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物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
三章・守りたい存在たちと、摩天楼の戦い。

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布に覆われたモノの正体。

 帝都の駅を経由して足を運んだエレンディル。

 空中庭園における魔導船が停泊した長い道の上に、レンをはじめとした五人が居た。



 彼の他にはユリシスとヴェルリッヒにエドガー、それにレザードの五人だ。

 時刻はあれからしばらく過ぎている。

 いまはもう深夜を周ったところで、この空中庭園にはすでに客が一人もいない。



 昼間と比べて暗闇と静けさが辺りを包み込む中、一行は冬の冷たい夜風を浴びながら言葉を交わす。

 レザードの返事を聞いたユリシスが、最初から知っていたと言わんばかりの声音で言う。



「ということは、レムリアはまだ処分していないんだね?」


「はっ。私も陛下から賜った魔導船を処分するのは不敬に思い、いつか修理できないかと思っていたものですから」



 レザードは「こちらへどうぞ」と言って歩き出し、この滑走路が如く長い道の一角へ足を運ぶ。

 ついて歩くレンは、その先にあるモノを見てハッとした。



(もしかして、アレか)



 ゲーム時代にもその姿を見つけ、レンになってからこの空中庭園ではじめて目の当たりにしたモノのことだ。

 布越しのシルエットから、弾丸のような形をした魔導船と思われたモノの傍にたどり着いたところで、レザードはそこに居た魔導船技師らに命令する。



「布を取ってくれ」



 すると、魔導船技師らはすぐにその布を外し、隠されていたものを披露する。

 披露されたのはレンの予想通り、一隻の魔導船だった。

 客を乗せる一般的な魔導船よりだいぶ小さいが、弾丸のような形をした上部は魚のヒレを思わせる半透明の翼が折りたたまれ、豪奢な飾りと共にそこにある。



 また、人が乗るためのものとして帆のない帆船のような箇所が下に連なり、まさに空飛ぶ船と言わんばかりの全容だ。

 


「おお、俺様が造った当時のま(、、、、、、、、、、)まだな(、、、)



 ヴェルリッヒが言った。

 彼の頬は緩み、嬉しそうなのが見て取れる。



「ヴェルリッヒ殿、申し遅れましたが、私がレザード・クラウゼルにございます。陛下よりこのエレンディルを預かった際、貴方が造ったこのレムリアを賜りました」


「おう。大事にしてくれてたのは一目見てわかったぜ。ドック内で管理してなかったあたり、コイツの性質を忘れないで管理してくれてたんだろ?」


「はい。事情を知る魔導船技師から、風に当たる場所で管理した方がいいと聞いておりましたから」


「それはコイツに使ってる素材のせいでな。風の扱いを得意とする魔物の素材ばっか選んじまったせいで、なるべく外気に触れてる方が都合がいい。ありがとよ。そんなとこまで気を遣ってくれてな」



 その話が落ち着つき、レザードとユリシスは魔導船技師たちに厳命した。

 ここで見たことはすべて秘密にするようにと告げたのだ。

 レンはレムリアと呼ばれる魔導船を見上げるヴェルリッヒの隣に立った。



「これ、ヴェルリッヒさんが造ったものだったんですね」



 レンにとっては、七英雄の伝説当時からの謎が一つ消えたところだ。

 内容がこれほど興味を引くモノだとは想像していなかったが。



「こいつは昔、俺様が前皇帝陛下に頼まれて作ったもんだ。当時の陛下は偉く気に入ってくれたんだが、ご体調を崩されてから乗らなくなっちまった。その後は、他の皇族が乗ることもあったが、中心の炉に無茶をさせてこうなったらしい」



 無理な稼働を繰り返した炉とその周辺が燃え、大きな修理が必要となった。

 だがそれ以来、このレムリアを直そうとする者は一人もおらず、空中庭園の片隅に置かれるようになった。修繕に必要な素材と資金ゆえだ。



 エレンディルがクラウゼル家に任された際、レムリアの所有権はレザードに移譲される。

 そうしたことが重なったことで、いまに至ったそうだ。



「レザードの旦那、話通りだ。コイツを直してやっても構わねぇか? 金なら要らねぇ。息子の手当てをするようなもんだ」


「ですが、それでは……」


「気になるなら飯をくれりゃいい。ついでに、修理が終わったら名酒で構わねぇ。俺んとこに偶にでいいから送ってくれ」



 通常の修理費と比べれば安いものだ。修理をするのがヴェルリッヒであれば殊更で、金に換えられない価値がある。

 そのヴェルリッヒも、金には困らないためいまのような要求をした。

 レザードはユリシスに困った表情を向けるも、ユリシスは気にするなと笑う。



「ヴェルリッヒは仕事嫌いだけど、すると決めたら徹底する男なのさ」


「クソガキに言われるのは気に入らねぇけどな」


「わかってるとも。今度から、うちの領で得られた希少な素材は優先して卸すから、それで許してくれないかい?」


「……ったくよ、本当に仕方ねぇクソガキだぜ」



 すると、ヴェルリッヒがおもむろにレザードを見た。



「そういや、レザードの旦那んとこの聖女様がいんだろ。その聖女様の剣がもうすぐできるから、後で持って行ってやるよ」



 急な話に驚くレンとレザードに向けて、彼はつづける。



「ヴァイスに昔から頼まれてたからな。今回、お前さんたちがこっちに来たってんで仕上げにかかってるってわけよ」



 ヴェルリッヒが言うには、ヴァイスとは古い知り合いなのだとか。

 ここでレザードは、ヴェルリッヒこそ先日鍛冶屋街で会う予定だったものだと知り、合点がいった様子で頷いていた。



「ヴァイスが当家に仕える前でしょうから、近衛騎士時代ですかな」


「おうよ。当時、ヴァイスは近くの山で吹雪に見舞われた俺を助けてくれてな。いつか俺様が剣を打ってやるって約束をしてたんだ。ヴァイスは拝領の剣があったから要らないって言ってたがよ」


(てことは、あの剣(、、、)ってヴェルリッヒさんが打った剣なのか)



 あくまでも七英雄時代の知識ながら、聖女リシアが持つ剣は記憶に残っている。

 喉から手が出るほど欲しかった性能を誇ったため、記憶に深く残って当然だったのだ。

 あれが剣王の剣を打ったヴェルリッヒの品と聞けば、道理でと頷ける。



「ところでヴェルリッヒ、レムリアはどこで修理するんだい?」


「空中庭園にあるドックを使う。レザードの旦那に一部の区画を閉鎖してもらって、俺様たちだけが入れるようにしてもらえりゃそれでいい」


「さっきは風に当てて管理した方が良いって言ってた気がするが」


「んなもん、わかってんだよ。けど実際、修理しようってんだから移動するっきゃねぇだろ。なるべく風に当てられるときは当てるし、俺様が頑張って管理するんだよ」


「余計なことを聞いてしまったようだね。――――クラウゼル男爵、ドック周りの件を頼めるかい?」


「承知いたしました。委細お任せください」


「じゃあ近いうちにレムリアを移動しておいてくれ。だが、アスヴァルの角がこっちに到着次第、先にレンの防具を打っちまう。なに、一か月もありゃ出来上がる」



 話が進むにつれて、レンはある疑問を抱いた。

 それは、アスヴァルの角は素材として忠誠心を持つかどうかが重要という話だ。

 あの話を思い返すなら、それをレムリアの修理に使ってもあまり意味がない気がした。

 その兼をヴェルリッヒに尋ねると、彼は「事情が違う」と言った。



「俺は別に、例の素材の質が悪いとは言ってねぇ。最大限活用するにはレンを中心にしたほうが一番ってだけのことだ。だが魔導船に関しては、龍種の骨やら角なんかは相性がいい。大概が丈夫で軽いからな」


「ちなみにこれは興味本位で聞くんですが、アスヴァルの角をどうやって魔導船に使うんです?」


「表面を薬で溶かして均したり、削って一本の柱なんかにすることもある。今回は炉の周辺を強化するためにもってこいの素材だろうよ。龍種の角や骨は使い道を選び放題だしな」



 高出力の炉を搭載することが可能になれば、そもそもの堅牢性も増すだろうとヴェルリッヒが言い切る。

 理解できる説明にレンは「なるほど」と頷いた。



「早速だがレザードの旦那、アスヴァルの角の輸送を頼むぜ」


「かしこまりました。三週間もあればこちらに届くと思われます」


「それならエドガー、うちの騎士も派遣しておいてくれるかい。厳重に扱うのは手間だろうから、我々も手伝おう」


「はい。主のお心のままに」



 夜が一層更けていく中で、大きな話があっという間にまとまった。

 楽しそうに笑うヴェルリッヒたちの様子を傍目に、レンは寒空を見上げる。鍛冶屋街に行き、学園区画を見た後で決心したことを思った。



(リシア様たちに、帝国士官学院のことを話しておかないと)



 もう、決心したのだ。

 すべては自分のためではなく、大切なすべてを守るために。

 だからもう、避けたり逃げてはいられない。



 強くなることで生じた責任と自由を彼なりに理解したうえで、守りたい者たちのために全力を尽くすと決めたから。




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