親友
「おまえが秘密主義って、知らなかったな」
「竜哉、ひとのこと言えねェじゃん」
「俺には、おまえに紹介できるような相手が、いないだけ」
ぜんぶが遊びだと、言わなくてもニュアンスで分かるんだろう。
瞬は、いつもそれ以上は追求してこない。
「だって。竜哉、もてるし。おれよりずっと、おんなの子馴れしてるし」
サッシの縁に左右のうでとあごとを重ねた瞬は、ほとんど子供のころのままだ。
「それが?」
「もし、紹介してさ。おれより竜哉のほうがいいとか言われたら嫌じゃん」
おもわず、窓枠で煙草をひねり潰した。
「バカ言ってんな。おまえに惚れてる相手が、俺なんかになびくわけねーだろ」
「い、い、や」
ちからを込めて、平らな爪が俺を指さす。
「竜哉の魅力は、おれがいちばん良く知ってんだからっ」
俺も、瞬の魅力を知っている。
ちょっと抜けてるところもあるけど、こいつは真っ直ぐで、誠実で、ひとの痛みだって思いやることのできるヤツだ。
だから、瞬のとなりに並ぶ子は、そういう長所を理解して、こころから愛してくれるはずだと、なんの疑いもなく信じていた。
「おまえは、俺を買いかぶりすぎてるんだ」
「そんなことねェよ。ヘっタクソなおれに、懲りずにサーフィン教えてくれたり。ネットで何ヶ月も、おれが欲しがってたバイク、探してくれたり。やさしいし、頼りになるし。それに、母さんより飯つくんの上手いしさ」
瞬のことだから、最後まで大まじめに言ってるんだろう。
「……それは、おまえにだけだろ」
一瞬おどろいた顔をしたあと、瞬は照れたように笑いだす。
「ほら。竜哉って、口説き上手!」
「口説いてねーよ」
「あはは。でも、まじで。彼女、サーフィン好きだから。竜哉が波のってるところ見たら、おれなんか目に入んなくなるよ」
まだ、黒い髪をしていたマリアが、似たような背格好の女たちとビーチに現れたのは、四年くらいまえだった。
うちひとりが、顔見知りのローカル仲間と今年の春にゴールインしたときいたけれど、いちばん気さくで、男たちに人気があったのは多分マリアだ。
ちょっと東洋人ばなれしたスタイルの良さと、ほとんどノーメイクでも問題のない小顔は、素材のよさに甘えない努力のたまものなんだろう。
ああいう子に甘えられたら、男はだれでも、それなりにいい気になるに違いない。
分かっていて、使えそうなヤツをつぎからつぎに乗り換える。
マリアは、小悪魔と呼ぶにはひどく巧妙なおんなだった。
「おまえが腕を上げたいっていうなら、いつでもコーチしてやるけどな」
「竜哉とさいごに海行ったの、六月だっけ」
「さあ。だれかさんが、合コンで紅短の子を見初めてくるまえだろ」
「う……」
「いや、おまえが見初められた方か?」
相手はひとつ年下の、紅女子短期大学の子だと、瞬が語った情報はそれだけで。
どちらから告ったとか、どのタイミングでやったとか、瞬はいわないし、俺も聞きだそうとはしなかった。
言い寄ったのはマリアからで、誘われたのは、おおむね五回目のデートのあたりだろう。
母親のいる自宅はもちろん避けて、ホテル代はつねに瞬持ち。
いちいち、聞くまでもない。




