紺
「あれ、和茅じゃん」
草を掻き分けて尾宝を探していると、名を呼ばれた。顔を上げると、ひとりの青年がそこに立っていた。
林に着いたころは高い位置にあった太陽がすっかり傾き、既に空は橙色に染まってしまっている。
夕日を背にしているせいで青年の顔はよく見えないけれど、その声には聞き覚えがあった。
「おれおれ。おれだよ、おれ」
おれおれと言いながら近寄ってくる青年のシルエットも、和茅が思い浮かべた人物だということを裏付けている。
「紺?」
「そ、おれ」
すらりとした長身に、垂れ下がり気味の目。しかし鼻筋はすっと通っていて、外見は美形の部類に入る。
ゆっくりと和茅の傍までやってきた青年は、濃茶色の髪をかき上げ、にこりと笑った。
初めて会った相手を虜にしてしまいそうな、完璧な笑顔だ。
「久しぶりだね、紺! 最近、どうしてたの? 元気だった?」
けれど和茅は見慣れているので、別に虜にされたりはしない。
紺の笑顔につられるように、和茅も笑みを浮かべて挨拶を交わす。
紺も尾宝ハンターで、一時期、ふたりで一緒に行動していたことがあるのだ。
「元気元気。おれは相変わらず流れの尾宝ハンターをやってるよ。和茅がいるってことは、ここに尾宝があるのは間違いないってことだな」
和茅の能力をよく知っている紺が、口の端を上げて笑った。
流れの尾宝ハンターとは、どこの集団にも所属していないハンターのことだ。ときと場合によっては大きな集団と手を組むことがあるが、基本的にはひとりから数人で行動することが多い。
「そのはずなんだけどなー……」
和茅は嘆息混じりに言うと、がっくりと肩を落とす。目星をつけた場所を探せど探せど、お目当ての物が見つからないのだ。
探し飽きたのか、歩智は既にどこかへ行ってしまい、その姿は見当たらない。
「尾宝『石榴』だっけ? それとも『通草』?」
「『通草』だよ。割れる前の『通草』を見つければ高く売れるでしょう?」
『通草』は、ちょうど掌に乗るくらいの大きさをした楕円形の尾宝で、割った瞬間に中から約百個の木の実が溢れ出すという、容量とか体積といったものを完全に無視している尾宝だ。
その木の実はひとりでは到底食べきれない量だけれど、集団行動の際には重宝される。
たとえば子どもたちの遠足の際のおやつだとか、戦のために出陣した兵たちの非常食として。
かさばらないのが嬉しい、便利な尾宝だ。
同じ系統の尾宝に『石榴』がある。どちらも一回の使い切りで、珍尾宝のように幾度も使えたりはしない。
ただし珍尾宝のように尾垂界に各ひとつずつというわけではなく幾つも存在しているので、見つけるのはそう難しいものではない――と言われているのだけれど……。
和茅はもう一度ため息をつくと、うーんと大きく伸びをした。
「一緒に探してやろうか?」
「うん……。もうすぐ日が暮れちゃうし、頼もうかなぁ」
和茅が空を仰ぎながら言ったそのときだった。
「必要ねえよ」
突然投げこまれた声があった。
「歩智!?」
和茅がくるりと背後を振り返ると、いつの間に戻ってきたのか、そこに歩智が立っていた。




