竹と風と光の洞窟
番外編です。
さわさわと風が私の頬を、頭を撫でる。
薄く透明がかったふるさとの竹林の葉は、清らかで綺麗だ。
精霊が宿っているみたい。
小学五年の夏休み。
私は一人でふるさとに遊びに来ていた。
聖に逢いたかったのだ。
両親は呆れながらも許可してくれた。
聖や真葛――――副つ家の人間は、それだけ信用されていたからだ。
学校に馴染めない私にとって、ふるさとは楽に呼吸が出来る場所だった。
両腕を広げ、竹の青い香りがする風を胸に吸い込む。
ふるさとは子供心にも、透明度の高い聖域であるという認識があった。
けれどここでも降るような蝉の声は変わらず、陽射しが熱い。
「こと様」
聖の声に振り向き、微笑して見せると、彼はやや眩しそうな顔になった。
それからなぜか少し、傷ましそうな顔に。
今日もTシャツにジーンズを穿いている。
「琴を聴かせてくれるの?」
私は彼に駆け寄り、目を輝かせて言った。
聖の奏でる琴を聴くのは大好きだ。
風に音が乗ってどこまでもどこまでも流れて行く。
妙なる旋律を聖と旅するのに似ている。
聖の赤い目が真剣に指先を見るのも好きだ。
「いいえ。今日は洞窟のほうに参りましょう」
「どうくつ? 洞窟があるの?」
「はい。様々な鉱石や玉石、珍宝が採れるのです。秘密ですよ」
そう言って聖は人差し指を、弧を描く自分の唇に当てた。
「……楽しそう。水晶が育つって本当? 夏休みの自由研究に使えないかな」
「うちのは特殊な物が多いですからね。難しいかもしれません」
ふうん、と相槌を打つと、風がまた、さあ、と吹いた。
秘められた輝きが待つ、と風は告げていた。
寺の裏手の竹林を、聖が先導して踏み分けて行くと、やがて口を開けた岩の集まりが見えた。
ちょっとどきりとしたが、聖が躊躇わず中に入るので、私もあとに続く。
洞窟の中は外よりひんやりとして涼しく、蝉の鳴き声も遠のいた。
確かに地と壁、そして天井にはあらゆる鉱石、玉石がそこかしこに生えていた。
宝が、息衝いているよう。
爪先にこつんとぶつかった物を見ると楕円形の琥珀だ。中に小さな羽虫が閉じ込められている。
その隣には私の親指くらいの紫水晶。
尖った先端の部分は白っぽいけど、その下の紫はとても濃くて深い。
夜空のような瑠璃や夕焼けのような瑪瑙、旭のような金の粒まであり、洞窟内はそれらの輝きで仄かに明るかった。
硝子の破片が落ちていると思ったら、それは金剛石だと教えられた。
一体、この洞窟はどうなっているのだろう――――――――。
「欲しい物があれば持ち帰られて良いですよ。時々、この近隣の住民と物々交換に使ったりもするんです」
このふるさとにご近所さんなんているのだろうか。
そう思いながらも私は首を横に振った。
「ううん。要らない。それよりウサギさんと一緒に、座ってこの中を見ていたい」
聖は優しく笑んで私の望みを叶えてくれた。
二人並んで地面に腰を下ろす。
それはまるで天の川に包まれるような。
現ならぬ色鮮やかな蛍の群れを眺めるような。
時々蚊が飛んで来るのが困りものだったけど、プラネタリウムよりも清浄な空間で、贅沢な時間だった。
やがて日が暮れて真葛に呼びに来られるまで、私たちは二人で贅沢な時間を共有したのだった。
竹林の素晴らしいお写真は空乃千尋さんの作品です。
前回に引き続き、御礼申し上げます。




