表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
家督相続編 第一章
96/817

異国より

 その日は朝から湿った空模様だった。

 感覚がいつもより研ぎ澄まされる――――そんな日がある。

 楓の髪の毛をポニーテールに結ぶと、気に入ったらしくはしゃいでいた。

 私の微かな胸騒ぎは、楓の笑顔を見るにつれ膨らんでいく。

 彼女の身体をぎゅ、と抱き締めると、楓は不思議そうな顔をした。




 学校の授業が終わった放課後。

 楓は小学校の門柱脇の花壇前に立つ恭司の元に行った。

 冷かすような視線の中に、無表情な瞳の悟がいて、どきりとする。

 これは違うのだ、と言い訳したいのだが、そうする必要性も解らない。

「おい、行くぞ」

 恭司が両手をポケットに突っ込んだまま、先に歩き始めたので、楓も慌ててその跡を追った。


 ことの家まであともう半分程の距離まで来たところで、風が不穏を知らせた。

 楓も恭司も、は、とする。

 背広姿もたくましい男性が一人、歩道中央に立っている。

 地毛とすぐに判る金髪と碧眼は、彼が外国人であることを知らしめていた。

 彼が動くと同時にたん、と曲芸のように恭司が後ろに半回転した。

 躍動する獣じみた動きに外国人男性の掌底は、空を切る。


 着地した恭司は楓を突き飛ばして男から距離を取らせた。

 どこの国の機関、組織だ、などと訊くも虚しいので攻撃に移る。


「春の野に霞たなびきうら悲し」


 恭司のコトノハ処方と同時に男の周囲を煙幕のようなものが覆う。


 それが晴れる間もなく、恭司は跳躍から右上段回し蹴りを放った。

 男に恭司らは見えなくとも、恭司たちから男は格段に見えやすい状況だったのだ。

 男は倒れそうになりながらも受け身を取り、背広の左内に手を入れた。


 拳銃――――。


 意図を察した恭司が次のコトノハを繰り出す。


(あま)つ風雲のかよひ路ふきとぢよ」


 そよと風が吹き、コトノハが、男の右腕を完璧に固定して動かなくした。

 仕上げとばかりに恭司は、男の鳩尾(みぞおち)に拳をめり込ませる。

 飛び散る唾液を眺める、酷薄な恭司の瞳。


「ほら、逃げなよ。もうあんたは襲撃に失敗したんだからさ。部外者に目撃されるのもまずいでしょ」


 恭司の声は朗らかだが笑っていない。


 男は右腕を凝固させたまま、よろよろと立ち上がって後退し、やがて道の向こうに消えた。自尊心を傷つけられた面をして――――。

 見ると楓がコンクリートの上にへたり込んでいる。

「おいおい、頼むぜ。あれっくらいでさあ」

「だって。ふ、二人共、こ、殺し合うみたいで」

「〝みたい〟じゃない。今のは殺し合いの一歩手前だ。ただ、決定的な殺意が双方に無かっただけだ。あっちはコトノハの様子見だったのかもな。じゃなきゃもっと数で押す。あのおっさんも相当、自信があったんだろうが」

 恭司は剣呑な笑顔で言う。

「だ、誰だった、の?」

「はあ? 名前なんて知るかよ。端的に言うなら俺たちの敵だ。俺や隼太、音ノ瀬ことやお前ら、全員の」

「よく解らない……」

「隼太はあいつなりのフォーゲルフライという広大な理想を掲げている。それを阻もうとする敵が、お前みたいに利用し甲斐がある奴を狙うのさ」


 ことからは簡潔な説明しか受けていなかった。

 混乱と恐怖から、楓はとうとう泣き出してしまった。

 恭司が大儀そうな表情になる。

 道路を大型トラックが走り去り、排気ガスに楓は咳き込んだ。

 咳き込みながら泣く楓に、恭司は処置無し、という表情で天を仰いだ。

「うぜー……。ガキはこれだから面倒なんだ」

 そうぼやきつつ、楓の前に後ろを向いて屈んだ。

「……何?」

「兎跳びしてるようにでも見えるかよ。乗れよ。まだ足腰に力入ってねーんだろ。鼻水つけんなよ」

「…………」

 楓は少しの間恭司の背中を見ていたが、大人しくその背に負ぶわれた。

 思ったより安定感がある。

(この人もあたしと同じ、音ノ瀬じゃないのに力がある。中身は大人だって聴いたけど、少なくとも見た目は少年で、それなのにこんなにしっかりしている……。あたしも、守られるばかりでなく、そうなりたい) 



挿絵(By みてみん)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ