行く末
恭司に負ぶわれた楓を出迎えた私は、すぐに何があったかを悟った。
風が不穏に騒いでいたのはこれだったか。
「ありがとうございました、恭司さん」
楓を引き取り話のあらましを聴いて、私は深く恭司に頭を下げる。
無事で良かったという心からの念が湧く。
「隼太の命令だからだ」
恭司は照れもせず意地を張るでもなしにあっさり言い、そのまま夕食の席に加わるでもなく帰った。
その夜、私は楓と風呂に入り、一緒に縁側で風を聴き、楓が寝入るまで子守唄を歌ってやった。硬く強張っていた楓の心身は、眠る頃になるとほぐれたようで、寝息は健やかだった。
狂った夜の蝉の声が聴こえる。
人間の愚かを嗤っているのか。
狂人の負の遺産は未だ断ち切れない。
隼人から隼太へ――――。
けれど、ここで断たなければ。
隼太たちの動向を、目を皿のようにして注視して。
戦争、犯罪に音ノ瀬が関わることは私の代で終わらせる。
私はぼんやりと天井を眺めながら、望む平穏は中々訪れないものだなと思っていた。
ただ楓と聖と、このまま三人家族として過ごしてゆければ良いのに。
ふと、家族が増える可能性を考えて、私は下腹部に手を遣った。
信じられない話だが、私が聖の子を産む日だって来るかもしれないのだ……。
その前に聖が婿に入る等諸手続きを済ませなくてはならない。
結婚式は――――面倒臭いがやらなければ更に重鎮連中が面倒臭いだろう。
楓の頭を撫でながらそんなとりとめないことを考えて、夜は更けていった。
いつもの喫茶店で、聖と秀一郎は逢った。
BGMのかからない店内に、コーヒーだけが薫り高い。
花は飾られているが、香りがコーヒーの邪魔をしないのだ。
「敵襲を止める手立てはある」
秀一郎が、こくのある薫を一口飲んでからそう言う。
「解っているよ。隠れ山への〝難民〟の受け容れをやめるんだろう。根本的な解決にはならないが有効な手だ。けれどこと様が納得されまい」
聖はアイスカフェオレを飲みながら静かに持論を述べる。
「そうだろうな。だから当座は今のようにしてしのぐしかない。敵襲が再度、あるかどうかも判らない。その為の、僕や君だよ。――――聖君」
「何だい?」
「僕はまだことさんを諦めてはいないよ」
薫の黒い水面に目を据えたまま、秀一郎が言う。
聖が微笑む。
「君はきっと、そうだと思った…………」




