セックスアピールと行きだおれ
「お昼一緒に食べたいって、そんなの自分で言え、だよ。今なら多少のお願いは無条件で聞いてもらえるように強制してあるんだよ?」
「そう言わずにつきあっておくれやすぅ……ウチひとりでは恥ずかしゅうて……」
「イナリとナオトって、昨日でだいぶ仲良くなったんじゃないのっ? もっと勇気出してもいいと思うんだけどなあっ?」
すずめとアカリが、ずーりずり、と廊下を引きずられるようにして直兎のクラスに向かう。
イナリは実際の生徒ではないから、もちろん授業には参加しておらず、お昼のためだけにとりあえず登校した。イナリと直兎が昼食をともにする、というのは筋書きにはあったが、本来はイナリ単独で直兎にアプローチをかける予定だった。
「まったく……この調子で告白できるのかな」
弁当の包みを片手に、すずめがため息をついた。
「見てるぶんには面白いからいいんだけど……ひひひっ」
アカリがカレーパンの袋をゆらゆらさせて、にたりと笑っている。
「なんかね……」
すずめがつぶやいた。
「どうかした?」
アカリが訊きかえす。
「今日はやけに周囲の視線を感じる気がするんだけど、どうしてだろうね……?」
「んん……?」
アカリが周囲を見回すと、確かに廊下を行きかう生徒のまなざしが、ちらっ、ちらっ、とこちらを盗みみている気がする。割合的には、男子が多い。
「ふんっ」
ぶわっ、とアカリが振りかえってみると、わざわざ足を止めてこちらを凝視していた生徒たちが、一斉に視線をそらした。なにごともなかったかのように、歩を進めはじめる。やはり割合的には、男子が多い。頬を染めた女子もいることはいる。
「うーん……?」
アカリがうなる。考える。
「あっー!」
ピンと来た。
「……ん?」
すずめが怪訝な顔でアカリを見ている。
つまりはそういうことだ。
目の下のクマが一層濃いが、ロリコン御用達ルックス、かつ、アイドルのすずめ。
タヌキのようなタレ目を潤ませてはいるが、主張の激しいわがままボディのイナリ。
「そしていたずらっぽいネコ目のトータルバランスプロポーションに優れたアタシ!」
「いきなりなに叫んでやがるファック」
「アタシたち三人の美貌に首ったけってやつよっ!」
アカリがずびし、と裏返したピースを目の下に当てた。
「……だからなにやってるの」
すずめがげんなりする。
「この視線はね、ハートマークよっ」
「日本語でお願いしたい」
「すずめはさっ、アイドルの自覚ないよねっ? アイドルになれる人って、基本的にはかわいくないとダメでしょ?」
「イグザクトリー」
すずめは力強くうなずいた。
「そういうことよ。草臥れてるけどアイドルのすずめ、ポンコツだけどふしだらなイナリ、そしてベースもケアもパーフェクトなアタシ! 夢がひろがりんぐ!」
「……つまりなに? 微妙にディスってるのは見逃してあげるからさ」
「セックスアピールにほだされた男子と一部女子が視線を送らずにいられない状況ってことよ」
「ああ、うん。そうか。ずいぶん遠回りしたけど納得はしたよ」
すずめは呆れたように言ったが、その口元は計画通り、だった。
「注目されるのは、悪い気はしないね」
すずめの表情は、ダークサイドだ。
「なんだか、恥ずかしいどすぅ……」
イナリは頬を染めている。
「出雲県最強女子三人。刮目して見よ」
アカリは陶酔している。
「アカリとイナリって本質的なところがかぶってるよね」
すずめはつぶやいたが、二人には聴こえていない。
体育科のクラスの前に来ると、人だかりができていた。
「……なんだ、この産廃どもは」
すずめが人垣に舌打ちした。
「うーん……まさか、ね」
アカリが持ち前の身体能力を活かして、人垣をくノ一の如くすり抜けていった。
「ああ、すずめー」
偵察を終えたアカリが、気配を微塵も感じさせずに帰還する。
「ナオトが行きだおれてる。廊下にぱったり」
「ナオトさまがっ? えっ、ど、どないしたんっ?」
イナリは血相を変え、持っていた重箱を無理やりアカリに押しつけると、人垣をかき分けてその中に吸収された。
「――ナオトさま! しっかりしておくれやすぅっ!」
「……い、イナリ……か……」
人垣の向こうから、直兎のうめきが届いた。
「――は、はらが……」
「おなかがどないしはったんどすかっ」
「――減った」




