回帰
いつもは余裕があり、些か気障な姿勢を崩さない秀一郎も、今日は流石に疲労の色が濃い。
ことの馴染みの喫茶店で、彼は聖に昨今まとめた調査報告をしていた。
この店の、ことが好むコーヒーである薫を飲みながら。
「隼太が率いていたグループは壊滅状態だ。再起を望もうと、彼の言うフォーゲルフライの理想を叶えることは無理だよ」
聖に告げて、コーヒーを一口飲むと、僅かに目元を和ませた。
当初はことが好むというだけの理由で飲み始めたが、今では薫の虜になっている。
頬から疲労の色合いが薄まり、少し血色が良くなった。
「うん。しかし、隼太の力は脅威だ」
「と、言うと?」
懸念顔の聖を、秀一郎が促す。
「――――母親の遺体を焼き、竜巻をも発生させた。こと様ならいざ知らず、竜巻を発生させ得るコトノハ使いが、一族に何人いる?…音ノ瀬隼人の遺体も、恐らく彼が焼いた――――荼毘に付したんだろう」
「それで?」
聖はテーブルの上に肘をつき、両手を顔の前で組んだ。
「秀一郎君。人体は水分が多い。人一人を火葬するのに、通常であれば相当な燃料が必要なんだ。それを火葬場に頼らず、たった一人の、恐らくはコトノハでしてのけるなんて、並大抵じゃない。その上、気候をも操り得る。音ノ瀬隼太は尋常のコトノハ使いとは違う。解き放ったままでは危険だと、僕には思えるんだ」
秀一郎は聖の思慮深い表情を眺め、次いでコーヒーのほぼ黒い水面に視線を移した。
「ことさんの判断次第だが、そのあたりの問題は来年に持ち越しだな」
「確かに急務とは言わないよ」
正確には急務でないようにと彼らは願っていた。
その後は二人共、それぞれの近況を伝え合って別れた。
大掃除も終えた大晦日。
海老天を乗せた年越し蕎麦を食べ、あとは近所の寺の鐘と柱時計が、午前零時を知らせるのを待つだけだ。
炬燵に入った私の腕の中で、早くも楓が舟を漕ぎつつある。
さっきまで一緒に栗きんとんの味見(摘まみ喰い)をしていたのだが。
その寝顔は本当に天使のようだ。頬を突っつきたくなる。
楓がいるお蔭で今年のクリスマスは賑やかになった。
ブッシュ・ド・ノエルは美味しかったし、俄かサンタとなり、この子が起きないよう、枕元にプレゼントを置くのはスリリングだった。
今年は、とりわけ色んなことがあった。
楓との出逢い。
両親への慚愧の念の融解。
そして。
私は聖をこっそり眺めた。
私に春が回帰する。
優しくて暖かくて懐かしい季節が。
鐘と柱時計が、新しい年の始まりを告げた。




