こぼれた気持ち
紺が周囲の様子を調べに行き、和茅と歩智はふたりだけで休憩していた。
さわさわと風が枝葉を揺らしながら吹きぬけてゆく。どこからか鳥の鳴き声が聞こえてくる。
ふたりとも無言だけれど、和茅は居心地が悪いとは思わなかった。
隣に歩智がいるだけで、ほっこり心が温かくなるような気持ちになるのだ。
歩智は気難しいし、口数だって多くないし、しゃべったと思ったら辛らつな言葉ばかり吐くし、目すら合わせてくれることはめったにないけれど。
それでも、一緒に行動するうちに、なんだかんだ言いながらも歩智は優しい子だということに、和茅は気づいていた。
重い荷物を抱えて困っているおばあさんがいたら、仏頂面ながらもさっと近寄りその荷を運ぶのを手伝うし、子連れのお母さんがスリに財布を盗まれる現場に遭遇したら、そのスリにすら気づかれない素早さで財布を取り返し、子連れのお母さんが気づかないうちに財布を戻していた。
歩いている途中、和茅が少し疲れてくると、和茅が言い出す前に歩智のほうから休憩を言い出してくれたりする。
その気遣いが、和茅はとても嬉しかった。
口が悪いのはもともとの性格もあるんだろうけれど、照れ隠しも含まれているようで、そう考えると歩智の態度も微笑ましく思えてくる。
だから、歩智が黙りこくっていても、気にならない。むしろ傍にいてくれるだけで、安心できるのだ。
自分より小さな子どもを相手にこんな風に感じるのは、おかしいかもしれないけれど。
今も和茅はいつものように、無理に歩智に話しかけたりせず、食料や消耗品の残りを確認したり、空を見上げたり、聞こえる音に耳をすましたりしていた。
「あいつはやめとけ」
ぼそりと呟く声が聞こえ、和茅ははっと歩智を見た。
歩智は草の上に寝転がって、目を閉じている。
「え? やめとけって――?」
寝言かな、と思ったけれど、反射的に問い返していた。
「信用するな」
「どういうこと?」
寝てはいないようだけれど、返事がない。
質問に答えてくれるつもりはなさそうだ。
和茅は返事に窮して、開いていた口をつぐんだ。
あいつというのは、紺以外にいないだろう。
紺が言っていたように、歩智は紺に対してなにか含むところがあるのだろうか。
そのなにかが、歩智にこんな風に言わせている?
歩智が紺に対してよい感情を抱いていないのはわかる。
実際のところ年齢差がどのくらいあるのかはわからないけれど、ぱっと見で紺と歩智は十歳くらい離れている。
ついでに身長差もかなりある。おまけに精神年齢も、外見に比例しているように見受けられる。
けれどもし、歩智が劣等感を抱いているのだとすれば、そんな必要は全くないのに――。
紺は紺だし、歩智は歩智だ。
「歩智、わたし、歩智とずっと一緒にいたいな」
ふいに心に浮かんできた気持ちが、ぽろりと口からこぼれた。




