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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
神代ひもろぎ編 第二章
742/817

小さく美しい虜囚

 その夜半、聖と芳江が瑠璃雀を捕らえて戻って来た。瑠璃雀は相当、暴れたらしい。二人共、満身創痍だ。私は二人に風呂を勧め、がんじがらめに緊縛された瑠璃雀を鍋島緞通の上に置いて眺めた。美しい、深い青の所々、赤い血が滲んでいる。湯から上がった聖が来た。

「余りお近づきになられませんよう。一応、抵抗のないように処置しておりますが」

「芳江さんも怪我はないですか」

「はい。今は、撫子さんにコトノハを処方されています」

 そこで聖がくすりと笑う。

「そんな時間があっても良いでしょう」

「では、次は貴方の番ですよ」

「え?」

 聖の頬のかすり傷に手を当てる。

()

 左肘、右手の甲にも。聖は大人しくされるがままになっていた。虫の音が客間にも響いて来る。私は、狂気じみた瞳の瑠璃雀に手をかざした。

「お前にかけられた呪を解いてあげよう」

 すると、血走るようだった瞳が、つぶらで無垢なものに変わる。明日にも麒麟に来てもらおう。夜の空に星がぽつぽつ浮かび、ささやかな葉擦れの音もする。戦時下とは思えない、長閑で清かな夏の夜だ。私は冷やしうどんを作り、半熟卵を乗せたそれを芳江と聖に持って行った。芳江は元気そうな顔で礼を言い、また撫子の部屋に戻る。聖もつるつると勢いよくうどんを食べる。空腹だったらしい。

「豚の冷やししゃぶも作りましょうか」

「すみません」

 大の男の胃袋には、うどんだけでは物足りないだろう。私は鼻歌交じりに豚肉を扱い、冷やししゃぶを作り、撫子の部屋に差し入れて、また聖の元に戻った。聖はよく食べ、よく飲んだ。酒ではない。出汁で割った豆乳だ。飲みやすいらしく、ぐいぐい行く。全て平らげた後、聖は台所に行き、食器を洗った。芳江もやって来て、改めて料理の礼を言いながら片付けを始める。洗い物を終えた聖は、手を拭いて引き返してきた。瑠璃雀の様子が気になる、と言うより、私に瑠璃雀の番をさせるのが気掛かりなのだろう。虜囚は今や大人しく、小首を傾げさえして私たちを見ている。あどけない姿からは、とてもあの凶暴性を想像することは出来ない。聖が芳江と景と劉鳴殿、かささぎで交代の見張りをすると言うので、任せることにした。それから、私は麒麟にラインメッセージを送る。事の次第を知らせて、明日にでも来て欲しいと伝えた。麒麟からの返信はすぐにあった。通話のほうが都合が良いと言うので電話を掛ける。

「もしもし」


『朱狐がうちに来た。昴がやられた』


 言われた言葉の意味が、しばらく解らなかった。


挿絵(By みてみん)

麒麟


挿絵(By みてみん)



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