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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
家督相続編 第一章
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行く末

 恭司に負ぶわれた楓を出迎えた私は、すぐに何があったかを悟った。

 風が不穏に騒いでいたのはこれだったか。

「ありがとうございました、恭司さん」

 楓を引き取り話のあらましを聴いて、私は深く恭司に頭を下げる。

 無事で良かったという心からの念が湧く。

「隼太の命令だからだ」

 恭司は照れもせず意地を張るでもなしにあっさり言い、そのまま夕食の席に加わるでもなく帰った。

 

 その夜、私は楓と風呂に入り、一緒に縁側で風を聴き、楓が寝入るまで子守唄を歌ってやった。硬く強張っていた楓の心身は、眠る頃になるとほぐれたようで、寝息は健やかだった。


 狂った夜の蝉の声が聴こえる。


 人間の愚かを嗤っているのか。

 狂人の負の遺産は未だ断ち切れない。

 隼人から隼太へ――――。


 けれど、ここで断たなければ。

 隼太たちの動向を、目を皿のようにして注視して。

 戦争、犯罪に音ノ瀬が関わることは私の代で終わらせる。


 私はぼんやりと天井を眺めながら、望む平穏は中々訪れないものだなと思っていた。

 ただ楓と聖と、このまま三人家族として過ごしてゆければ良いのに。

 ふと、家族が増える可能性を考えて、私は下腹部に手を遣った。

 信じられない話だが、私が聖の子を産む日だって来るかもしれないのだ……。

 その前に聖が婿に入る等諸手続きを済ませなくてはならない。

 結婚式は――――面倒臭いがやらなければ更に重鎮連中が面倒臭いだろう。

 楓の頭を撫でながらそんなとりとめないことを考えて、夜は更けていった。



 いつもの喫茶店で、聖と秀一郎は逢った。

 BGMのかからない店内に、コーヒーだけが薫り高い。

 花は飾られているが、香りがコーヒーの邪魔をしないのだ。

「敵襲を止める手立てはある」

 秀一郎が、こくのある(くん)を一口飲んでからそう言う。

「解っているよ。隠れ山への〝難民〟の受け容れをやめるんだろう。根本的な解決にはならないが有効な手だ。けれどこと様が納得されまい」

 聖はアイスカフェオレを飲みながら静かに持論を述べる。

「そうだろうな。だから当座は今のようにしてしのぐしかない。敵襲が再度、あるかどうかも判らない。その為の、僕や君だよ。――――聖君」

「何だい?」

「僕はまだことさんを諦めてはいないよ」

 薫の黒い水面に目を据えたまま、秀一郎が言う。

 聖が微笑む。

「君はきっと、そうだと思った…………」



挿絵(By みてみん)




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― 新着の感想 ―
[良い点] 秀一郎の戦意はまだ萎えてなかったどころか旺盛になっている。それを聖も承知しているところがまあ通じ合ってるなこの二人。良くも悪くも……。 これも同じ女性を愛した男同士のシンパシーなのでしょ…
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