仕事と流れ者
「え?」
突然のことに驚いた和茅は、思わず訊き返していた。聞き間違えかと思ったのだ。
「さっきみたいに危ない目に合うんじゃ、割に合わないだろ」
「そんなことないよ」
「あるだろうが。おまえがなにをしたいのかわからねえけど……確かに『柄杓』はすげえ尾宝だけど、それに頼らずにどうにかする方法だってあるはずだ」
「わたしは『柄杓』がほしいんだもの。それに、ハンターをやめたら、わたしの尾っぽ――尾宝感知能力の使い道がなくなっちゃう」
「使わなくても、別にいいじゃねえか」
歩智があまりにも簡単に言うので、和茅は息をのんだ。
「使う必要がない生活をしてもいいんじゃねえの? 安全な仕事をさ。どっかで店を開くとか、おまえに似合うんじゃねえ?」
「でも、せっかくの能力なのに……」
和茅は目を伏せ、ぽつりとつぶやいた。
尾宝を感知する能力をもつ者はめずらしい。
和茅が尾宝ハンターになったのはその能力を有効に使いたいと思ったからだった。
それ以外に役に立つ能力をほとんどもっていないからというのもあるけれど。
金を稼がないといけないとなったとき、自分の能力を有効に活用しようと思うのはおかしなことじゃないはずだ。
人間界にある自動車やバイクが尾垂界にはない。
その代わりこちらでは籠屋が現役で機能しているし、郵便やさんの代わりに飛脚がいる。
籠屋は体力強化能力のある者が、飛脚は高速で移動する能力をもつ者が従事しているのだ。
「おまえ、家はどこだ?」
「中央都だけど……どうして?」
和茅には歩智の考えることがちっともわからない。わからないながらも、和茅は歩智の質問に素直に答えた。
尾垂界には現在八つの都がある。その真ん中にあるのが中央都だ。
「中央都なら好都合だ。尾宝ハンターの仕事は『柄杓』で最後にして、引退しろよ。そんでおれの仕事を……」
歩智ははっとした表情で、言葉をふいに途切れさせた。
「――仕事?」
「悪い、なんでもねえ。おれ、ちょっと飯になりそうなもん探してくるわ。魚だけじゃ足りねえし」
そう言うと歩智はさっと立ち上がり、そのまま林の中に消えてしまう。
「仕事? 歩智が?」
ひとり、焚き火のそばに残された和茅は、ぽつりと呟く。
そして、そういえば自分は歩智のことをなにひとつ知らないのだということに気づく。
それは、和茅が知ろうとしなかったせいでもあるのだけれど。
歩智にも生活がある。
尾垂界で暮らす以上、基本的にはどこかに居を構える必要がある。暮らしてゆく必要があるのだ。
家を買い取れるほどの財産がある者や、役人などのように寮などの住処を提供してくれる仕事をしていない場合は、自分でその家の賃料を払わなければならない。
それができなくなった場合は、流れ者となって尾垂界を転々とするか、人間界に戻るしかない。
和茅は、歩智が行き倒れていたことや、その後和茅とずっと一緒にいること、特に目的があるようには見えないことなどから、てっきり流れ者ではないかと思っていたのだ。
それも、職を持たない種類の。
流れ者とて食べないと生きてはいけないから、流れながらも金を稼ぐ必要があるのだけれど。歩智の仕事とは、どんな仕事なのだろうか。
歩智が仕事をしている姿など、和茅には想像がつかなかった。




