出会ってしまった
窓を開ければ、涼しい風が入ってきてとても心地の良い朝
つきっぱなしのディスプレイ。散乱するエロゲーのパッケージ。痛いシールが貼ってある、まぁ『痛・PSP』。壁には2次元の女の子のポスターが貼りまくってある
そんなものに囲まれての朝
――何もねぇな……
こんな生活はダメなのは分かっている。できもしない彼女もこの部屋にあげることはできない。まぁ恋なんて無いけどな
高校卒業して1年。大学に落ちた俺はとある東京都のアパートに独り暮らしだ。親からの仕送りでな……
一応は『勉強』という名目で出てきているから、補助はしてくれる。しかし振り込まれる現金。俺を本気で信じて、心配してくれる両親からの電話
そのたびに俺は内側から針で突かれたような痛みを胸に感じている
でも抜け出せない。なんせ電車ですぐにたどり着く場所にあるのだ
――オタクの聖地。『秋葉原』
実家は結構金持ちだ。ガキの頃から生活に困ることはない
だからこそ、そんじょそこらの会社に行くよりもよっぽどいい額の仕送りがある
だから、エロゲーも同人誌もなんでも買い放題だ。もちろん簡単にネットもつなぐことができたし、パソコンだってどんなスペックを要求されても大丈夫。ダメでもすぐにパワーアップさせられる
――全部親の金で、だけどな……
そんなダメ人間街道まっしぐら。なのか、もう行き着いたのかもしれないな
ダメなオタクである俺に、ある出会いがある
今日はとても気持ちのいい日だ
「いって!」
朝、家を出て俺は駅を目指していた
どこに行くかは秘密だ。そんな俺に、誰かが思いっきりぶつかった
「ごっごめんなさい!」
女子高生? くらいに見える女の子が、口に食パン一斤無理矢理くわえて倒れていた
……ピンク
「私急ぎますから……すいませんっ」
「あ、あぁ」
「……」
「……」
なんだこの子。急いでるんじゃないの?
なぜそんな難しい顔して俺の顔をのぞき込んでいるんだろう
まさか次世代の萌え? ぶっ飛びすぎだろ。食パン一斤くわえて走るって……そんなケースまず無いだろ
「分かんない!」
「はぁ?」
そんな、突然叫ばれても困る
「死んじゃえ!」
「食パンでどうやって殺す気だっ」
彼女は食パンを両手で持って殴りかかってきた
初めての体験だが、これがヤンデレ? 病んでるというかただの馬鹿な子じゃないか
「えい!」
思いっきり振り下ろされた食パンは俺の顔面に直撃
ぽふっと情けない音を立てて、食パンはへしゃげた
「……」
「……」
「……一体あんたらはなんなの?」
「わけ分からん……」
「別にっ! あんたなんて眼中にないわよ!」
「そうですか……」
「……」
「……」
本気で意味分からない
この沈黙はなに? 俺何か悪いことしたっけ? この子が1人で変なことしてるだけじゃないか……
でもよく見れば可愛い方だな。うまく仕込めば……
俺って犯罪者予備軍?
「もー! 知らない!」
「あ……」
走っていってしまった
食パン一斤と、スニーカーを片一方落として……
何やってんだろうこの子
何にしても、この時点ではただの変な女の子なのだが、俺とあいつは出会ってしまった
主人公について
名前は三上杏
オタクです