと言えば時の檻と剣魔が原因なので、そもそもの話も間違ってますよ」



 原初の問題はこれだ。

 リシアとクロノアはレンの言葉を聞いて確かにと頷く。

 


「俺が原因なのかリシアが原因なのかもうわかりませんが、いずれにせよ、俺たちは巻き込まれた側です。リシアは何も悪くありません」



 バルドル山脈でレンに力を貸した黒の巫女の効力が残っていた。それか、リシアの白の聖女としての力を、封印が剣魔を倒す助けとして彼女ごと呼び寄せてしまった。

 後者の場合、ギヴェン子爵の件でリシアから得た影響が関係した可能性も。

 あるいは前者と後者の両方? 

 レンも同じように巻き込まれたから、無関係ではない。



「あと、前に話したようにエルフェン教周りには近づかないでおきましょう」



 もしも最初からエルフェン教が二人に手を出そうとしてたなら、もっとうまくやっていたはず。

 だとしても、元より夏の経験からいまは忌避感しかないのだが。



「無理に接する必要もないしね。もしも白の聖女に対してって意味で、エルフェン教から連絡が来たら教えて。ボクが理由を付けて断ってあげる」


「クロノア様、いいんですか?」


「もっちろん。一番大事なのはリシアちゃんの身体だよ」



 金糸に似て艶やかな髪を揺らし、優しく告げる。

 彼女は手を伸ばし、リシアを撫でた。




 ◇ ◇ ◇ ◇




「はいっ! ちゅーもくちゅーもく!」



 昼休みになり、快活な声で友人たちの注目を集めた少女がいた。

 英爵家が一つ、アルティア家の令嬢、ネム・アルティアだ。

 彼女の声を聞き、近くの席で思い思いに昼食を楽しんでいたレンとリシア、それにセーラとヴェインの四人がやってくる。



「どうしたんですか、アルティア嬢」


「あーほら、また戻ってるよ、レン君!」



 小柄なネムがニヤニヤ笑いながら、左右の指でばつ印を作った。



「前に話したよね? ネムとセーラちゃんのことはさんで呼ぶようにって」



 レンは同年代の生徒が相手でも、相手が貴族であれば呼び方に気を遣っていた。

 しかし、レンがリシアを呼び捨てるようになったことがきっかけとなり、いまは春や夏と違い砕けた態度で接していた。



「癖なのでつい。気を付けます。アルティアさん」


「んむんむ。では今回のことは許しちゃおうかな~!」


「それで、急にどうしたのよネム。ってかここ、あたしの机じゃない」



 セーラがネムに話しかけた。

 ネムがわざわざセーラの席に皆を呼びつけたのには理由があった。



「これを見てほしいんだよね! ネムが今朝仕入れたばかりのとっておきだよ!」



 ふんす、と鼻息荒く腰に手を当てて立ったネムが意気揚々と言う。

 ネムはこの机の主であるセーラに承諾を得ることなく、小脇に抱えていた丸められた大きな紙を机の上に広げる。ポスターのようだ。



「どうどう? すっごいでしょ!」



 ヴェインがそれを見て、思い出したように手を叩いた。



「聞いたことがある。新しい長距離鉄道なんだって?」


「そそっ! この冬、遂に一般にも開通するって噂のね!」



 ネムが広げた大きなポスターは見目麗しい最新の魔導列車が描かれたもので、その名も『ガーディナイト号』という。

 レオメルの古い言葉で、穢れのない騎士を差していた。



「あのイグナート侯爵が主導で開通にこぎつけた、いま一番話題の鉄道だよ!」



 これまでは魔導船による空の旅が一番とされてきた。

 けれども、今回は鉄道とあるように地上の旅。

 帝都を発って、途中、魔導船乗り場が存在しない都市を何駅か経由することで、終点のエウペハイムへ向かうものだ。

 新たな線路は国防の面でも使い勝手のいい、新たな交通網だった。



 ……七英雄の伝説ではこの冬に命を落とすユリシスが、最後まで開通できなかった代物である。フィオナを亡くしたことで、彼はすべてがどうでもよくなっていたのだろう。



「あれ、ガーディナイトって、エレンディルも経由するんですか?」


「そだよー? もしかしてアシュトン君、知らなかった?」


「ですね。初耳です」



 レンはユリシスの元で多くが計画されていたことを小耳に挟んだことはあっても、そのくらい。

 彼は隣にいるリシアを見て、



「リシアはどうですか?」


「私は知ってたわよ」



 リシアが声を潜ませてレンだけに言う。

 二人の距離は、呼び方の変化と同じで物理的にも近づいていた。



「もう何年も前から工事がはじまってたんだけど、はじめはエレンディルに寄る予定じゃなかったみたい。でもほら、私たちもイグナート公爵と縁を持てたでしょ?」


「ああ、そういう感じだったんですね」


「でもイグナート侯爵だから、きちんと計画したうえでのことだと思うわ」


「これほど大きな事業となれば、さすがに私情だけではないでしょうね」



 あのユリシスが私情だけでこれほどの事業に変更を加えることはないだろう。

 諸々を確認し、利点があると判断してのことは想像できる。

 


「それでネム、急にガーディナイトのポスターなんか持ってきてどうしたのよ」



 セーラが首を捻りながら言えば、ネムは一瞬きょとんしてから、あまり考えることなくけろっとした様子で言う。



「だって楽しそうじゃん」



 昼休みの鐘の音が響いた。



 ……そんなことが昼にあり、午後の授業が終わり放課後が訪れる。

 放課後、校舎内の廊下を歩く二人が言葉を交わす。



「今朝からなんです。今日から公に情報が公開されることになりましたから、アルティア様はそのポスターをどこかから貰ってきたのかもしれませんね」



 窓から差し込む夕暮れの陽光に横顔を照らされたフィオナが、微笑みを浮かべて言った。

 彼女の黒曜石を思わせる髪に、絹に似た光彩が落ちている。傾城とも称される顔立ちと人懐っこさを共存させた、どんな宝石も霞む少女だ。

 ジャケットを着ていてもわかるプロポーションのよさもあり、異性を虜にして止まない。



「そうでした! 近いうちに、お父様がエレンディルに向かわれると思います! ガーディナイトのことでお話があるんですよ!」


「ユリシス様が?」


「はい! 一般に開通する前に、事業に携わってくださった皆様へ――――」



 こくりと頷いたフィオナの微笑みに、窓から差し込む茜色が乗る。

 自慢の黒髪が、彼女が動くのに倣いふわっと揺れた。 


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