尾宝探見者
和茅の仕事は『尾宝』を見つけることだ。
尾垂界には『尾宝』がたくさん眠っている。
尾宝には日常的に利用されるものから、常識では考えられないような不思議な力を発揮するものまで様々な種類があり、中には思いもよらないような高値で売れるものもある。
尾垂界には尾宝を見つけ、それを売ることを生業にしている和茅みたいな者が多くおり、そんな彼らの
ことを住人たちは『尾宝ハンター』と呼ぶ。
正確には、少し前まではそう呼んでいた。
しかし今では例の施策の一環として役所から『尾宝探見家』と言い改めるよう通達が出されたので、表立ってはあまり使われなくなってしまった。
けれどハンターたちは今でも名乗るときは『尾宝ハンター』と口にする。
探見家よりもハンターのほうがしっくりとくるし、ハンターとしての矜持も少なからずある。
なにより、尾垂界の住人にとって、『尾宝ハンター』は一攫千金も夢ではない、浪漫あふれる職業なのだ。
夢と希望と、諸々の妄想も背負っている職業なのだ。
そう簡単に別の言葉に置き換えられるものじゃない。
と他のハンターたちが主張していた。
和茅はさほどこだわりのあるほうではないけれど、やっぱり名乗るときは『尾宝ハンター』なのだった。
もう、癖になっているというのもあるけれど、『尾宝探見者』という言葉はどこかよそよそしくて好きになれなかった。
『尾宝ハンター』は尾宝を入手して尾宝商人に売り、その稼ぎを足しにしてまた次の尾宝を入手する旅に出る。
今、和茅が狙っているのは尾宝の中で最も価値があるといわれている『三種の珍尾宝』のひとつ『柄杓』だ。
『柄杓』は金以外であれば望む物をなんでも出してくれるという、魔法の柄杓なのだ。
しかも使用回数は無制限という噂だ。
見つ出して売ることができれば、一夜にして大金持ちになれるという、夢のような尾宝なのである。
※※※
「礼は特大ステーキでいいぜ」
道中、和茅が古着屋で買ってあげた童水干に着替えた歩智が、ご機嫌そうに口笛を吹きながら、足駄をカランコロンと鳴らしながら隣を歩いている。
「か、考えとくよ」
「絶対だからな」
「ぜ、絶対~?」
歩智の態度は相変わらずどこの王子さま? 的なものだけれど、今の和茅にはそれに文句を言う権利はないのだった。
和茅はお財布代わりの巾着の中身を思い浮かべて、今後の旅費を計算してみる。
宿泊費、食費、消耗品などの購入費等々……。
散々けなされた挙句、ようやく進むべき道が判明した五叉路で、歩智は「おれのおかげだな」と腕を組んで偉そうにふんぞりかえった。
和茅としても歩智がいなければ迷っていたのは間違いないわけで、その点は認めざるを得ない。
お金のやりくりは少々苦しくなるけれど、特大ステーキが食べたいというのであれば食べさせてあげようと思うくらいには感謝してもいる。
特大ステーキを楽しみにしているらしい歩智の顔をちらりと見ながら、他のところで贅沢しなければなんとかなりそうだ、と考える。
歩智の機嫌がよいのは珍しいことなので、ここで機嫌を損ねたくないという気持ちもある。それに、同行者が嬉しそうだと、自分も嬉しい。
心置きなく特大ステーキを食べられるように稼がなくちゃ、と和茅は気合を入れ直すのだった。
そしてその道を進むこと半刻。
ふたりは道の脇に広がる林の中に踏み込んでいた。この辺りに尾宝があるという情報を耳にしたので、それを見つけるためにやってきたのだ。
残念ながら珍尾宝『柄杓』ではないけれど、どんな尾宝でも見つけて売れば金になるのだから、入手するにこしたことはない。
「で、本当にこっちなのか?」
歩智が疑わしそうな目で和茅を見る。
「うん、お尻がびりびりするもの」
和茅には尾が二本あり、二本目の尾には『尾宝の気配に反応する』という、尾宝ハンターとしてとてもありがたい能力が備わっているのだ。
ただし尾垂界では尾を隠しているので、反応といっても尾の付け根――お尻の上あたりがびりびりむずむずするだけなのだけれど。
それでも、和茅はこれまでにもこの尾のおかげで、何度も尾宝を手に入れている。
「あのさぁ、そのびりびりっていうの、なんなんだよ? 当てになんのか?」
「なるのよ。これまで、はずれたことはほとんどないんだから」
ただ、詳細な場所まではわからないので、近くまで行ったらあとは自力で見つけ出さなければならない。距離が近くなるにつれびりびりが強くなる、といったわかりやすい変化があればよいのだけれど、と和茅はいつも思う。
残念ながらそんな便利な機能はない。
ただ、尾宝の稀少度によって反応が大きくなるという傾向はある。
いずれにせよ、この尾をもっている分、他の尾宝ハンターよりも有利なはずだ。
「ま、別におれはどうでもいいけどな」
歩智が肩をすくめて、興味なさそうに言う。
「どうでもよくないよ。尾宝をみつけてお金を稼がないと、歩智のごはん代だってなくなっちゃうんだからね」
「そりゃ大変だ」
ちっとも大変だと思っていなさそうな歩智の声に、和茅はがっくりと肩を落とす。
「いいの? 骨付きステーキだって食べられなくなるんだよ?」
ちょっと焦らせようと、そんな意地悪を言ってみる。
「もしそんなことになったら、和茅の巾着をいただいてとっとととんずらするから構わねえよ」
「そ、それはダメ!」
巾着には、当面の旅費が入っている。一応、まだ当分生活できるだけの金は残っていたはずだ。それを持ち去られたら、大いに困る。
和茅は袖に触れて、中に入れてある巾着の感触を確かめた。ある。よかった、と安堵の息を吐く。
「……言ってみただけだよね?」
「どうだろうなぁ?」
歩智は曖昧に答えると、にやっと笑った。十をいくつか過ぎた程度の子どもには似合わない、大人びた笑い方だ。可愛くないなぁ。
「歩智はそんなことしないもんね?」
和茅が重ねて問うと、歩智が心外そうに眉間にしわを寄せた。
どうやら和茅の言葉がお気に召さなかったらしい。
でも、和茅は意外と歩智のことを疑ってはいなかったりする。
金を盗むつもりなら、出会ってからこれまでにチャンスはいくらでもあったはずだ。
和茅が寝ているあいだなんかは、これ以上ないくらいのチャンスのはず。
それなのに、歩智は盗まなかった。
まだ一緒に行動するようになって三日しか経っていないけれど、だいぶん歩智のことがわかってきたような気がする。
「さ、さあ、がんばって探そっか。わたしも特大ステーキ食べたいし!」
気を取り直した和茅は袖をたくし上げると、尾宝探索に取り掛かったのだった。




