【1巻発売記念SS】秋のはじめの出来事(4)
仕事で更新が遅くなり申し訳ありません……!
町中を三人で歩きながら。
リシアとフィオナの二人は、どこかに護衛が隠れているだろうと思いながら。
セーラがハッとした様子で二人に言う。
「やっぱり、地面を掘るのよ」
昨晩、セーラがエルクから聞いたという話だ。ノーマン商会は地ならしなどに使う魔道具などを購入したことから、それを使うはずだと言ったのだ。
「使うならそうでしょうけど、何のために?」
「それは……掘ることで良いことがあるからだと思う」
当たり前のことを言われても、リシアは「でしょうね」としか反応できなかった。
「……フィオナ様はどう思われますか?」
「掘るというよりは、掘削と表現するといいかもしれませんね」
フィオナは人差し指を色艶のいい唇にあてた。
何の気なしの別に何も意識していない仕草が、彼女の息を呑む美貌をより一層際立たせる。
しかし、その美貌に惹かれる第三者はいなかった。
三人がこうして歩いていると騒ぎになっても不思議ではないため、よくある旅人風のローブを羽織っていたからである。
これにより、若い冒険者三人組といったところ。
「ガルガジアは昔、温泉水が湧き出る場所だったって聞いたことがあります。いまでは枯れてしまいましたが、以前はそれを目当てに多くの人が足を運んでいたみたいですよ」
「例の地権者の土地も、その中に含まれていたんですね」
「はい。だから地権者一族も昔はすごく儲けていたと思います」
「……あ、だから山の一部しか売却しなかったのかしら」
リシアの呟きにセーラが「そうだわ!」と反応を返す。
「地権者は土地を売ることに難色を示していたって聞いたことがある! もしかして、いつかまた温泉水が湧き出るって信じてたのかも!」
「魔道具を無理にでも買い漁ってたのが、その影響ってこと?」
「ええ! そうすればしっくりくるでしょ? 地質調査もあるから、また温泉水が湧き出る目途が立ったのかもしれないわ!」
しかし、フィオナが申し訳なさそうに、
「ノーマン商会が共同で事業起こすための賄賂なら、特に違和感はありません。他の商会に先んじて独占的に行うのであれば、地権者を動かすために払うのも無理はないでしょうから」
だが、
「その……そうなると今度は、ノーマン商会の儲けが少なすぎるんです」
彼らが注文した魔道具では元が取れないと思う、フィオナはそう言った。
既に賄賂と思しき金が動いているとあって、ノーマン商会が得られるうま味が温泉水だけでは少なすぎた。
「こ、恒久的に温泉水で儲ける見込みがあるのかも……っ!」
「そのくらいの温泉水を見込めるなら、他の場所でもまた溢れ出ると思うんです。そうじゃないなら、過去に枯渇したことを踏まえて無茶な商売な気がしませんか?」
セーラもリシアも膝を打つ思いだった。
となると、どうして地ならしなどに用いる魔道具を注文したのか、また賄賂と思しき金を複雑な流れを以て送ったのか。
魔導船乗り場で式典が開かれているため、町中も賑わっていた。
その人混みの中を進みながら、リシアは声に出さず考える。
(理由があるから、無理やりなことをしてるはずよね)
主に、儲けられる理由があるからだ。
しかしフィオナが言うように懸念もあって、どこかハッキリしてこない。
「そこの冒険者さんたち! ほらほら見て行って! 今日はお祭りだよ!」
三人を見て、露店の店主が声を掛けた。
すると三人は考え込みながらも露店に近づき、店先に並んだ木箱に敷き詰められた品々に目を向ける。あるのは安価な魔石や果物、簡素な衣服など。この露店は雑貨屋のようだ。
「……」
「……」
ふと、リシアとフィオナの二人が魔石に目を奪われた。
一見すれば磨き上げられていない鉱石にも見える魔石を前に、彼女たちはじっと考える。
「――――フィオナ様」
「――――リシア様」
数秒後、二人は同時に互いの名を口にして、頷き合う。
「私はきっと、フィオナ様と同じことを考えていると思います」
「ふふっ、ええ。私もそう思います」
露店の店主は他の客に気を取られており、三人の会話を聞きそびれた。
「ちょっと二人とも、何がわかったの?」
不満そうに唇を尖らせたセーラ・リオハルド、英雄の末裔の頭をリシアが撫でた。
「フィオナ様が言った掘削の話ですけど、それで間違いないのかもしれませんね」
「はい。意外とそうだったみたいです」
平時であれば頭を撫でられたら「子ども扱いをするな!」と不満をあらわにしたであろうセーラも、いまは興味が勝っていた。
「セーラも知っての通り、街道整備のために土地を買い取るときって、その土地の状況を調べるはずよね?」
「普通そうすると思うけど……それがどうかした?」
「そのとき、面白いモノが見つかったのかもしれないわよ。たとえばノーマン商会が喉から手が出るほど欲しくなるような、そんなモノがね」
「温泉水とは別にってことよね?」
「ええ。それでいて、以前枯渇した温泉水より高価な品よ」
「私もリシア様も、もう少し調べておきたいと思っていることがあるんです。でも、この様子だと確定でしょうか」
「きっと。――――確かガルガジアには図書館がありますから、一度足を運んでみましょう」
リシアの提案を聞いたフィオナが頷いた。
セーラも途中で「もしかして」と言い、静かに応じたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
図書館に足を運んだ三人は周辺の地図を探し、それを手にして机へ向かう。
広げられた大きな地図には、数百年前といまの比較が載っていた。
「ここが私たちのいる場所です」
フィオナが古い地図の地形を指先でなぞった。
「私がなぞっている青い線は、枯れる前に存在した温泉水が流れる地下水脈です。ご覧いただいているように、昔は新設された街道近くの山に集中していました」
(地権者一族は以前、どれくらい儲けていたのかしら)
リシアがそう思わざるを得ないほどの規模だった。
温泉水と侮るなかれ。歴史を紐解けば解くほど、過去のガルガジアにその温泉水を求めて足を運ぶ者が多かったことがわかる。
かの一族が過去の栄華に縋りたいと思っても、仕方のない話だった。
「ですが、お二方もおわかりのように、今回は温泉水は関係ありません。――――ううん。関係ないと言ったら嘘になるんですが……」
「フィオナ様の言葉に付け加えるなら、その副産物ですもんね」
「そうです。だから恐らく、調査中に明らかになったのは――――」
答えに至るべく、フィオナがもう一冊の本を机に広げた。
タイトルは『魔法学のすすめ』だ。
奇しくもその本は、リシアとセーラ、レンの三人が試験勉強に用いたことのある学術書だ。
魔法学というのは、魔法はもちろん、魔力に関連した事象も含む、幅広いことを学ぶ学問である。
「コレ、だと思います」
最初の方のページにある見開きに、ある鉱物のことが書かれていた。
貴金属の一種で、高熱の地下水と大気中の魔力が岩石と触れ合うことで生じるという。
「ご覧の通り、貴金属のため高価な品です」
フィオナが示した貴金属の価格について、リシアとセーラはおおよその相場を理解している。
二人とも貴族令嬢とあって、此度の件についておおよその想像がついた。
「地質調査で地下に眠っていることがわかったみたいね。ねぇリシア、その調査にノーマン商会がかかわってるか調べたら、もう裏を取ったも同然だと思わない?」
「そうね。地権者一族も今回の事業で発見できて喜んだに違いないわ」
地権者一族は過去にも地下資源の調査をしていたはずだ。一族の考え方からそれは明らかである。
しかし少し調査するだけでも多大な資金が必要となる調査のため、そう何度もはできなかったはず。
付け加えるなら、貴金属はかなり深い場所に眠っているのだろう。
大規模事業では地質調査に用いる魔道具の性能が民生用と比べて高く、多くの人を動員できる。
いくつもの事情が合わさって、ようやく見つかった地下資源であることは理解するに難くない。
「不正の本質にあったのは、法に則っていないお金の流れだけじゃなかったということですね」
フィオナがため息をついた。
「イグナート嬢が仰ったお金の流れだけじゃない、っていうのは何のことですか?」
「地下資源を掘ることです。一般的な建築などにおける地形の調整は問題ないのですが、今回の場合、法に背いていることは明らかなんです」
セーラはまだ合点がいってなかったが、たいしてリシアは「そうですね」と頷く。
「地形への影響が一般的な建築と違いますしね。地権者が保有する山の地下深い場所で資源が見つかったのでしょうから、国の許可なしに掘ったらとんでもない話です」
地形への多大なる影響が見込まれる場合、国土に対して傷を付けるも同然である。
周辺の地形への影響があるかもわからないから、今回のような場合には、必ず帝国の機関に許可を取り、公的な調査を行ってからでないと地下資源を掘ることはできない。
過去にはその調査により、周辺への影響を鑑みて掘削が禁じられた例もあった。
「そういえば、帝国法の中にあったわね」
他の二人と違いセーラは理解するのに少し時間を要したものの、彼女も英爵家の令嬢として多くを学んでいる。
やや遅れて会話に混ざった。
「リシア。確かクラウゼルには、地下資源を掘れる場所があったわよね」
「うん。町の近くにあるわよ」
「ってことは、今回の地権者の件と違うわよね。クラウゼルの場合、掘った場合はそれが市場に出るたびに然るべき税が支払われる形になるのかしら」
仮にギルドを介したらギルドが。領主クラウゼル家を通して市場に流れた場合、今度はクラウゼル家を通して。
流れはその都度違い実際には更に複雑なのだが、いずれにせよレオメルに税が支払われる仕組みになっていた。
セーラとの会話の中で確認を終えたリシアが苦笑する。
「秘密裏にお金を払ってるあたり、ノーマン商会と地権者一族で結託して、国外で売りさばくことでも考えてるのよ。そうすれば、税を支払わずに済むからいい儲けね」
決して言いがかりなどではなく、もうそれ以外考えられなかった。
「ユリシス・イグナートを誤魔化せると思ったのかもしれません。お父様は海運に至っては一挙に担っておいでですから、必ずバレるのですが……」
とはいえ、だからといって犯罪がゼロになるわけじゃない。
偶にこういうことがある。自分たちなら絶対にバレないという自信を抱き、どうにか儲けようとする輩が現れるのだ。
(後は、お金がどこから来たのかよね)
リシアは腕を組んで考えていた。
残すはノーマン商会の規模にそぐわぬ大金である。
それが商会の未来を託すという意味で無理やり用意したと言われたら、凄い力技だと感嘆でもしよう。
だが本当にそうか? とリシアは疑問を抱く。
「二人に手伝ってほしいことがあるんです」
リシアはそう口にして、二人の注目を集めた。
◇ ◇ ◇ ◇
招待客が皆、煌びやかな服装に着替えていた。
ある紳士は一見してわかる質の良いスーツに身を包み、淑女たちは色とりどりのドレスを着こなして、パーティ会場であるガルガジア子爵邸を彩っていた。
帝都でもあまり見ない規模を誇った大広間は、ガルガジア子爵の自慢なのだとか。
総勢数百名の招待客が歓談に勤しむ。
どうせ腹芸を披露している者もいるだろうけど、それは置いておく。
この会場に集まったどの令嬢よりも目立っていた友人を見て、セーラは無意識のうちに見惚れていた。
「……リシアって、ほんとに人間?」
「まさか、熱でもあるの?」
怪訝そうな声音で言ったリシアがセーラに顔を近づけて、額と額を重ね合わせ――――かけた。
リシアは途中でここがパーティ会場であることを思い出し、自分がしようとしていたことが不適切なことに気が付く。
代わりに片手を伸ばし、セーラの肌に触れた。
触れられたセーラはリシアの白くてくすみ一つない肌に気を取られる。
「熱はないみたい。急に変なことを言ってどうしたの?」
「……ううん。こっちの話だから、気にしないで」
「そ。なら、そういうことにしておいてあげる」
それ以上の言及はなく、髪をさっとかき分けて微笑んだリシアは匂い立つような美と可憐さを湛えていた。
「去年の春より、ずっと大人っぽくなったわよね」
セーラが言った。
「そんなのセーラもじゃない。あれから一年以上経ってるんだから、当然でしょ?」
「そういう意味じゃないんだけど……まぁいいわ。とりあえず今日のリシアは、ダンスのお誘いもたくさんくるでしょうね」
(――――踊るなら、好きな人とがいいな)
幸い、爵位は低くともリシアのように聖女と呼ばれる存在であれば、誘いを袖にしたところで懸念されることは特にない。
年齢も年齢だから、相手との噂を避けたいということは誰もがわかることだ。
二人はパーティの喧騒を眺めながら、日中のことに触れる。
ノーマン商会が払ったと思しき、その規模にそぐわない大金についてだ。
「リシアはあの後、何かわかった?」
「あの後って、ガルガジア子爵家のことを調べたあとのこと?」
図書館でリシアが二人に頼むと言ったのは、ガルガジア子爵家のことを調べること。
理由はガルガジア家が関与してる可能性がないかと思ってだ。
しかしその結果、ガルガジア家の関与は見つけられなかった。
ガルガジア子爵が大金を出して地下資源を採掘する。地権者と取引する際、間にノーマン商会を挟むことで多くを偽造した。
などということはなかったのだ。
代わりに彼女たちは、興味深い情報を得ることができた。
「セーラ、ここに居たのか」
そのことを話そうとしたところへ、セーラの父が現れた。
彼女の父は話の邪魔をしたことに申し訳なさそうに謝罪して、リシアの前から立ち去った。
英爵家の者らしく、セーラは挨拶で忙しいらしい。
すると、一人残されたリシアに対し、多くの異性が目を向けていた。
誰が声を掛けに行っても不思議ではない様子の中、一人も彼女の傍に足を運ばなかったのにはいくつかの理由がある。
まず、先ほどまでセーラが傍にいたからだ。
英爵家の者と言えば派閥を問わない影響力を誇るため、様子を見ていた。
他にはリシアの容貌に見惚れたり、声を掛けることに恐れ多さのような感情に苛まれたものだッていた。
あるいは互いをけん制し、空気を読み合ったり。
リシアはこの状況を前向きに受け止めていた。考える時間を得られるからだ。
(お父様たちは恐らくもう、結論に至ってるはず)
リシア、フィオナ、セーラの三人が知恵を合わせて気が付いたことと、リシアが気が付いたその先にあることをだ。
ユリシスがあのような触れ方をしたのだから、そうでない方が嘘に思える。
『本日はこの場を借りて、我が――――商会の新商品を披露致します! 少し会場が暗くなりますが、テーブルや足元には灯りをつけさせていただきますので、ご容赦を!』
ふと、会場が暗くなった。
といってもテーブルや足元は少し明るくて、気を付けないと傍にいる者の顔が見えなくなる程度の暗がりだ。
唐突なアナウンスだったものの、その内容自体はパーティを開始する前から語られていた。
今回は大規模な事業となったため、貴族をはじめ、貴族たちと懇意の商会が何らかの発表をすると宣伝されていたのだ。
リシアはその時間が訪れたのだろうと思い、暗い会場の奥を見た。
そこには、スポットライトが如く灯りに照らされた、いくつかの魔道具がある。
どれも楽器を模しており、とある商会の者が捜査したら音楽が鳴りだした。
『我が商会の音色と共に踊るのはいかがでしょうか?』
と。
会場の一部がこれによりちょっとしたダンス会場に変わった。
雰囲気が変わった会場の中で、何人もの貴族たちが踊りに向かう。これもまた社交。これもまた外交の一部であるからこそ、彼らはパートナーを連れてその場へ向かった。
あまりない催し事だが、貴族たちは好意的に受け止めていた。
リシアはその様子を眺めながら、羨ましく思った。
「……レンとなら一緒に踊りたかったな」
「俺ですか?」
隣から彼の声が幻聴のように聞こえてきた。
「ええ。考えてもみて。私たち同じパーティに参加したことがないのよ?」
「誕生日パーティには同席させていただいたと思いますが」
「もう! そうじゃなくて、こういうきちんとした――――」
幻聴にしてはあまりにも現実味を帯びていたから、リシアは「?」と首を捻って首を右側に振った。
先ほどが幻聴だったなら、これは幻覚なのだろうか。
彼は僅か二歩くらいの距離に立っていたから、暗くてもその顔がよくわかった。
「――――本物?」
リシアが手を伸ばし、彼の手に触れた。
彼の体温は間違いなくそこにあった。
「ど、どどど、どうしてレンが居るの!?」
「すみません。色々と事情がありまして」
すると、いつものように笑ったレン。
一週間も離れていないのに、どうも久しぶりに思えてしまう。彼と離れていた時間を、それほど長く感じていたからだろう。
(~~さっきの、聞かれてたってことじゃないっ!)
冷静になってみれば、レンは『俺ですか?』と答えていた。
リシアが一緒に踊りたかったと呟いた言葉は聞かれているわけだ。
だが、彼女は懸命に平静を装う。
「と、ところで事情って何?」
「……」
「あ、もしかして例の不正なお金のこと?」
「――――って、リシア様もご存じだったんですね」
なら隠す必要はないと思い、レンがつづける。
「ユリシス様たちから聞いておられると思いますが、噂の地権者とノーマン商会の間で不正な金のやり取りが交わされています。今宵、俺はそれを詰めるためここに来ました」
「詰めるって……パーティ会場で不正を明らかにするの?」
レンが行動を共にしていたラディウスの存在もあって、リシアはすぐにそう予想した。
「さすがにここではしませんよ。最終的にはこの屋敷の旧書庫で――――っていうのは、内緒だったんですが……」
「わかりきってるからいいでしょ。どうせ第三皇子殿下と計画してるんだし」
「……ですね」
レンが言うには、これからダンスの中に混じるという。
何故ならそこには、ガルガジア子爵家の者も大勢いるためだ。
「ふぅん……やっぱりそうなのね」
「あ、リシア様もおわかりになりましたか?」
リシアは「恐らくね」と可憐に微笑む。
「でもレン。ダンスに混じってる人の傍に行って何をするの?」
「とある人物の様子を近くで見張るよう、仰せつかりまして」
「……第三皇子殿下から?」
「はい。ラディウスと話した中で、相手を今晩にでも詰めて牢に送り込めることがわかったんです。その準備のために時間が必要となりましたから、俺はその間に相手を見張るんです」
どうやら標的の男がダンスに勤しんでいるらしい。
深く問いかけようにも、レンはラディウスに頼まれて行動しているから、下手に尋ねることは避けた。
その代わりに、
「よかったら答え合わせをしない?」
「いいですよ。ではリシア様のお考えをお聞かせください」
「ええ、聞かせてあげる。――――でもそれは、一緒に踊りながらよ」
リシアが手を伸ばし、レンにその手を取ってもらいたそうに振舞う。
このくらいの距離なら暗くても顔をはじめ、リシアが来た深紅のドレスを隅々まで見ることができる。
どのような異性がやってきても袖にして、誘いに応じなかったであろう聖女。
そんな彼女が自分から、胸を高鳴らせながらレンを誘っていた。
「リ、リシア様も一緒に踊るんですか?」
「ダメなの? というかそれならレンは、どうやってダンスしてる人たちの中に混ざろうとしてたのよ。……まさか、誰かを誘おうとして……」
「違いますって! 最初はもっと早く到着する予定だったので、こうするつもりじゃなかったんです! 必要に迫られてダンスに混じるだけで――――えっと……」
「私と踊るのはイヤ?」
「……誰かに見られたらどうします?」
「平気よ。この暗さなら顔までは見えないし、仮に見えてもレンはうちの騎士の子なんだから、気にすることはないじゃない。私と一緒にダンスしに行った方が、標的の近くに行けるわよ?」
「確かにその通りですが………」
令嬢と騎士の倅が共に踊るかと言う疑問を口にする機会は遮られた。
「ほーら。長話をしてる場合じゃないんだから、きて?」
レンはリシアの甘えるような声を聞き、「では、僭越ながら」と彼女の手を取った。
満足そうに、嬉しそうにしたリシアと共にダンスの場へ近づく。
また新たな魔道具が披露され、来場客がそちらに注目している間に、レンとリシアは静かに歩いてダンスする者たちの中に紛れ込んだ。
「それじゃ、答え合わせね」
リシアが軽やかなステップを披露しながら言った。
一方でレンにはリシアほどの余裕がない。給仕からダンスの基本を教わったことはあっても、こうした場で踊った経験が一度もなかったせいだ。
「実はイグナート侯爵から、こんなことを提案されたの」
まずはユリシスが三人の令嬢に告げたことから触れていく。
「ユリシス様のことです。お三方に試練を与えるつもりで提案したのでしょう」
「でしょうね。私たちも途中でそれがわかったわ。でも、どうせならやれることをしたいって思ったから、朝からずっと考えてた」
リシアが次にいうことこそ、不正な金の元である。
「――――地下資源に気が付いた後のことよ。ガルガジア子爵家に、廃嫡された男性が居たことに気が付いたの」
「よくお調べになりましたね」
「ふふっ、でしょ?」
驚いたレンを見て得意げに笑うリシア。
「廃嫡された理由は素行不良と、貴族としての怠慢ね。私はその男性がノーマン商会と結託してる可能性を考えたわ。廃嫡への恨みでもあればってね」
「……なるほど」
「彼は随分とお金をため込んでいたそうだから、再起を図るつもりなのかなって」
リシアはガルガジア子爵家の者だった人間が不正に関与していて、ノーマン商会の規模にそぐわぬ金を出していたと考えた。
まとめると、ノーマン商会とあの地権者に、ガルガジア子爵家の者だった人間。
これら三者が結託していたのだ、ということだった。
あくまでも考えたのは一度だけの話だが。
「でも、廃嫡された人じゃどう考えてもお金が足りないわ。かき集めようにも足が付くから無理だと思う」
「はい」
「だから別の人。少なくとも相当な資産家で、無茶をすることに価値を見出してる人物がいるはずなの。きっと野心家でもあるはずよ」
リシアはそこである情報に目を付けた。
フィオナとセーラの協力もあって、多くの情報を集められたことで、一つの気になる部分を発見した。
廃嫡された者の存在を調べていくと、一つの分家にたどり着く。
その分家が優秀な家系らしく、廃嫡された者も数年世話になっていたようだ。性根を鍛え直すためだったそうだが、それは失敗に終わっている。
「私たちはその分家のことをもっと調べたの。調べていくと十分なお金を持ってる野心家が当主を務めてるってわかったし、本家の仕事を奪うような勢いで強引なことをしてることもわかったわ。おまけにノーマン商会が過去、融資を求めたってこともね」
リシアがレンの答えを求め、踊りながら彼を見上げる。
その瞳に吸い込まれそうな思いを抱きつつ、レンは小さく微笑んだ。
「――――さすがリシア様です」
レンがつづきを語りはじめてすぐ、音楽が盛り上がる。
これまでより大きな音で声が聞き取りにくかったため、レンが本当に僅かに顔を寄せたところでリシアが頬を赤らめる。
「後のことは俺たちにお任せを。危ないことはしないでくださいね?」
「でも、レンは?」
「俺のことなら心配なく。すぐに終わらせてきますから」
リシアは話を聞いてから、僅かに紅潮させた頬のまま。
彼女はため息を漏らしてすぐに頬を緩めた。
「せっかくだから、もう少しくらい付き合ってくれる?」
「もちろん喜んで」
標的が場所を移したことでダンスが終わるとき、リシアはその手を離すことに名残惜しさを覚えて止まなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
フィオナはダンスに参加せず、父のユリシスの傍にいた。
数えきれない貴族との挨拶を終えた後、暗くなった会場を見ることもなく席を外した彼女は会場の外で、僅かな休憩時間を過ごしていた。
その場所は屋敷にある庭園の一角で、近くにはエドガーが控えている。
父のユリシスは一足先に会場へ戻っていた。
屋敷の庭園を大切にするガルガジア子爵はパーティであろうと、この庭園を開放していない。
普段ならフィオナも足を運べないはずだったのだが、これはつい数十分前、ユリシスの下へあいさつに来たガルガジア子爵から、よければ庭園を見ていかないか? という許可と誘いを貰っていたからだった。
が、フィオナがそろそろ会場に戻ろうと思った、その刹那。
「ば、馬鹿な! どうして例の情報が流出したのだ……ッ!?」
「わかりません……恐らく、本家の者が勘付いたのではないかと……」
「あり得ん! 相当な知恵者が動いていなければ……しかしあのイグナート侯爵らはまだ――――」
こそこそと話す男たちの声を聞いた。
声の主たちが近づいてくる中、フィオナは庭園に置かれていた席を立つ。
妙な気配を察知したフィオナがエドガーと合流しようとしたところで、
「こちらへ」
ふと、死角から手を差し伸ばされた。
振り向いたフィオナが見たのは、レンの姿である。
「レ、レン君っ!?」
「はい。レンです。というわけで申し訳ないのですが、ちょっとこちらへ……っ!」
フィオナは少し強引に手を引かれ、傍にある生垣の影に誘い込まれた。
唐突に現れた彼を前に胸がバクバクしてしまったのに、急に手を引かれたことで胸が破裂してしまいそうだ。
その事実を知られぬよう懸命に振る舞いながら、
「きゅ、急にどうしたんですか!?」
慌てた口調で、だけど声は潜ませながら。
ついさっきまで自分がいたはずの場所に、何者かが現れたことを悟りながらだった。
「ちょっと調べ事があって、やってきた者たちの話を聞きたかったんです」
「……あっ、もしかしてあの不正なお金のことで?」
「仰る通り、俺は例の不正周りのことで動いてます」
「ほんとにびっくりしちゃいました……きっと、第三皇子殿下もいらっしゃるのでしょう?」
「さすがです。それもおわかりですか」
レンとラディウスは仲がいい。
フィオナにしてみれば、自分の方が先に知り合っていたのに、そんな自分よりずっと仲良くしているのを見ると、少しくらい嫉妬したくなってしまうほどだ。
彼ら二人は波長が合うのだろう。
『何としても調べろ』
『はっ! 急いで探りを入れましょう!』
生垣越しに聞こえる話を聞きながら、二人は息をひそめた。
隠れた二人の距離は互いの吐息の音が聞こえるくらい近い。
フィオナが「あの――――」と言いかけたところで、生垣の奥に居る男たちが新たなことを放そうとしていた。
そこでレンが、
「しー」
人差し指を自分の唇にあて、珍しく茶目っ気を見せる。
そんな珍しい彼の姿を目の当たりにして、フィオナは見惚れかけた。
『すぐに旧書庫へ行き、例の件を終わらせる!』
『かしこまりました』
やがて、男たちの会話が終わった。
彼らが話し終え、生垣から姿を見せたレンとフィオナ。
フィオナは急にレンが現れたことに驚いていたが、どうしてなのか、これから何をしようとしているのかは尋ねなかった。
尋ねたところで愚問に終わるとわかっていた。
「エドガーが傍に居なかったのは、レン君が来てくれたからなんですね」
「すみません。エドガーさんにはついさっき、ユリシス様に連絡を頼んだんです。俺ではフィオナ様を守るのに力不足だったかもしれませんが、急いでいたもので」
「う、ううん! 力不足なんてそんな……っ! むしろ嬉しくて……っ!」
最後の方の言葉は照れくささから掠れ、小さくなった。
そのせいでレンに「何ておっしゃいましたか?」と言わせてしまい、申し訳なくなる。
「……何でもありません。勝手に喜んじゃってただけなんです」
すると、少ししてからエドガーが戻った。
レンはエドガーにフィオナを任せ、彼は計画を共にするラディウスの下へ向かっていった。
◇ ◇ ◇ ◇
ガルガジア子爵邸は広い広い敷地に立っており、クラウゼル家と同じように旧館が存在する。
そこへ人知れず、パーティの賑わいの影で足を運ぶ男たちが居た。
鍵を無理やりこじ開けて、埃っぽい旧書庫へ足を踏み入れる。
扇状の造りをした旧書庫は、入ってすぐの一階に立ち並ぶ本棚の列と、広い吹き抜けの二階の奥には、貴重な本が並ぶ棚を見ることができる。
やってきた男たちは、他の本棚に目もくれず二階へ向かった。
「遅かったな」
目的の本棚に近づいたところで、男たちを迎えたのはローブに身を包んだ少年だった。
少年は木製の椅子に腰を下ろしていた。
「貴様は何者だ? なぜ私をこの場に呼んだ」
そう尋ねたのはついさっき、レンとフィオナが隠れた生垣の奥に居た男である。
しかし尋ねられた少年は答えず、別のことを語り出す。
「本来であれば私自ら動く問題ではないのだが、近くに来たついでだ。何となく調べていたら、そなたらの動きがわかっただけのことよ」
「何が言いたい」
「わからんか? 巧妙に隠したつもりなのだろうが、私たちにしてみれば意味もない。そなたらの不正を見つけたから、今宵のうちに牢へ放り込むと言っている」
すると、やってきた男たちが殺気立った。
特に代表して少年と話していた男がそうだった。
「私が不正を行った? 訳のわからぬことを言わないでくれ。そもそも、貴様は何者なのだ? 私を誰だと思って言いがかりを付けている」
「そなた、ガルガジア子爵家の分家筋の者だったか? そなたの家は数世代前の先祖が継承者争いに負け、分家になったと聞くが」
「ッ――――負けたのではない! 我が先祖が身を引いたのだッ!」
「ほう。ではなぜ此度のようなことをした? 事業に失敗していたノーマン商会を手駒に収めて金を流し、地権者を巻き込んで地下資源を採掘しようとしているのは何故だ?」
「……貴様、何故それを」
「いいから答えよ。それ次第で私も名乗ろうではないか」
男が連れていた部下たちは、腕に覚えるのある剣士たちだった。
中にはスキルを生まれ持った者も存在し、十分な戦力だったと言えよう。すぐにでも少年を殺せるようにと、男は部下に命令を下すために片手を上げた。
「――――ふん。よかろう」
男の声が滔々と響き渡る。
「どこで調べたのか知らぬが教えてやる」
男が意気揚々と、少年の名を聞いてやろうという一心でつづけた。
「本家は衰退の一途をたどっていた。だが私は……我が家は違う! 本家と違い、我らの方が優秀な仕事をしている!」
「知っている。分家の方が稀有な働きをしてることは私も調べたとも」
「ほう、よく知っているな」
少年の言葉に男が気をよくして、頬を緩めた。
「だからこそなのだ。我らが更に力を付けさえすれば、この領地のために……いいや、レオメルのためになる!」
「そのためなら、本家で廃嫡された者も利用するのか?」
「ッ――――本当に何者だ、貴様。何を知っている」
「すべてを。地下資源を売りさばいてからすぐにでも罪を擦り付けるつもりだったのだろう? 見つかった規模なら、無理をすれば数年で堀り尽くせるだろうからな」
「……だからどうした。我が家が力をふるえばこそ、誰も文句を言うまい。それに知っていたか? その男も陰では現当主に牙を剥こうと勢力拡大に努めているのだぞ?」
「調べたから知っている。貴様らも随分と罪を擦り付けやすいだろうさ。そちらはまだ未遂だが、もちろん、捨て置く気はない。――――ところでそなたは、大義のためなら不法なことをしようと金を稼ぐつもりなのか?」
「そうだ」
「ふむ。本家を乗っ取ることや地下資源の取引からは、貴様の出世欲と権力欲が見て取れるぞ。それ自体は悪ではないが、今回はやり方がまずかったな。不正を冒してまでそれを得た先に、貴様は何を求める?」
「何を馬鹿なことを。欲を抱いて何が悪い」
男が遂に本心をあらわにする。
それまでの薄っぺらい前置きはもう語られなかった。
「分家分家と言われてきた私が本家を貶め、すべてを得ようと思って、おかしなことがあるか? 私の方が優秀であればこそ、くだらん本家の存在も頭にこよう」
純粋な欲と、幼き頃からの劣等感に似た感情が煽られた結果なのだと。
この男が自負するように本家の者より優秀だからこそ抱く、そんな苛立ちも理解はできる。
だがその感情を、向けてはならない方向に向けたことが問題なのだ。
「たとえ地権者共に分け前を払っても、地下資源のことは膨大な金を臨める仕事だ。その金があれば、私はより一層影響力を高めることができる」
逆に言えば、彼はその金が無ければ本家を乗っ取れるないと同じことになる。
だが膨大な金があれば何事にも大きな影響力を持てるようになることは、皇族であるラディウスにも理解できた。得られる大金はそれほどなのだ。
「貴様の言い分はわかった。だがノーマン商会と地権者の下には、もうすでに騎士が足を運んでいる。その野望は潰えることになるぞ」
騎士を派遣、そんな馬鹿な。
この夜だけで多くのことが起こり過ぎている。不正の主犯格だった男は唖然としながらも、少年のことを睨みつけた。
「……一人だけで私たちをここに呼びつけて、ただ犬死するつもりか?」
「私が貴様をここに呼びつけたのは、パーティ会場の賑わいに水を差したくなかったからさ。貴様らの取引に関する情報が漏れだしたと餌を撒いたのは、そのためだけだ」
「く――――奴を捕まえろ! だが殺すなよ! どこから調べたのか話を聞かねばならんッ!」
遂に男が部下たちに指示を下し、部下が一斉に掛けた。
ドンッ、ドンッ、ドンッ! と勢いよく古びた木製の床を走り、椅子に座っていた少年を前に武器すら抜いた。
だが、少年は猶も腰を上げることなく座っている。
男の部下たちはそれを気にせず、あっという間に距離を詰めたのだが――――
「頼んだぞ、戦友」
少年が呟けば、両者の間に一人の剣士が割って入った。
「ああ、後は俺の仕事だよ」
鈍い鋼色に光る剣を手にした、一人の少年である。
その少年の剣に攻撃を防がれた者たちは、いくつもの反応を見せた。
ある者はどうしてか身体が抜けて床に腰をつき、またある者は手元に強烈な痺れを抱いて剣を手放した。
唖然としながらも、魔法を扱える者が風を放った。
「切り裂けッ!」
肌に触れれば肌を裂ける、そんな刃のような風だった。
しかし、それは届かない。
間に割って入った者――――否、レンが掲げた鉄の魔剣が、それを難なく断ち切った。
星殺ぎを以てすれば、その程度の魔法はそよ風も同然。
「ば、馬鹿なッ!? どうして俺の魔法が!?」
「気を付けろッ! アイツ、剛剣使いだ!」
「ふざけんなよ! 剣豪級だってのか!? そんな奴を相手にしろなんて言われてないぞッ!」
相手が慌てふためく中、意にも介していないレンが風のような身のこなしを見せた。
レンのことを見失った相手の懐に入り込み、武器を砕く。それなりに力ある部下たちだったろうに、分家筋の男はわなわなと震えていた。
「これほどの剛剣使いが……何故……」
まさか、十数秒と経たぬうちに全滅してしまうとは。
あっという間の戦いに、思わずへたっと座り込んでしまう。
「運が悪かったな。私はもちろん、ユリシスやレザードたちに勘付かれてしまったところで、貴様の計画はすべて破綻していたのだ」
彼はレンが口にした名前を聞いて愕然とした。
ラディウスがローブを脱ぎ捨ててその姿をあらわにしたところで、殊更に。
こうなると、もはやラディウスが名乗る必要もないだろう。
◇ ◇ ◇ ◇
翌日の昼過ぎ、レンは帰りの魔導船の中に居た。
ラディウスは一足先に帝都へ帰っており、昨晩のことはガルガジア子爵に任された。分家筋が相手で此度は事情が事情だったこともあり、ガルガジア子爵にも責任を追及することは酷だろう。
彼はラディウスを前に首を斬る覚悟と言い切ったのだが、『その覚悟はレオメルのために使ってくれ』とラディウスがその場を収めた。
リオハルド家のエルクも、イグナート家のユリシスもそれが妥当だろうと判断する。
廃嫡された者に関しては、特に行動を起こしていない。あくまでも、廃嫡したガルガジア子爵への恨みで何かしようとしている気配があるだけだ。
だが放置はせず、ガルガジア子爵に忠告された。
ガルガジア子爵は迅速に動くだろう。
第三皇子に許されたのだから、身を粉にして働くはずだ。
これにより、此度の騒動は一つの執着を迎えていた。
そんな帰りの魔導船は、クラウゼル家とイグナート家が同じ便に乗っていた。
「レンと第三皇子殿下が現れることは想定外だったのだぞ」
「すみません。こちらもラディウスが急に提案してきたので、特に問題がないなら解決してしまおうと思って」
「やれやれ……怒ってはいないのだが、随分と二人らしい話だな」
レザードとユリシスの二人は真の敵が誰なのか看破していた。
多くの資料をはじめ、背後関係も調べたことから分家筋が怪しいということまで確かめていたのだという。
「さて、というわけで今回の話はこれまでにしよう」
レザードはこれからユリシスの下へ向かい、此度の件についてもう一度話すという。
レンは客室へ行き、そこにいるリシアとフィオナを訪ねた。
彼の来訪を受け、二人の令嬢が彼を中へ誘った。
「限られた時間の中で考えるのって、やっぱり難しいのね」
「ええ。いい経験でしたけど、自分の未熟さも理解できました」
面前の二人の言葉に、レンは「お気になさらず」と気遣いの言葉を投げかける。
だがそれでも、二人の表情は冴えない。
「お二人ともどうされましたか?」
「……だって、レンは私たちより早くわかってたじゃない」
「そ、そうです! レン君は私たちよりずっと早く気が付いてたみたいですし……っ!」
それはそれ、これはこれということでご容赦いただきたい。
レンはそんな気持ちを笑みに孕ませ、わざとらしく短く咳払い。
「よければ俺がお茶を淹れますから、休憩しませんか?」
明らかに話題をそらしたのに、そらされた二人は不満をあらわにする気にならなかった。
逆にそんなレンを可愛らしく思って、微笑んでしまう。
せっかくだから、彼の厚意に甘えてしまおう。
別行動をしていたときに何をしていたのかを話して、エレンディルに到着するまでの時間を過ごそう。
また一段と頼もしく成長したレンを前に、二人はそう考えた。
今回のSSはこれで以上となります。
最終的に37000文字と妙に長くなってしまい恐れ入ります。
もう中編といったところですが、内容的にSSなのと、一度SSと宣言してしまったので、このままの表記でご容赦ください。
そして先日発売した1巻について、おかげさまで各所のランキングで1位に入ることができました。
お手に取ってくださった皆様、本当にありがとうございます!
また、特典付きが少しずつ無くなってきておりますので、もし欲しいと思ってくださる方がおりましたら、お急ぎくださいませ!
といったところで、次回の更新は4章となります。
まだ明確にいつからとは申し上げられないのですが、またお時間を頂戴出来ますと幸いです。
それではまた、次回の4章で皆様にお会いできますように。
 





