5.命名2
あれから1週間後。
「ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー。」
「きゅーきゅーきゅーきゅー!」
「グラン、どうしたの?お腹がすいたの?」とエリー。
「ぎゃーぎゃー」
「そう、お腹がすいたのね!ちょっと待っててね。」
…いやいやいやいや、ただ発声練習していただけなんですが…15分前にお昼ごはん食べたでしょ?…というか、ダブル。お前は一緒に鳴かなくていいんだよ!
そう、この1週間、俺の思いはまったく伝わらないまま、エリーは俺が鳴くたびにご飯を持ってくるわ(もう腹いっぱい…)
兄は俺のご飯を見て、羨ましそうな目で見てくるわ(欠食児童か!?)
ダブルはひたすら隣で鳴いてるわ(最近気づいた。こいつ、わざとだな。)
という風に日々が過ぎていく。
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それからから2か月後。
「ダーーーーー」
「きゅーーーー」
「ブーーーーー」
「きゅーーーー」
「ルー―――――ーー!」
「きゅきゅっーーーー!」
そう、1文字ずつではあるが言えるようになった。あい変わらず、ダブルは隣で俺と一緒に鳴き続けてはいたが……
そろそろダブルに名前を伝える日も遠くないなと思いながら、いつも通り、ベッドの上でゴロゴロしていると…
「バンッ!!」
……ひっ!? ビビったー。「『ぶっ』」
久々に驚いて屁が出ちまったじゃないか…
いきなりドアが開き、20代半ばか30歳手前だろうか。ごつい服(防具だろうか?)に包み込まれた金髪でいわゆる脳筋?っぽい男と、同じくらいの年齢だが、緑の髪で日に焼けた、ザ・狩人っぽい男が入ってきた。
「グラン!大きくなったなー!」
…む?誰だこいつ?
と、いぶかしげな目で見つめると
「きゅきゅー!!」
と、ダブルが俺の前に来て、男と対峙する。
…ダブルさすがじゃ~ん!
「おいおいおい!俺のことを忘れたのか?マイクだよ。」
と男が言ったことでダブルは一瞬「はっ!」としたが、すぐにやばいと思ったのか、「きゅ~ん」とかわいい声で擦り寄り「忘れていないよ!」アピールをしていた。
…ダブルだめじゃ~ん。これは絶対餌付けされてたな。と、いつもなら思うのであるが。
一方の俺はというと…
…なーぬーーーーー!?
と、内心驚きすぎて、最近の成果である発声すら忘れるように「ぎゃーぎゃー」泣いちまった。
「おい、マイク。エリーを呼んできた方がいいんじゃねえか?」
「そうだな。おい、エリー!ちょっとこっちに来てくれ。」
「どうしたの?とりあえず、すぐ行くわー。」
マイクと狩人?の2人がエリーを呼び、抱えてくれたことで、徐々に俺も冷静になってきた。
「グラン。ようやく会えたけど、これがマイクよ。」
「おいおい、これってひどくねーかー。」
「だって、グランが生まれるまでには帰ってくると言っておきながら、結局、間に合わなかったんだから。」
「そりゃ―そうだけど。こっちも討伐が長引いたせいで疲れてんだぜ。」
とエリーとマイクが言い合ってると。
「奥さん、本当にすみません。もう少し俺らに力があればよかったんですが。」
「いえいえアランは悪くないわ。マイクが約束を破ったのが悪いんで…「ぎゃー!」グラン?」
と、俺は母とアランの話をさえぎってみた。(狩人はアランというらしい。)
…両親のケンカってあんまり好きじゃないんだよな…
もうマイクに興味が失せてしまった俺は、両親の会話を止め、ふとっ、ダブルへ視線を向ける。そこには、いつもと同じ青い目を向けるダブルがいたが、いつもとは違う真剣な表情でお座りをしていた。
…名前を付けるタイミングは特に考えてはいなかった。でも、なぜか、今日つけるべきだと思った。
だから抱えられている母親の中を暴れ、再度ベッドに置いてもらう。すると、ダブルが俺の前まで移動し、またお座りの姿勢を維持する。
いつの間にか部屋は、シーーーーンとしており、両親は俺とダブルを順番に見詰め、何かを理解したのだろう、顔を見合わせて黙った。
青い目がキラキラときれいだなぁと見つめ合う中、ダブルはさらに近づき、自分のおでこと俺のおでこをくっつけ目を閉じた。それに応じるように俺も目を閉じ、何度も練習したあの言葉を発する。
「だーーぶーーるーーー。」
そう伝えた瞬間、目を瞑り暗闇の中にいたはずの1人と1匹の視界は一瞬で光であふれる渦に巻き込まれ、そのまま強制的に意識をとばすのであった。
8/6 微修正しました。