兼任
引き戸を力任せに押しやって、すずめは三和土に足を踏みいれた。
スタジオから電車で三十分、そして最寄駅から徒歩で十分。時刻は午後十時を回っている。
猫背になったすずめの髪の毛はところどころはねて、頬はこけていた。神社の掃除と夕拝は父親――高杯に任せたが、しっかりと任務を果たしているかは甚だ謎である。
三和土から廊下に上がる段差の前に、見慣れた靴と、見慣れぬ草履が脱ぎすててあった。
ため息をついて揃えると、自分も靴を脱ぐ。
居間に入ると、二つの赤ら顔が強力なインパクトをもってすずめを迎えた。
『おかえり』
イナリと高杯がハモって、すずめは抱えていたリュックを取りおとした。
ちゃぶ台で向きあって、二人麻雀に勤しんでいる。からからと笑う傍らには褐色の一升瓶。
「はいツモー。ウチの勝ちや! リーチ一発ツモタンヤオピンフ三色イーペーコーハイテイ」
「うわっ、イナリさん神がかってるなぁ」
高杯が額に手を当てた。
「そりゃイナリは麻雀の神でもあるし」
畳に直置きしたノートパソコンを叩きながら、アカリが丁寧に突っこむ。
「すずめ、レッスンどうだったっ? プロデューサーに電話したら、いつも通りだ、って、淡々としてたけど」
それまでディスプレイにかじりつくようにしていたアカリだったが、ここでようやく顔を上げ、すずめに問いかける。普段かけない眼鏡を身に着けていて、見た目の賢さがアップしている。
「あー……うん、正直に言うとプロデューサーにキレられた。ボクが、じゃなくて全体でなんだけど」
いつもなら、なんの問題もないけど、と突きはなすすずめだが、疲労の蓄積もあってか、ぼやいていた。すずめはため息をついて、畳に座りこんだ。
「あちゃぁ、そりゃ大変だ。すずめ、大丈夫っ?」
「大丈夫だろうがなかろうが、まあ、なんとかするんだけどさ」
「うーん……やっぱりね、ここのところの状態があんまりよくないから、まずは平日のご祈願の件数を減らすことにしたよ。その分週末に集中しちゃう部分もあるんだけど。もう氏子さんには電話してあるから大丈夫。今、スケジュール作りなおしてるから、終わったら共有かけるねっ」
すずめは無言でうなずいた。
「さて……キミたちは、なにしてるのかな」
すずめはイナリと高杯に向かって、低い声を押しだした。
「すずめちゃん、パパお腹空いたよー。なにか作って」
高杯が麻雀牌を片づけながら、子どもの笑顔でリクエストする。
「カップ麺置いてったよねミスターゴクツブシ。あと、シジミの味噌汁も作ったし」
「いやあ、パパ、たまにはシジミじゃなくてウナギが食べたいなあ」
「キミを蒲焼きにしてあげようか?」
「ははは、すずめちゃんは冗談キツいなあ」
「――掛介麻久母畏伎 伊邪那岐大神――」
アカリの手に光球が生じた。