登山
自分への問いかけですかね。
いつからこの山道を歩いていたんだろう。
道は上り坂になっているので頂上へ行くつもりだったのだろうか? 張り出した木の根に躓かないように慎重に足を置く位置を考える。羽虫が耳の側をブーンという音をたてて飛び去って行った。
「はぁ、はぁ。疲れた。」
ごろごろした岩がむき出しになった段差の前に立って、山道の先を伺ってみる。うっそうと茂った両側の木々の隙間にチラチラと陽の光が差し込んでいるようだ。
光? 少しは開けた場所があるのだろうか。
「・・・とにかく登って行くしかないよね。」
木の根と岩の突起を掴んで、力を込めて疲れた身体を引き上げる。足元で小さな土くれがボロボロと崩れていった。額から落ちて来た汗が口の中に入って来て、しょっぱい。ごくりと汗を飲み込んで、右肩で吹きだした頬の汗を拭った。
「開けたところまで行こう。そこで休憩だ。」
森の湿った匂いを嗅ぎながらなおも歩き続けていくと、木々のトンネルを抜けて目の前に低木の茂みが現れた。高山帯の植物だ。しばらく登った道端に大きな岩があったのでその上にやっと腰を落ち着けた。
「うわーーーっ。」
振り返って下を見ると眼下に無数の山々が連なっているのが見えた。澄み渡った空の下に絶景のパノラマが広がっている。遥か向こうには海の青色も微かに見えている。
「ここはどこなんだろう。私は何をしているんだろう。」
自分自身に問いかけてみるが、答えが解らない。
首を巡らせて頂上と思しき岩肌を見る。
あそこに何かがあるのかもしれない。
あそこまで行けば何かが掴めるのかもしれない。
固くなってきた腿をこぶしで叩いて凝りをほぐす。大きく深呼吸をして、立ち上がった。
「行こうっ!」
私は足を一歩一歩前に進めて、何かに向かって登って行った。
夏・祭り企画、参加作品です。