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本音

「そっちの都合は知らないが、尾頭宮の調査官がここにいる以上、不正や誤魔化しはできないということ。力ずくで奪ってもいいが、それと同時におれたちはおたずね者という寸法だ。――ここまで来たのは無駄足だったということか。とんだ大損ではないか」


 和茅と歩智の様子を傍観していた楼が苦々しそうに言うと、さっと身を翻す。

 肩にかけている鮮やかな羽織がひらりと空に舞った。


「おまえたち、退くぞ」と両脇のふたりに声をかけたかと思うと、楼は一瞬のうちにこの場から去ってゆく。


「二年前の件に関しての調査は、まだ終わっちゃいねえぜ。せいぜい今のうちに活躍しとくことだな」


 遠ざかるその背に向かって歩智が声を投げかけたが、楼は振り返らなかった。

 紺が、小さくなる楼の姿と和茅とを交互に見ながら、どうすべきなのか悩んでいるのが手に取るようにわかる。


「行ってもいいよ」

「和茅……」


 紺が困った顔を和茅に向ける。


「紺が、お兄ちゃんのこと心配してるの、よくわかるよ。人間界にいたころから、仲が良かったもんね」


「楼が変わったのは、両親を見殺しにされたのがきっかけだっておれはわかってるからさ。あれ以来、楼は人を信用しなくなったし、信用されなくても構わないって風になっただろ? 今、楼の傍にいる連中は、変わったあとの楼しか知らない。それに、『尾の一』はメンバーの入れ替わりが激しくて、実は仲間意識がすごく薄いんだ」


 紺は、紺なりにいろいろと考えてくれているのだ。


「うん。紺が傍にいてくれると、お兄ちゃんもきっと嬉しいと思う。だから、お兄ちゃんのことお願いね。でも、あんまり無理なことや危険なことをさせられそうになったら、ちゃんと断るんだよ?」

「和茅。……二年前はごめん」


「いいの。謝らなくてもいいよ。お兄ちゃんに言われたんでしょう? わたしのこの特殊能力を利用すれば、簡単に珍尾宝が手に入る。珍尾宝が手に入ったら、名前を売ることができる。そう考えたんだよね。……わかってるから」


「和茅、それは違う。楼は素直に認めないけど、ずっとおまえのことを心配してたよ。でもその一方で、尾垂界に名を馳せ、自分の親を騙したやつらを見返したいってずっと思ってたんだ。きっと、その気持ちが強すぎたんだと思う。そのためなら、なんでもやる。楼はそんな風になっていった。荒事だって結構やってた。他人に恨まれることもある。だから、楼は和茅を巻き込まないために、一緒に暮らしていたあの家を出たんだ」


「あのころから、もうそんなことを始めてたなんて、全然知らなかった」


「当時はまだ目立たないようにやってたみたいだからね。二年前、楼がおれに和茅のところから『桶』を持ち出すよう言ったのは、確かに自分の名前を売るためだったと思うけど、あのまま和茅が『桶』を尾頭宮に持って行っていれば、名が知れ渡って、他のハンターたちから狙われる危険があった」


「そんなこと、ハンターなら承知の上よ」


 だからこそ、自衛の術を身につける。


「それでも、心配するのが家族だろ。だから、おまえが危険な目に合うのを未然に防ぎたいって考えもあったんだと思う。和茅にとっちゃ、随分と勝手な判断だと思うかもしれないけど……。でも、現に、『尾の一』の中には珍尾宝強奪計画なんてものを考えている奴等もいたんだ」


「お兄ちゃんが、わたしのことを考えてくれてた?」

「ああ。和茅が楼のことを案じているように、楼だって和茅のことを心配してるんだ。だから、安心しろよ」


 紺がいつになく真面目な顔で語った話は、和茅にとって初耳のことばかりだった。

 けれど、これまで知ろうとしなかったのだから、それも当然なのだろう。


 和茅は目頭が熱くなるのを感じた。

 兄は昔の兄とは違ってしまったけれど、それでも和茅の兄であることは変わらないのだ。


「紺、話してくれてありがとう」

「ああ、じゃあな」


 紺が和茅の頭をわしわしと掻きまわす。


「もう、和茅に迷惑をかけるようなことすんじゃねーぞ」


 歩智がいつもの不機嫌な顔で言うと、紺が心外そうな表情を浮かべた。


「おまえこそ、和茅を傷つけるなよ」


 紺の真面目な顔に、歩智は苦笑を浮かべながらうなずいた。


「わかってるっつーの」


 その返事を聞いて、紺は小さく笑って和茅に背を向けた。

 小さくなった楼の姿を追って紺が駆け出す。

 和茅は歩智に寄り添い、その背中を見送る。


 そのとき――。  


 視界に鮮血が散った。

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