111.腑に落ちなくて
アリへ(3/5だ、他の家族の手紙忘れるなよ)
聞いてくれアリ、グリードはあまり運動ができなさそうだ、歩いていても走っていても自分で自分の足に引っかかってコケるんだ、どうしたらいい?
それとな、なんでもかんでも『なんで?』と聞いてくるが、いつも濁していたら聞かれることが無くなってしまって寂しいんだが、どうしたらいい?
父 グライドより
アリシア「知りませんよ……ユナお母さんにでも聞いて下さい」
***アリシア***
なんですって?
「アリちゃん、私は無敵じゃないよ…」
「ええ、それは理解していますが?」
「………うーん万が一もあるし、お風呂場でマジアリ解除しよっか」
万が一とは?
殺気がナナちゃんにあたったとして、なにか起こるとして、お風呂場に行く意味は…………ああ、粗相する可能性を考えたのですね…………いや、ナナちゃん殺気にそこまで耐性なかったですっけ?
「行くよー?」
「あ、はいっ!」
そしてお風呂場で私に戻して…
『ブワッ』
「っ!」
「うわっ!?」
私の殺気に当てられてナナちゃんは『ペタン』と尻餅をついた。
「…………」
それを見た私は何とか抑え込もうとするも無性にイライラして一向に収まる様子がありません
「ちっ」
「……ふぅ……ん!………アリちゃん、ちょっといい?」
「なんですか」
ぶっきらぼうに答えてしまう事に申し訳無さを感じるものの、最早自分ではどうにもこうにもいかないので仕方が無い
「おーいで」
両手を広げて抱きしめ合うスタンバイをしてくれるナナちゃんの行動に『はぁ?』という感情があるものの、頑張って抑えて行く私
「…………」
『ギュ』
「ん!………怒りよ収まれ収まれ収まれ」
私を抱きしめ頭を撫でるナナちゃんが、なにか言っています。けれどそのくだらないことがいいのか
「くすっ…なんですそれ」
と思わず笑えてしまいました。そのおかげなのかゆっくりと怒りが収まってくるのが分かります
「おまじない………かな?」
「自分でも分からないと?」
「うん、取り敢えず殺気をしまってほしかったからね」
「それは………申し訳ありません」
でもナナちゃんは尻餅をついただけであり、別に粗相なんかはしていません。なので殺気の耐性があるのかそれとも私の無意識下でさっきの軽減がされたかですね
「ふぅ………何にせよ無事に収まったみたいだね」
ナナちゃんの言う通り殺気は見事に収まりましたので、ここからは話を聞く事の始まりです
「ま、一旦置いといて体を洗って湯船に浸かりながら話そう?」
「?……分かりました」
私が承諾すると何故が『ヨシッ!』と意気込まれましたが何なんでしょうね?
…………………
ん?どうしましたナナちゃん?
模擬戦したあと体洗ったり魔法使ったのかって?
いいえしてませんが…………
ええ、ちゃんと体は動かしましたよ?
いえですから…………そうですよ?鷹と苗木の人とですよ?ええ?汚れがないって、そんな事は気にしないできゃっちょっと、自分の体は自分で洗いますって
ちょっまっ!ナナちゃん辞めて下さいよ!
………………
『チャポン』
「ふぅ………」
「…………………」
「…………………さて、アリちゃんとろける前にお話だね」
とろけませんよ、大事なお話するために入るということになったのですから
「えーと、3人の人と模擬戦で手加減…というか手を抜かれている感じがしてムカついたんだよね?」
「はい、ですが先に話した通り、侮られる事を理解は出来るのです」
「何で?」
あれ?先程話したはずですが
「理由は話しましたよね?」
「いやいや何でさ、何で侮られる前提なの?何で侮られなきゃならないの?」
え?
「いやさ、話を聞いた限りでは1回目は分かるよ?私もティーちゃんもフォルミアも、やっぱり力量差が分からないからさ、最初は分かるよ?」
分かるのですか、共感………羨ましいですね
「でもさアリちゃんほどの技量ならどんな相手でも一撃で確実に気がつくよね?」
「そう…………ですか?」
「そうだよ!ていうかね、いつも模擬戦すると思うけどさ、どうやって流してるの?」
「どうと言われましても…武器同士ならぶつけるのではなく合わせ方向を変えるだけで素手ならばくっつくように動きを合わせて押すだけなんですが……」
「うん、アリちゃんがおかしいことだけは分かった」
おかしいって………
「真似できそうにないことが確実にわかったところで話を戻すけどさ」
「確実に………ですか」
「ブローチ幹部?の人達が事前に全力でいくようにとも言ってたんだし、何がどうしてもアリちゃんが怒る時まで手を抜くのがおかしいんだよ」
「まあ…………そうですね」
言われていたとしても、最初はどれほどのものか確認は私にも理解は出来ます。ですが2回目で私は直ぐにそれは確認ではなく侮りゆえのものと思いました
「でも、アリちゃんは自分が侮られる事に関しては、理解があると言うか事なんだよね?」
「はい」
「じゃあプライドが傷つけられて怒ったとかって訳じゃないか………」
「プライド?」
「うん…ってそうか、それはアリちゃんにはないんだ」
「まあ、自尊心すら怪しいですからね…」
自尊心、プライド…………私はなにか誇りはあるのでしょうか?
「自尊心すらって………まあいいや、じゃあ……………えっと3人は事前に本気でやるようにライラック様やアリちゃんがザハレグス様の時からの知り合いに言われていたからそこかな?」
?
「首を傾げているけどたぶんそこだと思うんだよ」
ですか?
「アリちゃんが怒ったってことは………知り合いの言葉を無視、無下にしたことに怒ったってことぐらいかな?」
「知り合い、ですか」
ライラックは妻、他は戦友や仲間ですからね、確かに知り合いでは……ありますね
「うん、それとアリちゃん自身が期待していた………んだったよね?だったらそれも台無しにされた事にもなるから1つだけじゃないね」
「えっとつまり?」
「あくまで私の推測だよ」
「はい」
ナナちゃんは言った
「1つ、妻というとても信頼している相手の事前に怪我をさせることすら出来ないと言われていた忠告?を無視した事
2つ、3人の知り合いから模擬戦直前に全力でいくように言われていたのを無下にした事
3つ、知らず知らずの内に期待していたアリちゃんの気持ちを裏切られた事
それらの3つが重なって激怒したんじゃないかな?」
との事です
「期待していた?」
私が?それは多少他よりも強いとは思っていましたが、ヴェルーナやライラックの様な私についてきた強さを持つ妻達ですら無いのに期待?
「そうだよ?アリちゃんが信頼する相手の言葉を聞かずに、アリちゃんを侮って攻撃をした。1回目だけならともかく2回目は……………2回目?」
ん?何かを疑問に思ったのか首を傾げるナナちゃん
「アリちゃん……気が短くない?」
「確かにそうです……ですが、分からない以上は短いとも言えないと思います」
私もそこに疑問はあるのです。たった2回目で激怒する理由がないはずなのです
「そっかぁ、まあ何故かたった2回目で許せなくなって怒っちゃった訳だね」
「はい、ナナちゃんの推測なのですが、間違ってはないとは思うのです」
間違ってはいないと思えても胸の内が『モヤッ』としていて納得が出来ません。それは何故なのか?合っているならばそれで納得できるはずなのに出来ない意味がわかりません
「自分が信頼している人の言葉を聞かず、私が抱いていた期待を裏切られたというのは合っているはずなのですが、納得ができないのはなぜでしょうね?」
少しでも私は私のことを理解できてナナちゃんに分かりやすく言えれば納得の行く答えが貰えたかもしれませんね……
「まー、なんか呼んだ本に無かったっけ?心は複雑であり単純とか…」
「そうですね……複雑と言ったり単純と言ったり、捕らえ方1つで幾重にでも変わりますから」
「捕らえ方次第かぁ…………あ、そういえさふと思ったんだけど」
「はい」
「アリちゃんは今の所さ、自分以外の事で感情は動いた事ある?」
「自分以外…ですか」
「そうそう、アリちゃん自身に何かあって動く感情じゃなくて誰かがどうにかなって、何かあってそれを見て動いた感情ってあった?」
私に何かあってから動く感情じゃなく、他者に何かあってから動く感情ですか、直ぐに思いつくのはナナちゃん関係ですね
「それはナナちゃんの事では動いてはいますよ?」
「あごめん、私や身内……ホンド村の人以外で」
「それは………………例えばフォルミアとの初めての出会いとかですか?」
まだ名も知らなかった、ナナちゃんとロティシナがどうにかならないか言われなければ関わりもしようとしなかった時の事
「うん、後はそうだねぇ……あ、ご遺体を見つけたあの時とか!」
「………………」
なんとも思わず死体は死体と知り自分は他者に対して冷たいと知った時の事
「………………」
「………………あ、ないんだね」
「はい」
「そっかそっか………」
「あの……ナナちゃん」
「んー、なぁに?」
私は死体を渡した時の事を話した。本当はナナちゃんにいろいろと聞こうとしたけど寝ていたから自分で考えた事を話した
「なるほどねー、他人認識の相手だと無関心なんだね」
「はい、どうやらそのようです」
ナナちゃんがそっぽを向き小さく『そこからどうして私の頬にキスする事につながるかわかんないけど、別にいっか』と言いましたが。はい、分からなくて良いです。ただ可愛いと思ってキスしたにすぎないのですから
「だったら身内のことに関しては厳しいとか?」
「なのでしょうか?」
そもそも、私は身内と他者を考えたことがありませんでしたね。今後はそこも気にしてみるべきでしょうか?
「私に関しては心は動くんだよね?」
「もちろん」
ナナちゃんに関して、私の心が動かないことなどあり得ないでしょう
「フォルミアはどうなの?心が動くから鷹と苗木の人を訓練に呼んだんだよね?」
「そう………ですね、でなければわざわざノーラの部下をつける事はないでしょうし」
たぶんそのはずです。養子としてグライド家で受け入れて、家族になったわけですし普通です………よね?
「じゃあフォルミアはもう身内という事だね」
「そうなるのでしょうか?」
ナナちゃんの言う身内は心の距離と思われます。血縁や同村という繋がりのない相手で考えての身内
「じゃあ考えて?何故とかどうしてとか理屈とか投げ捨ててね」
「はあ……えっ………と?」
「あの時のご遺体をね、フォルミアにお『ブワッ』きっ!?」
「おっと、申し訳ありません」
「うん…ダイジョウブだよ」
ナナちゃんのお陰で、完全にフォルミアが私の身内であることは今わかりました
「よしよし、アリちゃん身内は大事にするけど他者には冷たいというのが現状だね、だからさっきの3つが重なって怒ったのはたぶん間違いないんだけど」
「今1つ腑に落ちませんね」
「ふーーーー、上がろっか」
「ええ……………申し訳ありませんでした」
「ほえ?なんで?」
「せっかく考えてもらったのに腑に落ちない結果となったっことですよ」
「…………はぁ…………アリちゃん?」
ナナちゃんは湯船から上がり、私に手を差し出すと言った
「直ぐに決めなきゃいけない心なんて無いよ、思う存分悩んで、考えて、その結果でも納得出来なければもっともっと悩んでいいんだよ?」
「いいのですか?」
「うん、私は必ず側にいるから、ずっと一緒に悩んで考えてあげられる。だから一旦保留にして、また同じようなことが起こったときに一緒に考えよ?」
「………そうですね。そうします」
私は心が少しだけ温かくなったのを感じつつ、ナナちゃんの手を取り湯船から上がったのだった
ナナ「今思うとフォルミアと会ったのは8歳の時だね」
アリ「ですね 『31.溢れ出す心』の時ですからね」
ナナ「しっかし心の中でアリちゃんはご遺体を死体と言ってるなんて…」
アリ「いいじゃないですか他者に無関心故になんですから」
ナナ「それに『104.私という個性は』で寝てた私の頬にキスするなんて…」
アリ「嫌でしたか?」
ナナ「ノーコメントで!」
アリ「そうですか♪」
*** *** ***
何とか………なったけどヤバかった
でわでわ、次話も頑張ってまた間に合うように書きます




