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選民思想

「ふふふ、気づいてくれたみたいだね。そうそう、じゃないと困るんだよ。張りあいがないとね」




 ワンルームマンションの一室で、一人用のソファに腰掛けながら、そのシルエットは言葉を紡いだ。


 暗闇に溶けこみ、レースカーテンの向こうから沁みいる町のほのかな灯りに身をあずけて、しかし、おそらくは笑みを浮かべている。


 殺風景な部屋の壁、どこかの学校の制服が、整ってぶら下がっている。家具らしきものは隅にある黒い小ぶりなチェストと、曲線が絡みあうケルト文様を縁にかたどった姿見だけだ。


「神はひとりでいい。私が信じるのは、妖艶なあなただけだよ」


 膝の上で丸まっている黒猫に、声をかけ、愛おしそうに体をなでた。




「――ねえ、グルヴェイグ?」




 呼びかけられた黒猫は、顔をあげると、ひとつ大きく欠伸をした。すぐにまた、顔をふとももにうずめる。


『君は、考えることが極端だね』


 口を開くこともなく、黒猫は語りかける。


「極端? そうは思わないけれど」


 シルエットが肩をすくめた。


「あなたが私のところに現れてくれたとき、運命を感じたんだよ。ああ、私はやっぱり優れてるんだって。評価されるべきは、優れた人間だけなんだって。美貌、知能、躰。おためごかしで笑いあってるなんて、ほんとうに、滑稽だよね。そんなの、理にかなってないじゃない」


『僕を崇拝する魔女はこれまで――何人かはもう、覚えていないや。政治目的で僕を利用しようとする魔女……魔女って表現はおかしいかな。ニンゲン、だね。そう、人心掌握の目的で僕をシンボルにするニンゲンはたくさんいたけど……』


「私は、醜い存在が、のうのうと、私と同じ空気を吸ってることが(ゆる)せないだけだよ」


『……君みたいな魔女、は、僕が知る限り、数えるほどしかいなかったよ』


「それは褒め言葉と受けとっていいかな」


『うん、それは任せるよ。とにかく思うのは――』


 グルヴェイグ、と呼ばれた黒猫はまた欠伸をした。




『――君は、自分が選ばれたことだけに価値を見出しているだけな気もするね』




 シルエットの頬が釣りあがる。


「それは当然じゃない。真実はひとつしかないから真実っていうんだもの」


 グルヴェイグはもう、寝息を立てていた。


 会話の中身がいつも通りすぎて、寝たふりをしているのかもしれない。




「――すずめくん、美しくて強いあなたには、私の駒になってもらうからね。醜いものなんてない、私たちとグルヴェイグの、きれいな世界を創らないと」

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