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もえかみ  作者: フレディ
3/3

第2話:怒り

 ディスプレイは幸いにも省エネモードというのがついており、長い間ほっておいたので画面の電源が落ちていた

 だが、この状況は言うならば「待機モード」

 うっかりこの変な女の子がマウスに触れたりすれば、良くてエンドロールの最後、下手をすればタイトル画面に戻り、さらに一定時間後に始まるオープニングムービーがループしているかもしれない

 俺の足下に転がっていた、まぁカーペットの中に押し込んだこのパッケージ


 ――『冥土の旅3』


 一見まともなゲームっぽいタイトルだが、この冥土はどう考えてもあのメイドなわけで、内容的には途中アクション等も挟むがようはエロゲーである

 最後は美少女のエロCGが表示されて終わるというあれだ


 そのほかの俺の宝物は、紙袋に押し込まれていたり、本棚の中カーテンで隠されているから、とりあえずはパソコンに気をつかえば問題はない


 「それで。何で自称神様が内に泊まろうと?」


 「自称じゃなく神様です」


 どうやらそこだけは譲らないらしい……

 とりあえずこの子が人間ではないということくらいは認めておくとしよう


 「それで神様は一体どういった神様なの?」


 「萌えの神です」


 これを誰が信じられると? だいたい萌えの神様だがなんだか知らないが、萌え要素ゼロじゃないか

 

 「何ができるの?」


 「何もできないです!」


 何もできない自称神様は、俺の家に何をしに来たんだろう。福の神様はこの悲しい俺におそらく幸福を贈ってくれるのだろう

 貧乏神ならただでさえ不幸な俺から、この金さえも奪っていってしまうのだろう。ただ俺の家には萌えが充満している。これ以上萌えを配られても困る。というか萌えを配るって何だ? 我ながら意味不明だ


 「じゃあ……何がしたいの?」


 「助けてほしいです」


 一応神様を名乗るなら、ただの市民。それもかなり無力な部類に入る男に対して何を求めるなよ。『修行をつけるから魔王を倒せ』とか言うのか? そして魔王と一心同体であるあなたは消滅すると

 

 「私は萌えを象徴する神様です。だから萌えは支配できないんです」


 「……はい?」


 「私は萌えによって存在していますが、萌えを作り出すことができないんです」


 「へぇ……」


 「ですからこの世の萌えが減ると、私の力も消滅へとむかっていってしまうんです」


 「ほぉ」


 「そもそも萌えというのは今でこそ世界のものになっていっていますが、それは萌えのために戦ってくれた方々のおかげ……しかしまだまだダメです。萌えといえばオタク、オタク=気持ち悪いという図式が成り立ってしまっています」


 「まぁね」


 「だから私という存在は非常に脆いものになってしまいました……萌えが迫害されているからです」


 「ふぅん」


 「喜び、怒り、哀しみ、楽しい。そのどれとも違わない。人の感情の1つであるはずの萌え。それを……」


 「つまり俺にどうしろと言うんだ?」


 「簡単に言うと、萌えのイメージアップと萌えを広めてほしいです」


 つまり、この世に萌えを増やす。ということは必然的にオタクを増やすということ

 そして萌えのイメージアップは同時にオタクというもののイメージをよくするものになる。そうすれば俺の仲間が増え、俺のような人種も住みやすい世の中になる

 良いじゃないか。ただ俺にやれと? 無理無理


 「無理」


 「なんでですか!? 双方に利益があるはずです」


 「俺一人でやれるか」


 「だったらまずは仲間を集めましょう」


 これはRPGではない

 

 「それこそもっと無理」


 「何か考えてください! オタクのイメージアップと、萌えが広まれば良いんです」


 「無理だ。だいたい萌えは一般に受け入れられない。ある程度の大人ならともかく、最近の高校生がきたちはオタクを毛嫌いするからな……」


 「それをいうなら、このままだと若い人はもっと手がつけられなくなりますよ」


 「は?」


 「オタクと不良は敵対関係というか犬猿の仲」


 「出会ったらオタク狩りとかか? まぁほぼヤンキーが勝つな」


 「不良たちのカリスマであるグレ神は、グレるということを広めようとしています。これは大人には受け入れられないでしょうが、全ての学生がオタク狩りなんてしたら本当に萌えが、オタクが、聖地秋葉原が、そして私が消されてしまいます」


 そう言う彼女の顔は本気で深刻みたいだった

 この子が神様なのかは未だに疑う余地が多いが、ともかく事態が良くないことと、萌えというものが何かこの子にとって重要であることと、このままだと俺たちのような人種も絶滅の危機にあることが分かった


 確かに出会う子供がき全てに命を狙われるというのはかなりやばい。それくらいなら俺はオタクなんてやめる。でもそうなれば……まぁ信じちゃいないがこいつは死ぬ……わけか


 「……具体的に何をすれば良いんだ?」


 「とにかく萌えを残すためには、不良との戦い、共存は絶対に必要になるようです」


 「戦いか……喧嘩の後の仲直りとも言うしな」


 「不良は消してしまっても良いはずです。社会の不適合者ですから」


 社会の不適合者。確かに不良というのは、暴力をふるい、思い通りにならないことは全部力で片付けようとするし、周りに迷惑をかけたりすることもある

 法を犯してまでむちゃくちゃをする奴もいる


 俺たちオタクは誰にも迷惑はかけていないだろう

 だけど、ダラダラと社会と切り離した生活を続けているだけの俺は、社会に適合していると、社会の役に立っていると言えるのだろうか……

 

 「よいしょっと」


 「寝ますか?」


 「馬鹿。こんな夜に寝てどうする」


 「?」


 「これからチャット」


 チャット。インターネットを通じてコミュニケーションを取る手段の1つ

 俺はいつも遠方のオタ友との情報の交流のために活用している

 今日は同じ東京都内の、「ディオ」さんと会う約束をしているのだ


 「……ログインしてこないな」


 ディオが時間に遅れてくることは滅多にない。というよりか交流を持ち始めてからまだ一度もない

 多少の遅刻ぐらいは普通気にすることでもないのだが、一抹の不安。自分で考えた勝手な予測


 ――オタク狩り


 まさかな……


 ディスプレイの前でログインしてくるのを待ったが、1時間経ってもディオはやってこなかった

 時刻は12を回った



 さらに1時間後、時刻が1時を回ろうとしたとき、漸くディオがやってきた


 『待たせてしまった。スマン』


 俺は直感的に今、彼の精神の状態が普通ではないことの想像がついた

 感情表現に必ず顔文字を使用するディオが、顔文字どころかシンプルに謝ってきたのだ。何かあったに違いない


 『何かあった?』


 『分かりますか?』


 どうやら俺が勘づいているということに勘づいたらしい。俺も顔文字を多用するからだ


 『まさか、オタク狩りとか?』


 『違うでござるよ(*´∇`*)』


 違わない。無理に顔文字をつかっている

 間違いなくディオはオタク狩りにあっている


 『ごめん今日は落ちるm(_ _;)m』


 返事を待たずにチャットを終了した

 オタク狩りというものが行われているのは知っていた。でもその被害に友達があったなんてことはない。これほど怒りの感情が内に燃えさかったことも今までないだろう


 やることは決まった

 ヤンキーをつぶして、根源であるグレ神とやらを弱体化、消滅させてやる


 「今日は寝るか」




 風呂に入って布団に潜り込んだ


 「一緒に寝よ♪」


 「あ、アホかァ!」


 本当に変な女の子だと思う。突然布団の中に潜り込んできたのだ

 いくらなんでも、いきなり知らない男の家に押しかけて、いきなり布団に潜り込むなんて……これじゃあイタズラしろと言っているようなもの


 「スー……スー……」


 しかも寝るのが早い

 潜り込んで1分経ってないぞ


 




 まずほっぺたをつついてみる


 「ん……」


 寝ていることが判明。だったら目を覚ます前に即行で……

 とりあえず体のほうに


 「ニシシシシ……」


 俺は、犯罪者で良い

 だいたいすぐ横で可愛い女の子が寝てるのに、この機会になにもしない奴はむしろ変人だ。ホモだ! ゲイだ!


 というわけでパジャマの中へ手を伸ばす


 


 ――手応えがない


 パジャマの前面から進入した俺の手はパジャマの背中側に触れた


 ――『私が消されてしまいます』


 マジかよ……

 もうだいぶやばいんじゃないのか

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