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感知範囲

 日はとっくに沈み、空には三つの月がそれぞれ姿を現した。

 今、三番目の翠月が傾き始めている。


 歩智を先頭に、和茅、紺の並びで、三人は黙々と歩いていた。

 どこからかホゥホゥとかとキーキーとかニャアニャアという梟やらなんやらの鳴き声が聞こえてくる。

 夜だというのに、幻北山はにぎやかだ。もしかしたら、昼間よりもにぎやかかもしれない。


 折々に休憩をとってはいるものの、どうしても疲労は溜まってゆく。こういうときは、やはり四足歩行のほうが楽だな、と和茅はちらりと考える。


 つい一刻ほど前、三人は山頂へと続く山道をはずれ、森の中に踏み込んだ。そこには獣道すらなく、三人は藪を踏みしめ、枝を掻き分け、道なき道を進んでいた。

 この辺りまでくると『大蒜』の臭いもほとんど臭わない。


 それは助かるけれど、あとどれだけ進めばたどり着けるのか――。


 振り返って紺に訊ねようとしたその矢先。


「あっ!!」


 なんの予兆もなく、突然、びりびりっと電気が体を流れるような衝撃がはしった。

 和茅は短く声を上げ、そのまま意識を失ってしまった。





「――ずち、和茅」

 

 名を呼ばれ、和茅はゆっくりと目を開けた。

 目の前には、和茅を覗き込む、歩智と紺の心配そうな顔が並んでいる。


「大丈夫か?」


 歩智に問われて、和茅はこくりと小さくうなずいた。地面の上に寝かされているようで、後頭部や首の後ろが、草でちくちくする。


 体に残るぴりぴりとした感じから、自分が『柄杓』の反応の強さに気を失ったのだということを思い出す。

『桶』を見つけたときとまったく同じだった。


 体のあちこちでまだぱりぱりと帯電してはいるけれど、既に気を失うほどの強さではなくなっている。

 尾宝が感知範囲内に入った瞬間に生じる電流が、一番強烈なのだ。 


 和茅が身を起こそうとすると、素早く紺と歩智が手を伸ばし、和茅を支えようとした。けれど和茅の体に触れるなりぱちっと電気が流れる。


 それに驚いて紺が手を引いた。けれど歩智は僅かに眉をしかめただけで、そのまま和茅の背を支えるようにして上体を起こすのを手伝う。


「痛いでしょ? ありがと。わたしは大丈夫だから」


 慌ててその手から背を離すように、前かがみになりながら言うと、歩智が自分の手の平を見ながら肩をすくめた。


「別に、おれはこの程度なんてことねえよ。それより気を失うほどの衝撃を受けたおまえの体のほうが心配だ。大丈夫なのかよ?」

「平気、平気。前もこうだったから」 

「前って……『桶』のときだな?」

「そうだよ」 

「やっぱりかっ!」


 和茅がうなずくのを見た紺が、ついさっきまでの疲れた様子から一転して、まるで息を吹き返したように喰らいついてくる。


「つまり、今回も珍尾宝級の尾宝に反応したってことか?」

「うん。近くにあるのは間違いないみたい」

「確かに、この辺りは紺が言っていた場所に近いな」


 歩智が周囲をぐるりと見渡しながら言った。

 そこには幻北山の東側に位置する草原が広がっていた。

 和茅の背後には、今三人が通ってきたばかりの深い森が続いているのに、この先にある一帯だけは、不思議なことに背の高い木が一切生えていない。


 和茅が気を失ったのは、ちょうど森を抜けるか抜けないかのときだったようで、草原へと伸びる木の枝の下に和茅は寝ていたようだ。


 幻北山の南から西にかけては、既にほとんどの場所がハンターによって調査済みだ。北側は剥き出しの岩肌が続き、その中央部に深い渓谷が走っているので、ちょっとやそっとの覚悟では踏み込めない。


 それなりの知識や能力がないと、尾宝ハンターとはいえ探索に踏み切れない場所で、北側に『柄杓』があるとしたら、和茅たちにとっても入手は非常に困難ということになる。 


 けれど紺の情報によると、どうやら『柄杓』は東側にある可能性が高いということだった。

 それも山腹から上の、『(とら)(いわ)』と呼ばれる大岩付近が怪しいと。


『虎の岩』はこの草原の先にある。


「わたし、もっと動いてみるよ。そうすれば在り処が絞れるから」

「無理すんじゃねえぞ」


 歩智が不機嫌そうな顔で言うけれど、その目には和茅を心配する色が浮かんでいる。


「わかってるよ」

「本当だな? 無理だと思ったらすぐに言えよ。おれもこの辺を探しながら、徐々に範囲を狭めていく」


 今、この場所には和茅たち三人以外の気配がない。絶好の機会だった。

 まだ夜明けまでは僅かに時間がありそうだが、三人とも夜目が利くのはついている。


 和茅は『虎の岩』に向かって歩きはじめた。

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