表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
五章・剣聖が謳う。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

191/257

5章のプロローグ:遠い昔の出来事。

おまたせしており申し訳ありません……!

本日から最新章の更新をして参りますので、またどうかお付き合いいただけますと幸いです。


明日発売となる書籍版2巻とともに、どうぞよろしくお願いいたします!


 これは、遥か昔のこと――――

 一人の少女が、彼女を抱いたまま駆ける男の顔を見上げていた。

 じっと見ていることが気付かれたらどうしよう、そう迷いながらも、自分を外の世界に連れ出してくれた彼のことを見つづけてしまう。



 ふと、男が言う。



『一度休憩にしましょう』


『ええ』



 ふわっ、とドレスの裾が地面に降りた。

 いままで彼女の身体を支えていた彼の体温も離れていく。

 それがいまは、寂しく感じた。



『……変なの』



 たかがそれだけのことを惜しく思う自分がいたことに、彼女……蝕み姫と呼ばれていた少女が笑った。



 見渡す限りいっぱいの森を、彼が山の名残りだという大岩の上から見る。

 幽閉されていたときの小窓と違い、世界はこんなにも広いのかと驚かされる。

 両腕を広げても近付く壁はなく、ただただ、自分がどれほど小さな存在なのか教えてくれる大自然の中だった。




『ここが森っていうところ?』



 数歩離れたところに立つ彼に問いかけた。

 少女にとって植物は間近で見ることができないもの。近くにあるとすぐに蝕まれてしまうから、こんなにも多くの木々を見たことは一度もなかった。

 物心ついた頃から幽閉されていたから、時折、芝生の緑をみたことがあるくらいだ。



 話しかけられた男は蝕み姫を見て、



『そうですよ。ちなみにこの辺りは森の海と呼ばれています。ここを抜けると本当の海、エルフェン大海が見えてきます』


『海……本で読んだことがあるわ。お風呂をどれだけ繋げても足りないくらい、大きい水たまりなのよね?』


『水たまり……似たようなものかもしれませんね』



 蝕み姫をここまで連れてきた男は苦笑を交え、否定せず頷いた。

 広大な森のその奥を見て、海の存在に思いを馳せる彼女へと、



『ってか、このあとのことを考えないといけませんね』


『このあとのことって? 私はあなたの傍にいるけど、それ以外のこと?』


『もちろんです。これからどう暮らしていくか……とかですね。何か希望はありますか? 正直俺は、何も考えないで貴女を連れて来たので』



 男が悪びれる様子もなく言えば、蝕み姫が若干力のない声でこう言う。

 ただ、こうしたやりとりも嫌いじゃないと思える自分に苦笑してだ。



『……む、無計画だったのね。それで私を追う人から逃げ切るって、あなたいったいどうなってるの?』


『いやー我ながら、貴女を連れだすことしか考えてなかったので』


『……私のことだけ?』


『そうですよ。先日までなら三つの宝物を集めることと、ミリム・アルティアに魔道具と薬の作成を依頼することしか考えてなかったですし』



 蝕み姫が最優先だった事実がそれはそれで悪くないと思い、彼女は微かに上気した頬が彼に見られないよう背を向ける。

 どこか遠く、森を眺めているふりをした彼女が平静を装った。

 ドレスの裾が心地よい風に揺れている。



『これから、どういうところに住みたいですか?』


『明るくて静かなところがいい……かも。暗いところはもうたくさんだから』



 静かなところがいいというのは、好みから。

 男もそれがいいと深く頷いて、蝕み姫の隣に歩を進めた。

 蝕み姫が横顔も見られないように改めて顔をそらす。けれど、無意味な抵抗であることを、彼女はすぐに知らされる。



『隠していらっしゃるんだと思いますが、赤くなってるのはバレてますからね』


『っ~~!?』



 すると、蝕み姫が慌てて男に振り向いた。

 上気した顔のまま、いままでになく焦り、不満そうに照れた可愛らしい顔で男に指摘する。



『わ、わかってても言わないのが礼儀でしょ!?』


『すみません。嬉しかったので、つい』



 男は笑って蝕み姫を抱き上げた。

 急なことに『きゃっ』と可愛らしい声を上げた少女が彼を見上げ、



『急にどうしたの?』



 先ほどの照れ隠しを継続して、やや唇を尖らせる。

 


『今後のことが決まりましたし、早速、買い出しに行きましょう。森で野宿はもう十分楽しめましたしね』


『わかったわ。それじゃ、いまから行く場所に住むのね?』


『いえ、買い出しだけです。いまから行くところは結構な都会なので、あまり静かではありませんから。……というか追手が来たら面倒ですし、追手の仲間もいるはずです。滞在は数日にしておきましょうか』



 男が大岩を蹴り、前方へ勢いよく進んだ。

 蝕み姫は勢いのある向かい風に驚くことなく、この加速を恐れることなく身をゆだねていた。

 風切り音で声が聞こえ辛いから、二人はやや大きめの声で、



『私、お金は持ってないわよ!?』



 まずは彼女の可愛らしい心配事から。



『俺が持ってるので大丈夫ですよ!』


『……いいの?』


『俺が連れだしたんですから、当たり前です! それといまのうちに伝えておくと、現地で俺はちょっと友人(、、)と会う予定です!』


『うん! わかった! それで、これからどこへ行くの?』



 尋ねられた男が言う。



『――――とても大きくて、美しい港町です!』 



 当時の世界において、まだ魔王が生きていた頃。

 七英雄たちがいまだ旅をしていた時代のことだった。

 



これまでの謎と恋愛、そして戦いや成長など盛りだくさんでお送りできればと思いますので、何卒よろしくお願いいたします。


また明日、原作2巻が発売となります!

1巻よりもっと分厚くボリュームに富んだ一冊となり、リシアやフィオナのシーンをはじめ、改稿を重ね多くの加筆をさせていただきました。

特典SSもたくさん書かせていただいておりますので、詳しくは私のTwitterか、電撃公式さんの情報をご覧ください!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
>>>3巻が好評発売中です!<<<
k9t0jgcm7u679lcddexxirle65p1_15qj_m8_vl_inir
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ