表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
花屋敷編 第五章
82/817

回帰

 いつもは余裕があり、些か気障な姿勢を崩さない秀一郎も、今日は流石に疲労の色が濃い。

 ことの馴染みの喫茶店で、彼は聖に昨今まとめた調査報告をしていた。

 この店の、ことが好むコーヒーである薫を飲みながら。

「隼太が率いていたグループは壊滅状態だ。再起を望もうと、彼の言うフォーゲルフライの理想を叶えることは無理だよ」

 聖に告げて、コーヒーを一口飲むと、僅かに目元を和ませた。

 当初はことが好むというだけの理由で飲み始めたが、今では薫の虜になっている。

 頬から疲労の色合いが薄まり、少し血色が良くなった。


「うん。しかし、隼太の力は脅威だ」

「と、言うと?」

 懸念顔の聖を、秀一郎が促す。

「――――母親の遺体を焼き、竜巻をも発生させた。こと様ならいざ知らず、竜巻を発生させ得るコトノハ使いが、一族に何人いる?…音ノ瀬隼人の遺体も、恐らく彼が焼いた――――荼毘(だび)に付したんだろう」

「それで?」


 聖はテーブルの上に肘をつき、両手を顔の前で組んだ。


「秀一郎君。人体は水分が多い。人一人を火葬するのに、通常であれば相当な燃料が必要なんだ。それを火葬場に頼らず、たった一人の、恐らくはコトノハでしてのけるなんて、並大抵じゃない。その上、気候をも操り得る。音ノ瀬隼太は尋常のコトノハ使いとは違う。解き放ったままでは危険だと、僕には思えるんだ」


 秀一郎は聖の思慮深い表情を眺め、次いでコーヒーのほぼ黒い水面に視線を移した。


「ことさんの判断次第だが、そのあたりの問題は来年に持ち越しだな」

「確かに急務とは言わないよ」


 正確には急務でないようにと彼らは願っていた。

 その後は二人共、それぞれの近況を伝え合って別れた。




 大掃除も終えた大晦日。


 海老天を乗せた年越し蕎麦を食べ、あとは近所の寺の鐘と柱時計が、午前零時を知らせるのを待つだけだ。

 炬燵に入った私の腕の中で、早くも楓が舟を漕ぎつつある。

 さっきまで一緒に栗きんとんの味見(摘まみ喰い)をしていたのだが。

 その寝顔は本当に天使のようだ。頬を突っつきたくなる。

 楓がいるお蔭で今年のクリスマスは賑やかになった。

 ブッシュ・ド・ノエルは美味しかったし、俄かサンタとなり、この子が起きないよう、枕元にプレゼントを置くのはスリリングだった。


 今年は、とりわけ色んなことがあった。

 楓との出逢い。

 両親への慚愧の念の融解。

 そして。


 私は聖をこっそり眺めた。


 私に春が回帰する。


 優しくて暖かくて懐かしい季節が。


 


 鐘と柱時計が、新しい年の始まりを告げた。





挿絵(By みてみん)







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ