121.バランス
家族へ
冒険者と傭兵のギルド登録を済ませました。これからどんな依頼を受けて、どんな人達と出会いと別れを経験することになるのか楽しみですが、それと同時に怖さもありますが、どんな壁であろうとも山であろうともナナちゃんと共に必ず乗り越えようと思います
アリシアより
***ナルシェナ***
「参考…優しく…私に出来るでしょうか?」
「無理にじゃなくていいのよ、本当に気まぐれで、時々ハンカチのことを思い出して、誰かに優しく、誰かに親切にするだけでいいの、だってただあなたに選択肢を増やしたいだけだから」
「選択肢を増やす」
「きっかけをね与えたいの…あなたがちゃんと」
お婆さんは、アリちゃんの胸の中心に指を押し当てた
「ここに優しさを持っていることにね」
「持って……いるのでしょうか」
「持っているはずよ?だから後はあなたが自覚するだけ」
「……ありがとう、ございます。約束します、このハンカチを思い出すたびに誰かに優しくすることを、誰かに手を差し伸べることを」
「あらあら、選択肢を与えたいだけなのに約束するのね」
「いけませんか?」
申し訳無さそうに言うアリシアに対して、お婆さんは首を振り否定したあと右手を小指を立ててアリシアの前に出す
「……いいわ、じゃあ約束しましょう」
そしてアリちゃんとお婆さんが小指を絡めて約束を交わした
なんだろう、見たことのないアリちゃんだった。ちょっとだけジェラシー
「あら?もうお昼ね、あなた達ご飯はどうする?食べるなら作るわよ?」
「いいの!?じゃあ食べたいです!」
「……手間でないのならごちそうになりたいです」
ど…どうしたのアリちゃん、さっきから別人じゃん
「手間ではないわ、じゃあ座って待っててね」
「はーい」
「はぃ」
……誰だろうこの子
お婆さんが台所に行ったので、お婆さんが座っていたところに私が座る
「アリちゃんだよね?」
「ええ、私ですがどうしましたか?」
いや、なんかさっきから動作が丸く小さくって誰だろうと思っただけだよ?
「いやさ、なんかしおらしい感じがあって別人に見えたから」
「そうですか……」
髪をイジイジしないで、なんか違う感があるよって、そうじゃない言わないと…
「…ごめんね、アリちゃん」
私は頭を下げる
「?」
アリちゃんはきっと首を傾げ『なんのこと?』と表情で言っているだろう。私が謝る理由なんて、分かってるだろうに
「私が冷たいとか無関心とか言っちゃったからさ」
私は私でアリちゃんが冷たいなんて思ってないけど、思っているだけじゃダメだし、相談受けた時に言えてなかったら意味をなさない
「それの何が、謝罪につながるんですか?」
「前に相談に乗った時に私が言った言葉をアリちゃんが参考にしてるから、アリちゃんは自分が冷たい人だって決めつけたんでしょ?」
私が言葉足らずで
『よしよし、アリちゃんは身内は大事にするけど他者には冷たいというのが現状だね』
そう言ったのが私が、アリちゃんを冷たい人とアリちゃん自身が決定づけた事に変わりはない
もうちょっと他の言い方が出来たら、ちょっとは違ったかもしれないのに
『よしよし、アリちゃんは身内は大事にするけど今の所、他者には冷たくしちゃうってことだね。身内に優しく出来るってことから優しさはあるから線引が上手いのかな?』
とかちょっとでもいいから、アリちゃんにも優しい心があるんだって言えればよかったのに
頭を上げれない、アリちゃんの顔を見れない
「違います」
「え?」
「違いますよナナちゃん」
アリちゃんの手が私の頬に触れ、優しく上を向かされる
「ナナちゃんにだから私は相談ができるのです。ナナちゃんが近くにいるからこそ、悩みも口に出来るのです。私は側にナナちゃんが居なければ私は私の心を誰にも言えません」
「どういう事?」
意味がわからない
「だってアリちゃん、今回お婆さんに色々と言ったよね?」
『私は薄情な人です』とか『私は他人に対して冷たいと言われましたよ?』とか言って悩みを聞いてもらったり話し合ってたじゃん
「ナナちゃんが居たからですよ」
「は?ん?え?どういう事?ますます意味わかんないよ、私が側にいれば誰にでも簡単に話すの?」
モヤモヤとした醜い独占欲が心に陰りを作り、私を苛つかせる
酷いな…私は私の意志で、お婆さんに任せようと思ったのに
「え!?違いますよナナちゃんにだって視線で聞いて、頷いてくれたじゃないですか」
…そう?確かにそうだけどさ、お婆さんが言ってることがあってるって思って、アリちゃんが私を見た時に頷いたけどそこじゃないよ
「だけど薄情な人とか、他人に対して冷たいとか、簡単に話したじゃんか!」
「それ………は………」
ほら、言いよどむ……ねぇアリちゃん
私が側に居れば誰にでも自分のことを話すの?
そういう事を話すのは私だけじゃないの?
私だけがアリちゃんの相談相手じゃないの?
そりゃ、本当はザハレグス様だって事は、奥さん達に話したほうが、色々とスムーズに進むし、施設なんかも利用させてもらえるから仕方がないけど
でも今世のアリシアという1人の人の特別は、私だけでいたい…これが醜い嫉妬だってことは分かる。
けど、だけど!…いつか、いつか私以外の共婚者が出来るまではと願うのは子供のわがままだけどさ
そう在りたいと願うのは悪いこと?
「ごめんなさい、我慢して、ザハレグスに代わってナナちゃんに聞くべきでしたね」
アリちゃんが謝るんだ…私のわがままを受け入れてくれる。今度はこんなことがないようにと、次はこうすると言ってくれる、そんな言葉に私のモヤモヤは少し消える
でも醜い嫉妬心と独占欲を持つ器の小さな私、そのせいだろうか、口がもっとと要求するように言葉が出た
「私なんかが言った言葉をアリちゃんは信じて受け入れて、間違った認識をしちゃったんだよね?私なんか幼い子供だし単純だし、いっそ相談相手は私なんかじゃ無い方がいいんじゃないかな?」
頬に当てられていた手が急に肩を力強く掴まれた
「待ってください!私なんか?ナナちゃん、違いますよ!ナナちゃんはなんかじゃありません!私の共婚者です!たった1人の共婚者です!私の心から、いえ!魂から信じることができて、すべて委ねることのできる唯一無二の存在です!」
「っ!」
睨みつけるような表情、でも何処か悲しそうに見えるそんな表情でアリちゃんに見つめられたからか、私は息を呑んで黙ってしまうと同時に、私の心のモヤモヤは完全に無くなり
むしろ嬉しさが、必要とされているというアリちゃんにとって必要な存在であるという喜びを感じた
最低だな私
「…訂正させてもらいますけれど、ナナちゃんに何かを言われたからと、全てを受け入れているわけはありません。私の心が納得したものを、頭で理解できたものを、あくまでも参考にさせてもらているだけですし、何より私が…私自身が決めたことです!」
「だとして」
「私が決め」
「はい!そこまでよ」
お婆さんに止められた
「さすがねぇ…幼くとも共婚者だわ、とても仲がいいのね」
「?」
「?」
私とアリちゃんは同時に首を傾げる
「あらあら、良く分かってないのかしら」
アリちゃんの方を見ると丁度目が合う。その目と表情からアリちゃんもわからないようだ
「共婚者ってね、時々衝突することがあるの」
お婆さんが料理が出来たから、運ぶの手伝ってというので運び食事の前の祈りを済ませてから話が始まった
止められて、手伝わされたからか、気持ちが少しリセットされて、私は少し冷静になった
……また、私はアリちゃんに迷惑をかけたようだ
この感情的になりやすい性格は直さないとね
「さて、食べながら少しお話させてもらうわね」
「「…………」」
「共婚者ってね、特別な存在でしょう?」
お婆さんの言葉に私もアリちゃんも頷く
「それでね。実はあなた達のように幼い頃から共婚者って、大人になってからの共婚者よりね、よく喧嘩するのよ」
「え?」
「?」
意外な真実!?どうしてなんだろう?
「ふふふ、疑問に思ってるわね。理由は分からないかしら?何でも良いから考えてみて?」
ご飯を食べながら考える。何故後から共婚者よりも喧嘩するのか…
半分ぐらい食べ終わったあたりでアリちゃんが『あっ』と声を上げる。どうやらアリちゃんは気がついたようだ
「ふふふ、ナルシェナちゃんはヒントがいるかしら?」
お婆さんにそう言われて、私はついアリちゃんを見るもアリちゃんは口をギュッと締めて首を横に振る
え…ダメなの?
「……ナルシェナちゃん。あなた達2人は共婚者といえども個人よ、性格も考えも違うということを忘れていないかしら?」
「忘れて無いよ?」
アリちゃんは賢く強い、でも精神面は脆く弱い部分がある。お風呂が好きで、鍛錬は怠らない真面目な性格でもある。食には興味は殆どないけど割りとお腹にズッシリくるもの好む傾向アリ、飲みのは緑茶か水、下着はシンプルよりも刺繍入りを好む傾向アリで…………
私は、まだまだ勉強中の足りない子で、でも割りとメンタルは強い方でも感情的になりやすい、お風呂は汗をビッショリと汗をかいたあとに入るのが好きで、鍛錬はアリちゃんに止められるまで続ける方、食は噛みごたえのある方が好きで、飲みのは紅茶が好きかも?下着はシンプルが好きだけどまあ装飾が少なければまあまあ好き
……………ほら色々と私との違いも理解している
「……アリシアちゃんは、良く考える方みたいだから直ぐにわかったようね。けれどナルシェナちゃんはちょっと過信というよりも、真っ直ぐなのね」
「?」
『コクリ』
頷くアリちゃんと違い私は良くわからない
「どういう事?」
「それを考える必要があるわね」
お婆さんが困ったふうに言う一方アリちゃんは、視線をそらし『配慮』と呟いた
「アリシアちゃん…あまり良くないわよ?」
「すみません」
アリちゃんが言った言葉が、ヒントというよりも答えなんだろうね
はいりょ……配慮かな?確か配慮って、相手に気遣いすることだよね
「………」
それって共婚者ですること?
私は不満に思いムッとしてしまうが、お婆さんがアリちゃんを嗜めた以上はよく考えるべきだと思い直す
「……あの」
「駄目よアリシアちゃん。成長は、誰かにいつも助けられてするものではないの。時に何故、どうして、と疑問に思わなかったことに対して、少しでも考え始めたら時間をあげて待つことも大事よ」
「そう……ですね」
自分とアリちゃんの差、それはたくさんある。アリちゃんは賢くて、知識も豊富、運動も出来る。文武両道の天才さんと思っていた。前世があると知るまで
でも、前世があると知ってからもパパやママ達よりも知識が豊富なことも知りすごいと思った
しかし前世があるからと威張ったり傲慢な訳では無い、関係なくアリちゃんはすごいのだ、だから私なんかよりも優れている……ん?
ちょっと待って…さっき私はアリちゃんに私なんかと言って怒られたんだ、そこは考え直さなければいけないし、いつの間にか私はソードウルフに襲われる前の考えに戻っていた?
私より優れているアリちゃんを頼る事、それがソードウルフに襲われる前の私
『バチンッ!』
「っ!?」
「あらあら」
バカなの私!?
アリちゃんの隣に立つ事を目指していたはずなのに!
いつの間にか頼り切る私に戻っていた
片方だけが寄りかかるなんて共婚者じゃない!
どこでこうなったかなんて考えるのは後にして、今はそこから発生した失態を考えろ
ヒントはアリちゃんの言った配慮だ
必要なことだからこそアリちゃんは言ったし、お婆さんも否定しなかった。なら私が駄目なんだ!考えを改めないと
仲が良いからこそ配慮を気遣いを……か
難しいことはよくわからない、けど頼りすぎるなってことじゃないかな?
だからこそ、当たり前になりすぎている。それが当たり前だった幼い頃から大人になっていき、外の世界で色んな事を知る。そして何かがおかしいと思い始める?
でも共婚者なんだよね?
魂の片割れ、運命共同体の存在が?
何かがおかしいって思うだけで?
………視点を変えよう、私だったら何が原因でアリちゃんとの共婚状態を辞める?
過去になにで辞めようと………あ………あああああ!?
私のバカ!!!!!!!
***アリシア***
『ゴンッ!』
既に全員食べ終わり、食器を片付けて正解でした。ナナちゃんがテーブルに全力で頭をぶつけましたそしてぶつぶつとなにか繰り返し言ってますのでよく聞くと
「またかよ私、学習しないクズだよ、いつまでおんぶに抱っことか赤ちゃんかよ、いや赤ちゃんはまだ成長するから赤ちゃん以下、虫かな?ほっんとにあり得ないし」
などと言ってます。
ナナちゃんは今日はこのまま悩み続けるでしょうね
「……アリシアちゃん、ちょっとこっちにおいで」
?
お婆さんに呼ばれてナナちゃんの側を離れる
「不安よね?ごめんなさいね…実はさっきの話嘘なの」
「は?」
さっきのお話と言うと『幼い頃から共婚者って、大人になってからの共婚者よりね、よく喧嘩するのよ』ってやつですよね?
「本当は依存しすぎて危なっかしくなるの、共婚者は強い絆ができるでしょう?」
ええ、まあ………そうですよね
「ヒドイとねぇ誰も信じなくなることもあるぐらいなのよ?」
ありえ……そうですね。他者の言葉は聞く、でも共婚者の中で知恵者の言葉だけを信じてしまう
例えば、ナナちゃんが誰かになにかの情報を聞いたとしても、私がそれを違うといえばそれを信じてしまう
そう…なんの疑いもなく
もちろん、私は私の知っている知識を疑うこともしますし、情報が新しくとも古くとも確認はしますよ?
「2人や3人いても共婚者は共婚者同士で他はいらないってなったりもするの」
そこは………まあ思えなくもないですね。ナナちゃんがいればそれでいい、ナナちゃんがいてくれるだけで幸せだと思いますから
「共婚者ってね。1つ間違えばただの依存相手になるの…あなた達はその程度で終わってほしくないわ」
…ん?もっともっと愛し合えと言うことですか?
「えっと、良くわからないのですが?」
「そうねぇ…アリシアちゃんの場合は依存と共存、相互依存と共依存といったほうが良いかしら」
相互依存、良いところも悪いところも寛容的に許容できる……的な言葉で、お互いにより良い関係性での依存的なものでしたっけ?
共依存は、お互いがお互いに依存関係にあるために一方向に考えが行ったら泥沼化し、もう誰にも止められない状態になるようなもので危険しか無い
うーん、この2つはもはや意味がわからないようなもので何処かで調べないとわからない言葉です
相互依存はある種のライバル関係とでも言いましょうか?互いに高め合い良い結果を出していく関係性ですかね?
共依存は自立せず頼りきりの存在?
なら依存と共存は?と、そこまで考えるとお婆さんの言いたいことが分かった気がした。
なるほど…
「お婆さんは本当の共婚者はお互いに高め合い、時に助け合ういい関係であり、ただただ甘やかし甘やかされて共婚者同士がダメになっていくのは違うということですかね?」
何事も一方だけではなく、バランス良く保つことが大事ということですよね。私は与えすぎず答えをあげるだけではなくナナちゃんにも考えさせたりすることが大事ということでしょうかね?
「そうよ…あなた達は、私達のようにダメにならないでほしいわ」
何処か寂しそうに笑うお婆さん。私達のようにと言った以上はお婆さんは……お婆さんと共婚者達は
そう考えがよぎったところで頭を横に振り追い出す
答えなんて分かっている。部屋の掃除(出来てない)に飾ってあった若時の遺影が物語っているし、私がボロ泣きしている時に聞こえた昔は名を轟かせたパーティーだったと言うことから……ね
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男A「もういいか?」
男B「いいんではないでしょうか?」
男A「さっきは鷹と苗木がいたからな」
男B「ボスは建物ではなく場所が欲しいと言ってましたし、燃やしますかい?」
男A「ああ」
その数秒後以降、この男2人の姿を見たものは居なかったそうだ
ヴァネリア「…バカな二人組ね」
アイン「まあ、下っ端ですし」
コメット「処置完了にゃ!捨ててくるにゃ〜♪」
ミュイ「てつ、だう…こっちの、細い男もつ…ね」
コメット「ありがとにゃ〜」
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でわでわ、また来週投稿します




