小さく美しい虜囚
その夜半、聖と芳江が瑠璃雀を捕らえて戻って来た。瑠璃雀は相当、暴れたらしい。二人共、満身創痍だ。私は二人に風呂を勧め、がんじがらめに緊縛された瑠璃雀を鍋島緞通の上に置いて眺めた。美しい、深い青の所々、赤い血が滲んでいる。湯から上がった聖が来た。
「余りお近づきになられませんよう。一応、抵抗のないように処置しておりますが」
「芳江さんも怪我はないですか」
「はい。今は、撫子さんにコトノハを処方されています」
そこで聖がくすりと笑う。
「そんな時間があっても良いでしょう」
「では、次は貴方の番ですよ」
「え?」
聖の頬のかすり傷に手を当てる。
「癒」
左肘、右手の甲にも。聖は大人しくされるがままになっていた。虫の音が客間にも響いて来る。私は、狂気じみた瞳の瑠璃雀に手をかざした。
「お前にかけられた呪を解いてあげよう」
すると、血走るようだった瞳が、つぶらで無垢なものに変わる。明日にも麒麟に来てもらおう。夜の空に星がぽつぽつ浮かび、ささやかな葉擦れの音もする。戦時下とは思えない、長閑で清かな夏の夜だ。私は冷やしうどんを作り、半熟卵を乗せたそれを芳江と聖に持って行った。芳江は元気そうな顔で礼を言い、また撫子の部屋に戻る。聖もつるつると勢いよくうどんを食べる。空腹だったらしい。
「豚の冷やししゃぶも作りましょうか」
「すみません」
大の男の胃袋には、うどんだけでは物足りないだろう。私は鼻歌交じりに豚肉を扱い、冷やししゃぶを作り、撫子の部屋に差し入れて、また聖の元に戻った。聖はよく食べ、よく飲んだ。酒ではない。出汁で割った豆乳だ。飲みやすいらしく、ぐいぐい行く。全て平らげた後、聖は台所に行き、食器を洗った。芳江もやって来て、改めて料理の礼を言いながら片付けを始める。洗い物を終えた聖は、手を拭いて引き返してきた。瑠璃雀の様子が気になる、と言うより、私に瑠璃雀の番をさせるのが気掛かりなのだろう。虜囚は今や大人しく、小首を傾げさえして私たちを見ている。あどけない姿からは、とてもあの凶暴性を想像することは出来ない。聖が芳江と景と劉鳴殿、かささぎで交代の見張りをすると言うので、任せることにした。それから、私は麒麟にラインメッセージを送る。事の次第を知らせて、明日にでも来て欲しいと伝えた。麒麟からの返信はすぐにあった。通話のほうが都合が良いと言うので電話を掛ける。
「もしもし」
『朱狐がうちに来た。昴がやられた』
言われた言葉の意味が、しばらく解らなかった。
麒麟
昴




