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マリアという女  作者: 有羽妃
4/6

親友

「おまえが秘密主義って、知らなかったな」

「竜哉、ひとのこと言えねェじゃん」

「俺には、おまえに紹介できるような相手が、いないだけ」


ぜんぶが遊びだと、言わなくてもニュアンスで分かるんだろう。

瞬は、いつもそれ以上は追求してこない。


「だって。竜哉、もてるし。おれよりずっと、おんなの子馴れしてるし」


サッシの縁に左右のうでとあごとを重ねた瞬は、ほとんど子供のころのままだ。


「それが?」

「もし、紹介してさ。おれより竜哉のほうがいいとか言われたら嫌じゃん」


おもわず、窓枠で煙草をひねり潰した。


「バカ言ってんな。おまえに惚れてる相手が、俺なんかになびくわけねーだろ」

「い、い、や」


ちからを込めて、平らな爪が俺を指さす。


「竜哉の魅力は、おれがいちばん良く知ってんだからっ」


俺も、瞬の魅力を知っている。

ちょっと抜けてるところもあるけど、こいつは真っ直ぐで、誠実で、ひとの痛みだって思いやることのできるヤツだ。

だから、瞬のとなりに並ぶ子は、そういう長所を理解して、こころから愛してくれるはずだと、なんの疑いもなく信じていた。


「おまえは、俺を買いかぶりすぎてるんだ」

「そんなことねェよ。ヘっタクソなおれに、懲りずにサーフィン教えてくれたり。ネットで何ヶ月も、おれが欲しがってたバイク、探してくれたり。やさしいし、頼りになるし。それに、母さんより飯つくんの上手いしさ」


瞬のことだから、最後まで大まじめに言ってるんだろう。


「……それは、おまえにだけだろ」


一瞬おどろいた顔をしたあと、瞬は照れたように笑いだす。


「ほら。竜哉って、口説き上手!」

「口説いてねーよ」

「あはは。でも、まじで。彼女、サーフィン好きだから。竜哉が波のってるところ見たら、おれなんか目に入んなくなるよ」


まだ、黒い髪をしていたマリアが、似たような背格好の女たちとビーチに現れたのは、四年くらいまえだった。

うちひとりが、顔見知りのローカル仲間と今年の春にゴールインしたときいたけれど、いちばん気さくで、男たちに人気があったのは多分マリアだ。

ちょっと東洋人ばなれしたスタイルの良さと、ほとんどノーメイクでも問題のない小顔は、素材のよさに甘えない努力のたまものなんだろう。


ああいう子に甘えられたら、男はだれでも、それなりにいい気になるに違いない。

分かっていて、使えそうなヤツをつぎからつぎに乗り換える。

マリアは、小悪魔と呼ぶにはひどく巧妙なおんなだった。


「おまえが腕を上げたいっていうなら、いつでもコーチしてやるけどな」

「竜哉とさいごに海行ったの、六月だっけ」

「さあ。だれかさんが、合コンで紅短の子を見初めてくるまえだろ」

「う……」

「いや、おまえが見初められた方か?」


相手はひとつ年下の、紅女子短期大学の子だと、瞬が語った情報はそれだけで。

どちらから告ったとか、どのタイミングでやったとか、瞬はいわないし、俺も聞きだそうとはしなかった。

言い寄ったのはマリアからで、誘われたのは、おおむね五回目のデートのあたりだろう。

母親のいる自宅はもちろん避けて、ホテル代はつねに瞬持ち。

いちいち、聞くまでもない。



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