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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
花屋敷編 第五章
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縁組

「お母さんと行かなくて良かったですか、楓さん」


 千秋と連絡を取り、隼太逃亡の報告を平謝りと共に受けたあと、漆黒の卓の隣の炬燵に移動し、私は楓に尋ねた。

 聖の視線が物言いたげだ。

 先程、私が隼太に平伏したことや、今の質問になど、思うところがあるのだろう。


「うん」

「楓さん。うちの子になってくれますか?」

「ことさんの子に?」

「はい。……よろしければ」


 私はまだ迷っている。

 私の子になれば、一族をいずれ背負わせることになるかもしれない。

 図らずも、楓が攫われた時、音ノ瀬重鎮たちに言ったように。


〝跡継ぎ候補の一人と目していた〟


 方便の積りだったが。


 楓は炬燵から出て正座すると、畳に手を突き、ぺこりとお辞儀した。


「よろしくお願いします」

「――――こちらこそ」


 私も炬燵から出て同じ体勢になり、楓に深くお辞儀した。

 顔を上げた私たちは、微笑み合う。


「お母さんと呼ばなくて良い? ことさんは、ことさんって呼びたいの」

 

 楓の言に私の胸が思いがけず痛んだ。

 ……私は母と呼ばれたかったのだろうか。


「良いですよ」

「ことさんは、あたしにとって、お母さんじゃない。ずっと」

「……はい」

「もっと大きくて、優しいの。大好きなの。一番なの。誰よりも。〝ことさん〟っていうコトノハが、あたしを幸せにしてくれるから」

「…………」


 歳を取ったせいか最近、涙腺が緩い気がする。

 泣きそうだ。

 私も一番好きだと立ち上がって叫びそうだ。

 将来、この子が人生の伴侶候補を連れて来た時、お前に楓はやれない、などと言ってしまいそうだ。



 夕方になり、鯛のあら煮やピーマンの醤油炒めなどを聖と拵えている時、聖が訊いてきた。

「音ノ瀬隼太は良いのですか、こと様」


 鯛のあら煮に使う生姜は刻み終えたらしい。

 しかし包丁を持って訊くな。何だか物騒に見えるから。


「一応、追手は出しています」

「捕まりますまい。コトノハの処方を解除してしまいましたし」

「まあ、それはそれで仕方ないですよ。そう悪人でもないようですし」


 聖がちょっと呆れた顔になる。

 のほほんとして見えるのだろう。

 私は温めていたフライパンに胡麻油を敷いた。

 胡麻の香りがぷんと漂う中で口を開く。


「……いつになるか解りませんが……その……」

「はい?」

「橋を渡ってくださいね」


 緑のピーマンをフライパンに放ち、聖の顔を見ないで済むようにする。

 じゅわあ、と立つ音に紛れるようにつけ加えたコトノハは。


「未成年との養子縁組は、夫婦でないと出来ませんし」


 言い訳がましくなった。

 見なくても聖が微笑しているのが判る。

 私の顔が熱いのは炒め物をしているからだ、と自分に言い聞かせた。





挿絵(By みてみん)






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[良い点] ことさん、遠回しの逆プロポーズ。
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