三人旅
「どうしたのさ?」
「え?」
「あいつのことが気になる?」
顔を上げると、紺の栗色の瞳がすぐ傍にあって、和茅の心臓がどきりと跳ねた。
美形の顔は、ときどき心臓に悪い。
あまり近づかないでくれるとありがたいのだけれど。
「うっ、うん。せっかくだから、歩智にも納得してもらいたいなって思って。そうじゃないと、たとえ『柄杓』が見つかっても、嬉しさが半減しちゃうような気がして」
「和茅は相変わらず優しいなぁ。おれ、そんな和茅のこと好きだな」
紺があまりにさらりと言うので、和茅は一瞬なにを言われたのかわからなかった。
脳内で耳に残っていた言葉を巻き戻し、再生してから驚きに目をみはった。
「すっ……好きぃっ!?」
予想外のことで、思わず声が裏返る。
「あはははは。ほんと、和茅は可愛いなぁ」
動揺する和茅の頭を、紺がわしわしと撫でた。
「そいつはなんでもかんでも真に受けるんだから、あんまからかうんじゃねえよ」
と、歩智の鋭い声が投げかけられる。
「そっ、そうだよね、からかっただけだよね。はは。もう、焦っちゃったよー」
まだ心臓がばくばく鳴っているけれど、歩智の冷めた顔を見たら、だんだん落ち着いてきた。
紺が昔から女の人にもてていたことを思い出す。
そんな紺が今更、和茅に対してどうこういう気持を抱くわけがない。
それなのに、一瞬動揺してしまった自分がだんだん恥ずかしくなってくる。
和茅にとっても、残念ながら紺は恋愛対象にならないというのに。
「はは、あはは、あは。あ、ほら、そろそろ幻北山の入り口だよ? 早く行こう!」
ばんばん、と仏頂面をした歩智の背中を叩くと、和茅は先頭きって駆け出した。
けれどしばらく行ってもふたりが近づいてくる気配がない。
ちらりと振り返ると、にやにや笑いつつ悠長に歩いている紺と、その斜め後方から紺を睨みつけながらのろのろとついてくる歩智が見えた。
動揺と恥ずかしさのあまり駆け出してしまったけれど、紺と歩智をふたりだけにしてはまずかった。
あのふたりが仲良くできるわけがない。
和茅は一気に冷静さを取り戻し、急いで今来た道を戻り始めるのだった。




