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おまえの尾っぽは、おれが守る

 既に行列からはだいぶん離れており、周囲に人の姿はまばらになっている。

 尾頭宮の中はだだっ広いので、通行局のように混雑する場所以外は、意外とこんなものだったりする。


「歩智、本当に役人だったんだね」

「なんだよ。悪ぃか?」

「悪くないけど……その言葉遣いは、なんとかならないの?」

「尾頭宮の中ではちゃんとやってるぜ。こうして、邪魔くさい官服だって一応着用してるしな。飾尾門を出たら即行で脱いでやっけど」


 そう言って肩越しに振り向き、口の端を上げて笑う歩智は、和茅の見慣れた歩智で、ほっとする。


「うん。それがいいよ」

「へえ? 和茅さ、さっき、このカッコしたおれに見惚れてたんじゃねえの?」


 図星を指されて、和茅は思い切り動揺した。


「えっ、そっ、そんなことは、ないけどっ!」

「そりゃあ残念だ」


 咄嗟に否定してしまったが、歩智は余裕の表情で和茅を見下ろしている。

 さして残念そうに見えないのは、気のせいではないはず。


 もしかして、すっかりバレてる?


 和茅は、疑いの眼差しで上目遣いに歩智を見た。目が合う。


「あのさ、和茅。前におれが言ったこと、覚えてるか?」


 突然問いかけられ、歩智が言ったことって、いったいいつのどれ? と和茅は首を捻りながら記憶を探る。


「えーっと……た、たぶん覚えてることは覚えてると思うんだけど、ひとつを選ぶのは難しいっていうか……」


 もう少し具体的に言ってくれないと、絞り込めない。


「ハンターをやめたらどうだって、話」


 歩智は体ごと和茅のほうに向き直ると、あっさりと答えた。

 言われて和茅もすぐに思い出す。確かに、そんなことがあった。西湖都でのことだ。


 もっと安全な仕事をしたらどうだ、と歩智は言ってくれた。


「うん、覚えてる」

「あれ、今でもおれはそう思ってんだけど……」


 真正面から、歩智がじっと和茅の目をのぞきこむ、歩智の黒い瞳に思わずどきりとしてしまう。


「で、でも、これがわたしの仕事だし……」

「おまえさ、人間界から戻ったら、おれの助手やんねえ? 仕事内容はそのまんま、尾宝を調査するその手伝い。尾宝感知能力が役に立つから、おまえの能力だって存分に活かせる。いい転職先だと思うんだけど、どうだ?」

「尾宝調査官の、助手?」


 突然降って湧いた転職話に、和茅は戸惑う。


「ああ。それなら、ずっと傍にいられるし、おまえが無謀なことをしそうになってもすぐに止められるからな。おまえのその能力を知って、悪用しようっていうヤツがちょっかい出してきても、おれがおまえを抱えて逃げてやる」


 無謀なこととはつまり、唐柿と太刀一本で幻獣に立ち向かおうとすることを言っているに違いない。

 でも、あのときはあれが最善だと思ったのだ。

 それにしても、最後はやっぱり逃げるところが歩智らしい。


 思わずくすりと笑ってしまったけれど、歩智があまりにも真剣な顔をしているので、笑みを引っ込める。


「歩智……?」


 歩智が、なにか覚悟を決めたように、口を開く。


「おまえのことは――おまえの尾っぽは、おれが守る」


 え――?


 心臓が、止まるかと思った。


 わたしは、歩智の目を見つめたまま、動けない。

 頭の中で、今聞いたばかりの言葉が何度も繰り返される。  


 ふたりのあいだを、さあっと風が吹きぬけ、歩智の前髪を揺らす。

 少し遅れて、心臓がばくばくと大きく鼓動を打ち始める。


「えっ、あのっ、ちょっ……」


 動揺のあまりなにを言えばいいのかわからず、無意味に手をばたばたとさせてしまう。


 『あなたの尾を守らせてほしい』というのは、尾垂界では最上級の告白の台詞なのだ。

 求婚時に使われることも多いと聞く。


 そんな台詞を歩智が口にするなんて――。しかも和茅に。


 歩智は深い意味で言ったのではないかもしれない。

 それでも和茅は驚いたし、なにより、すごく嬉しい。


「そういうことだから」  


 それだけ言うと、歩智は不機嫌そうな顔のまま踵を返し、再び飾尾門目指して歩き始めてしまった。

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