もう偽れない
ガツガツと、イナリから提供された重箱の中身を放りこむ直兎に対し、すずめもアカリも、
『それイナリのゲ○だよ』
とは突っこめなかった。
「いや、アレだぞ? 飯を買う金がないわけじゃない。ただ、飯を買いに行くところで、力尽きただけなんだぜ」
「それ、弁解になってないよ木偶人形」
「まじうめーわこれ、なあイナリ」
「ぐふ、ぐふふふ」
イナリのそれは、なにに対する悦びかはすずめとアカリは知る由もないし、訊きたくもなかった。
行きだおれの直兎を教室に担ぎこみ、直兎の席を起点に、机を向かい合わせて長方形を作った。すずめとアカリは気を利かせ、直兎とイナリを隣り合わせに座らせている。例によって、男子比率の高い体育科生徒の視線は熱いものがあるが、直兎は気づいた様子もない。
形式的には、イナリのお手製弁当、を直兎が食していることになっている。現実を知るすずめとアカリは、今ひとつ食欲にブレーキがかかる。
「どうしたんだ二人とも? さっきから全然食ってねーじゃん。体調でも悪いんか?」
「今の気分で一気に食べると二次災害につながるから自重してるんだよ」
「……は? やっぱ体調悪いんじゃねーの? 心配だぜ?」
「いいから気にせず食えハゲ」
「まあ……俺はこのあと部活も控えてるし、遠慮するつもりなんてこれっぽっちもねーけどな。いやーこのダシ巻き最高だわ」
すずめがため息をついた。
「ところでナオト、昨日のイナリの様子はどうだったの? 部活でマネージャーまがいのことをしてたらしいじゃない」
すずめの問いに、直兎がイナリを見る。イナリが赤くなった。
「あー……まあ、気持ちはこもってたかな。熱烈に」
言葉を濁す。大体の予想はついた。
(どうせイナリのことだから、サッカーのルールもろくに調べずにただそこにいただけなんだろうな)
「イナリは今日も部活くんの?」
「お邪魔したらあかんどすか……?」
「いや、他の部員もめちゃくちゃ歓迎してるから、都合つくなら来てもらいてえところだけど」
「ナオトさまは……?」
イナリがタヌキ目を潤ませる。
「ナオトさまは、ウチが行くと嬉しいどすか……?」
「……あ、ああ。そりゃ、まあ、な」
(え……?)
すずめは、直兎の頬が少しだけ赤くなるのを見逃さなかった。
ずきん。
また、この胸の痛みだ。
「そりゃあさ、応援してくれる人がいるってのは……その、嬉しい、もんだろ?」
「……その言葉、嬉しいどす」
イナリが小声でつぶやく。
「あの、さ。イナリ」
直兎がイナリを見る。
「その、ナオトさま、って呼び方、やめようぜ。ナオトでいいぜ、ナオト、で。初対面でもなんでもねーし、そもそも初対面だって、同い年でさまづけなんかで呼ばねーだろ?」
イナリが頬を緩ませた。
「ナオトさ……ナオ、ト」
「お、おう」
二人で顔を赤くして、うつむいた。
「ほほう……?」
アカリが顎に手を当てて、いやらしい笑みを浮かべる。
「これは強制の効果てきめんですなあすずめさん……って、すずめ?」
アカリがすずめに耳打ちする。すずめの表情が暗いことに気づいた。膝の上で握りこぶしを作って、うつむいている。
「すずめ……」
アカリは察した。
そして、すずめも、これまでうっすらとわかってはいたものの、それを痛感した。
何者かの妨害を考慮して、確かに強制力は強めに設定した。
しかし。うまく事が運んで喜ぶべきなのに、この胸の痛みはなんなのか。
――もう、わかっている。
――自分は、直兎が好きなのだ。




