首脳サミット
アカリが直兎を無理やり帰宅させ、居間に戻った三人は、ちゃぶ台を囲んで首脳サミットを開催した。
「どーしよーすずめっ? アタシ、腐海の住人かもしれないっ!」
「うわーあああん!」
アカリとイナリがすずめに擦りよる。
二人にパジャマの裾を引っぱられるすずめの口から、エクトプラズムが放たれている。
「ねえ、すずめ聞いてるっ?」
「うるさい……うるさいうるさいっ! うるさいいいいっ!」
すずめは黒髪をぐしゃぐしゃと掻きむしった。
「考えるな察しろ! 一番混乱してるのはボクだっ! キミたちはなんなんだっ!」
「うわーああんすずめはーん!」
「うるさいうるさいうるさいうるさい! 脱腸させるぞ!」
すずめははぁはぁ、と肩で息をしている。動悸は未だ治まらない。
「それにしても想像の斜め上に来たよねっ?」
アカリはどこか楽しそうだ。
「ふ、ふ、ふ。ナオトはホ……いや、すずめはどこからどう見ても女の子だから、仕方ないっちゃ仕方ないよねっ」
「この格好はッ! 女系家族の伝統を守って、神力を高めるためのものッ! ボク自身の心は男の子だぁッ!」
すずめがバシンとちゃぶ台を叩き、置きっぱなしの食器は驚いたように二センチほど跳びあがった。
「ふーん……でも、すずめもいつもノリノリで女の子だよねっ? アタシ、心も女の子になってるんだと思ってた」
「それはっ……圧倒的っ……屈辱っ……!」
否定するすずめの言葉が尻すぼみになる。
直兎に包まれたときの体温、汗の匂い。思いだして――
「ふひひ。すずめ……そっかぁー」
「……なに? なにか言いたいわけ?」
頬は確かに熱い。
すずめがドキドキを抑えながら、アカリにメンチを切った。もはやそのスジの眼力だ。
「アイツ、うるさいけど根は優しい子だから、幸せにしてやってね……」
愛娘を花婿に託す父親のような遠い目をしながら、すずめの肩に手をおいた。
「あのぅ……さっきからウチ、空気みたいになっとりますけど、確かこれ、ウチの縁結び計画やった気が……」
イナリが正座した膝に両手を置いて、ぷるぷる震えている。
「ぐぬぬ、その通り……これはいよいよナオトの気持ちをイナリに向けないと、どうにも居心地が悪い」
落ちつきを取りもどし始めたすずめが、ため息をついた。見開かれていた眼は、いつの間にかジト目に戻っている。
「なんとかしてくれるんどすか……?」
上目遣いにイナリがすずめを覗きこむ。
「一応約束はしたもん。ボクの沽券に関わることだし、最後までやるよ」
「おおきに! おおきにすずめはん!」
「えぇえー? すずめ、今のまんまが面白いんじゃないっ?」
「……フルパワーで蒸発させるよ?」
すずめのこめかみに青筋が浮いた。
「はぁ……じゃあ、イナリ。にじり寄る感じで行こう」
すずめがうなだれてつぶやく。
「にじり寄る、って、どういうことどすか?」
「ナオトに好きな人はいない想定で、告白しようと考えてたわけだよね。で……実は……矢印はボクに向いていた、と。ここから一気にイナリに対する恋心に気持ちを捻じまげると、風が吹けば桶屋が儲かる理論で、大きな問題に繋がったときのコントロールが難しくなる。少しずつナオトの気持ちに変化を持たせて、都度周りへの影響をコントロールしながら進めたい」
イナリは、ほーん、と他人事のように、ストーブの上で湯気を吹くやかんを見ている。
「人の話を聞けファッキンゴッド。とにかく段取りはこう……明日、イナリがナオトの足を治すところまでは一緒。ただし、告白は明後日以降。まずはイナリの存在感をナオトの中で確立するところから始める」
イナリがガッツポーズを作った。
「へえ、よろしゅおすぅ!」
(こいつ、ただ告白が先延ばしになったことにほっとしてるだけじゃないか――?)