ある日突然、男性の○○タマが見えるようになってしまった私はどうしたらいいでしょうか?
あー、頭痛い。
目覚めた私は後頭部を押さえながら起き上がった。どうやら昨日な風呂からあがった後、ロクなフェイスケアもせずにベッドに倒れこみ。そのまま頭を打ち付けたらしい。
「つか、朝まで痛いって相当だぞこれは」
鈍痛がする頭を抱えながら、私は学校にいくためブレザーに着替え、階段を降りて洗面所に。
「おーす。美衣」
「あ、おはよ。お父さん」
といったところで私は腰を抜かした。父の下腹部に変なものがある。大きくてグロい。私はつい、叫んでしまった。
「ああああああーーー!」
その声に台所にいた母親が駆け付けてきた。父は薄着のまま動けない。
「どうしたの? 美衣?」
「お父さんが変なものをーーー!」
母は父を睨み付けるものの、父は母を恐れて両手を前にだして首を激しく横に振る。
「なにもしてない! なにもしてない!」
「ホントにぃ!?」
母は父を睨んだまま。確かに父は服を着たままだが、あの異様なものは服の外に『これでもか』と主張しまくっているように私には見えるのだ。キツい。
「おねーちゃんどうしたの?」
そこに来たのは五つ下の小六の弟、健人だった。普段はかわいらしい弟だが、コイツも服の外に主張している。
だがこっちのはつるんとしていて父のより色素は薄い。大きさも父より小さい感じ。
なんか変。母には見えない。男の人のだけ。どういうこと? 私、夕べ頭を打ち付けたせいで男性のそれが見えるような特殊能力が備わっちゃった?
◇
私のカンはどうやら当たっているらしい。学校への通学途中も男の人のそれが見える。
人それぞれ大小様々だが、見たことないものなので目のやり場に困る。じっと見るわけにもいかないし、かといって見えてしまうからついつい目がいく。
やはり乙女といえども、いくつも見ていると慣れが生じてきて、あの人のはどれくらいと見るのが楽しくなってきた。
「おはよー。おはよー」
前をいくのは学校一美少年と言われる麗司くんだ。女子が三人くっついている。こんなタラシですもん、イイモン持ってるんでしょ?
私は通り過ぎざまに麗司くんのそれを横目で見た。
ちっさ! なんか白っぽいし。弟の健人のより小さい。
はー。人は見た目によらないのねー。いや、見た目通りかな。
麗司くんは私と目が合うと、私にも手を上げて挨拶してきたけど、私はちょっと侮蔑するような目で見てしまった。
うぉい! 私! 男の人はそれだけじゃないでしょう。そりゃ女の子を誰彼構わず侍らしたがる麗司くんを尊敬はしてないけどさ。
「うぃーす。おはよー!」
「わっ。ビックリした!」
「はっはっはっはー」
声がでかい。挨拶してきたのは幼なじみの熊一朗だ。なんの因果か幼稚園から一緒。ガタイも大きくて185センチ。体重90キロの筋肉ダルマ。レスリング部所属。気持ちも大きいし、爽やかな男だ。
こっちの驚きなど気にせずにニッコニコ笑ってやがる。フフン。私には能力があるのだよ熊一朗クン。こういうやつに限って意外と小さかったりするんだろうなぁ。
私は熊一朗のそこに視線を落とした。
……………………。
鬼? ラスボス?
なにこれ、デカ過ぎ。黒光りしてるし、毛もモジャモジャ生えてるーーー!
つか、今までこんなデカいやついなかったぞ? 大人だって先生だって、そんなに大きくはなかったーっ!
「おいどうした?」
「やめて!」
私の肩に手を伸ばす熊一朗にたいして身をよじって逃れ、走って校舎に向かった。
「なんだアイツ……?」
熊一朗の寂しそうな声と顔に罪悪感を覚えたけど、あんなに大きいのに対処できない。
あーーー! この能力無駄だわ~。
◇
私の教室、二年二組の男子の全てチェック完了しました。報告終わり!
……いや言ってる場合か。やっぱり熊一朗の大きさは段違いだ。あれほどの人物はいない。怖い~。く~。
熊一朗のこと好きだったけど、なんかあんなに大きいと不安だよ~。
「関根さん。関根さん」
おおっと! いつの間にか学級委員長の佐崎くんがいたぞ。私を呼んでいたのか。
「どうしたの? さっきから考え事?」
「うーん」
「なにかの悩みかな? よかったら相談に乗るよ?」
うーん、そうか。佐崎くんなら口も固そうだし相談してもいいのかなぁ。
◇
佐崎くんと、人のいない移動教室に来た。カーテンも閉められていて、廊下の人通りも少ない。
「それで……どうしたのかな?」
「実は──」
私は頭を打ち付けて、男の人のが見えるようになったと話した。佐崎くんは、その話に息を飲む。
「えーと、それって……」
「うん……。頭が『き』で最後が『タマ』ね……」
佐崎くんは、思わず股間を押さえた。
「それって、僕のも見えてるってこと?」
「うん。まあ」
「そのぉ。僕のは人と比べてどのくらいかな?」
サイズかよぉ。なかなかいいにくいな。
「他の人のよりちょっと小さいかな?」
「え?」
「うん」
「そ、なんだ……。自信はあったんだけどな」
そういわれましても、こちらとしては比べるものはたくさん見てきましたので……。残念ながら平均より下でした。ゴメン。
「それってホントに見えてるのかな?」
「え?」
佐崎くんは、突然声を上げて迫ってきた。
「関根さんが見えてるのは、関根さんの願望とか幻なんじゃないかな? この人はこのくらい……みたいな。僕の実際のものと、関根さんの見えているものを実際に比べてみたら、それがホントの能力なのか結果がでるよね?」
お、そ、そうか。そうかも。でもそんなもの見せられるの?
「で、でも佐崎くん、それを見せることって可能なの?」
「もちろん! でもここじゃダメだ。帰りに僕の家においで。僕の部屋で見せてあげるよ」
おー、すごい。そうか。本物と比べれば、この能力が私の思い込みか、本当なのか分かるもんね。そっかー。
その時、私は佐崎くんが妖しく笑ったことに気付かなかった。
◇
放課後。私と佐崎くんは、並んで佐崎くんの家へと向かった。
佐崎くんは、楽しそうにいろんな話をして私を笑わせてくれた。そして両親の帰りは遅いらしい。
彼は、気持ちがはやるようで、近道をしようと人気のない公園を指さした。そこはあまり手入れのされていないところで、木々が生い茂って少し暗い場所だった。そこを突っ切れば家がすぐなんだそうだ。
慎重な佐崎くんがいうのだから大丈夫だろうと、二人して公園に入っていき、中ほどまでくると、怪しい男が三人こちらに向かってきた。
佐崎くんは、たじろいでビビりまくっていたが、私は三人のアレつい確認してしまった。うん。なかなかの大きさ。
「よう色男。かわいいおねーちゃんとデートかい?」
「お前なんかに、もったいねーよ」
絡んできた! 私は佐崎くんのほうをみると、すでに走って逃げ出している!
さすが人並みより小さい男!
「ひ、人を呼んでくるよ!」
あかん。それフラグ。
佐崎くんは、ホントかウソかわからないセリフを叫んで公園の入り口のほうにいってしまった。
残った私は当然三人の男に腕を掴まれた。
「やめて! なにするんです!」
「なにって、仲良くするだけだよ」
「そうそう。すぐに友達になれるぜー!」
そう言われてさらに私は公園の奥へと引っ張られていった。
男たちに地べたに押し倒されたとき、怒声が聞こえた。
「やめろ!」
その声に男たちは一斉に振り返る。
「美衣! 大丈夫か!?」
熊一朗だった。私は幼い頃からナイトのように現れる熊一朗が好きだった。それが今回も──。
「なんだてめぇは!」
男たちは熊一朗に向かっていったが、熊一朗は木々を利用して身を交わし、隙を狙って一人。また一人と倒していった。
「くそぉ! 覚えてやがれ!」
そう言うと男たちは逃げていき、熊一朗は私のそばまでやってきた。震える私の肩を抱いて落ち着くまで待ってくれたのだった。
「大丈夫だったか?」
「うん。来てくれるって信じてた」
「──そっか」
「うん」
私はそのまま熊一朗の大きな胸にもたれた。熊一朗は恥ずかしそうに片手で私を抱えながら頬をかいていた。
しばらくすると、熊一朗は声を張って言い放った。
「美衣! ずっと好きだった!」
私は一度顔を上げて熊一朗の真剣な顔をみる。そして微笑んだ後、また胸に倒れこんだ。
「私も」
「そ、そっか。よ、よかった」
ふふ。やっぱりあんなに大きくても、こんなときはなかなか言い出せないものなんだね。
それから私たちはしばらくそのまま。私は熊一朗の胸に倒れ寄り添っていた。すると熊一朗が話しかけてきた。
「どうしてこんな危ないところに……?」
「それは、佐崎くんの家にいくためだったの」
「佐崎の!? お前らそんな仲だったの?」
「まさか。私が好きなのは熊一朗」
「でも……、男の家に行くなんて軽はずみだろ? ナニされたらどーすんだよ?」
「だってさ。佐崎くんが見せてくれるって言うんだもん」
「見せてくれる?」
「男の人……アレ」
「アレってまさか。おいお前正気か?」
「だって私、見えるようになっちゃったんだもん」
「はぁ!? そのぅ……アレか?」
「そう。頭文字が『き』で最後が『タマ』」
「お~……。それは大変だな。服を着てても見えるのか?」
「そう。だから佐崎くんが、それは関根さんの思い込みか願望で、本物と見比べてみたらいいって」
「お前、それで関根のそれを見にノコノコついてこうとしたの? 危なっかしいな、オイ!」
「だって私、どうしていいか分からなかったんだもん。熊一朗のは人の十倍くらいあるし」
「はぁー!? そりゃ、たしかに妄想だ。そんなにねぇよ」
「だったら見せられる?」
熊一朗はしばらく戸惑っていたが、立ち上がって私の前に立つ。
「し、仕方ねぇ。いずれ見せるもんだろうからな。よーく見て確かめろ!」
そう言ってズボンをズルン! 私の時が止まる。完全に見た。デカい! だがそうじゃない。
「きゃぁあああああ!!!」
「ば、ばか! でかい声だすんじゃない」
「なんてもの見せんのよー!」
熊一朗は赤い顔をして、それをしまった。
「だってお前が……。で、どうだった?」
「どうって何が?」
「だから、お前の見えるものと本物のサイズは一緒だったか?」
「なんで? それじゃないもの」
「だ、だってお前、キ○タマって……」
「違う!」
「はい?」
「だから……、肝っタマだよ。度胸とかそういうの。やだぁ。乙女にそんなこと言わせないでよね!」
「はぁ~~~……? なんだそりゃ~」
熊一朗は完全に脱力していた。だってしょうがないじゃない。見えるんだもん。
でも『肝っタマ』か~。そんなもの見れたってなんの役にもたちやしない。
心臓に毛が生えてるとかいうけど、肝っタマにも生えてるのね~。お父さんにも生えてたし。
ま、たしかにお父さんも度胸があるもんね。でも熊一朗はそれ以上にデカいもん。
調子にのってヤクザ屋さんとかにケンカとか売らないでほしいなぁ。心配。
◇
そんな私の考えは杞憂に終わった。熊一朗はレスリングの強化選手に選ばれて、数年後オリンピック選手として活躍し金メダルを獲得したのだ。
なんでも、大舞台でも緊張しない鋼の心臓と評された。
そんな彼は金メダルを持ち帰ったその日に私にプロポーズしてくれた。当然それを受け入れた。
結局、この肝っタマが見える能力は役にたたなかった。ただ熊一朗の対戦相手の肝っタマが熊一朗よりも小さいとアドバイスするだけ。それが彼にとって最高のセコンドだったようだけど。
私はこの能力を抱えたまま金メダリストの妻として平々凡々に暮らしましたとさ。おしまい。
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