恋嘘
「ねー、リサちゃんは誰が好きなの」
「んー」
「かず君?」
「んー」
「たけちゃん?」
「んー。んっとねー、どっちも好き!」
「何だよそれぇ?」
「ほんとのこと言えよなー」
いつもの喫茶店から家に引き上げる途中の坂道で、小学生くらいの男の子が二人、女の子が一人。蹲ってアイスを食べながら、無邪気で他愛ない話をしていた。人工的な水色のアイスは南極の氷のように熱によって溶け、ポタポタとアスファルトに垂れている。
他愛ないというのは大人の勝手な言い様で、彼ら、殊に少年たちは真剣だった。
すれ違ってから私がくすりと笑いを洩らすと、これまたいつもながらついて来ていた俊介が驚いた顔を見せた。私は口元に右手を添える。
「いえ。先程の子供たちの会話が」
「ああ、微笑ましかったですね」
俊介の耳にも入っていたらしい。
「あの女の子、結局どっちが好きだったのかな?」
真面目に首をひねる仕草が可笑しい。
「彼女が答えてたじゃないですか」
「どっちも? それは角が立たないように嘘を言ったんでしょう?」
「本当ですよ。嘘であれば私には解ります」
嘘のコトノハは必ずそうと知れる。
歪で不自然な形を、私の耳は聴き逃さない。
「ええっ? つまり、女の子は、ほんとにあの男の子たち両方が好きだと」
「有り得るでしょう、子供ですし。大人にだって」
もうすぐ我が家だ。
私は麻のズボンのポケットから鍵を取り出した。金色の馬を象ったキーホルダーがついている。
俊介が横から、躊躇いがちに口を開く。
「――――ことさんは、……過去にどういった……、」
「恋愛ですか?さて、どうでしょう」
予測出来た質問を私は軽くいなして、目線を上げた。
私の家が光を背負って立っている。
眩しく目を細める。
そこに待つのは私が愛すべき、また世話すべき濃緑たちと。
「……秀一郎さん」
白く涼しい麻の背広に長身を包んだ男が、にこやかに佇んでいた。
若いのに鼈甲ぶちの眼鏡が嫌味なくらい似合う。
「やあ、ことさん。こんにちは」
彼の名前は明眸皓歯。ではなく、音ノ瀬秀一郎。
私の従兄弟だ。




