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大蒜不使用

 三人は『大蒜』臭をさせることなく、幻北山の中を歩いていた。


 役に立ちそうな尾宝をいくつか準備してきたが、それはあくまでも予備。

 話し合いの結果、効果があるのかどうかわからない尾宝に頼るよりも、歩智の鼻をあてにしたほうがよいという結論に至ったからだ。


 前回は『大蒜』のせいで鼻のききが悪かったが、通常の状態であれば幻獣のにおいに気づくことができるはずだ、と歩智が主張した。

 幻獣に接近したとき、それ独特の生臭いにおいがしたらしい。


『大蒜』臭には和茅と紺も少々うんざりしていたので、歩智の嗅覚にかけることにした。

 幻獣に気づいたら、素早く静かにその場を離れる。

 今回は紺も一緒で、紺の走る速度も和茅と似たり寄ったりで、近づき過ぎると逃げきれないおそれがあった。少しでも早く幻獣に気づく必要がある。


 もちろん、遭遇しないにこしたことはないのだけれど。


 山に入る前に、未だに『柄杓』が見つかっていないことは確認済みだった。

 これまでに探索が行われた場所の情報も入手したので、紺の持っている情報と照らし合わせると、『柄杓』が在ると思われる範囲は随分と狭められる。


 好機だった。


 和茅が行けば、更にその範囲は狭くなるだろう。

 それまでに誰かに先を越されないことを祈るばかりだ。


 山の中には他の尾宝ハンターたちが身につけている『大蒜』のにおいがあちらこちらで漂っていたけれど、自分たちが身につけていないだけ、以前と比べていくらかましだった。

 歩智の表情も前回と比べれば幾分和らいでみえる。 


 途中までは一度通った道、前回よりは歩みも速い。

 歩きながらも、和茅は聴覚を最大限に研ぎ澄ませていた。出会った幻獣は、その足音から四足歩行していたことはわかっている。


「腹減った……。肉食いたい……」


 太陽が傾き始めたころ、よろよろと歩いていた紺が、弱々しい声でぼそりと呟いた。

 既に前回尾宝を見つけた場所よりも奥まで進んでいた。


肉樹(にくじゅ)を探したら?」


 尾垂界で肉と呼ばれるものは肉樹という樹から採れる果肉で、獣肉ではない。

 けれど品種改良されたその果肉は、本物の肉にとてもよく似ていて、肉食獣たちも納得のお味なのだ。 

 一般的に特大ステーキの肉も、肉樹の果実だ。


 ちなみに、尾垂界では狩猟が禁止されている(それがもとの姿に戻ってしまった住民でないと瞬間的に判断するのが難しいからだ)。


 住人たちへの心理的な影響にも配慮して、家畜なども尾垂界には存在しない。

 尾垂界は人間界を真似た世界ではあるけれど、尾垂界独自の理念も、規律も、しっかりと存在している。

 もしこちらで獣肉が食べたくなったら、闇市を覘くか、人間界に戻るかしなければならないのだ。


「そんな余分な体力ないって」

「それは残念だね」


 和茅は会話を短く切り上げて、再び耳を澄ませた。紺が「和茅~」と情けない声を出しているけれど、放っておくことにする。


 今回、先頭を歩いているのは歩智で、既に手がかりは紺から聞き出し済みだ。

 歩智の歩みは、少しも乱れていない。


 歩智は何者なんだろう、と和茅は今は小さくなったその背中を見ながら思う。

 もとの姿も知らなければ、こちらの世界でいったいなにをしているのかも、未だに和茅は知らない。

 ばたばたしていたせいで、訊き出すタイミングを逃してしまったのだ。


 無事『柄杓』を見つけることができたら、訊いてみようと、和茅は心に決めた。  

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