無垢に壊れたその瞳で
食事会は無事に終わった。三々五々、帰る人々を見送り、私は虚脱感に襲われていた。食器などの後片付けは、帰宅した摩耶たちがやってくれた。彼女たちの好意を有り難く感じながら、私は入浴して、早々に敷いた布団に寝転がった。これで何が良くなるという見込みもないのが悲しい。結局のところ、集まった面々の軋轢を助長させ、明瞭にしただけのような気もする。ガーゼケットにくるまってゴロゴロしながら、そんなことを考えた。疲れが出たのか、睡魔に襲われる。瞼が徐々に下りて行く。
〝力を持つ人は、寂しい人が多いから、なるべく仲良くしてやりなさい〟
ああ。幼い私にそう言った人がいた。珍しく優しい口調だった。
〝お母さんも、寂しいの?〟
あの頃は、言って良いこととそうでないことの区別が出来ていなかった。母は、寂しいと言うより、悲しそうに微笑んだ。あれは蜩の鳴く季節のこと。
目を覚ました私は、もぞもぞと布団より這い出た。夕食の匂いがするが、私は余り食欲がない。ご馳走を午後に食べたばかりだ。ふらりと縁側に出て座る。もーちゃんと楓がやって来る。癒しセットだな。
「ことさん、お疲れ様でした」
「有り難うございます。ショッピングモールは楽しかったですか?」
「うん! 恭司君にも会えたし」
「それは良かったです」
楓の頭を撫でると大海を思い出す。精神を病んだ人は、本当は物事の真実を誰より鋭く見抜いているのかもしれない。無垢に壊れたその瞳で。夕食を率先して作っていた摩耶に、食欲がないと告げると、頷いて素麺を用意してくれた。縁側で食べると良いわと言う言葉に甘えて、縁側に舞い戻る。ここは私のサンクチュアリだ。そうか。由宇たちも、寂しいのか。音ノ瀬も、きっと寂しかった。寂しいと寂しいが寄り集まって、嬉しいが生まれれば良いのに、そう単純には行かないらしい。三席はどうなるのかな。なるべく穏便に収まれば良いと思いながら、今日の一幕を頭に浮かべる。無理かな。術師同士の争いなど、想像したくもない。陰惨なものになると解るからだ。縁側に座って素麺を啜っていると、外の種々の匂いが鼻につく。とりわけ、月桃香の匂いが顕著だ。幼少から私を育んだ匂い。釣忍が鳴っている。空になった器を横に置き、私は移ろう空を眺めていた。風が心地好い。今が一番、良い季節だ。もう少ししたらうだるような暑さになる。盛夏の入道雲が勇ましく登場するのだ。その頃には三席も決まっているだろうか。そんなことを考えていたから、私はそれに気づくのが遅れた。
庭にゆらめく人影。奈苗ではない、もうこの世にはいない人。
〝大海が危ない〟
「――――磨理さん、ですか」
彼女は頷く。そんなことが。今まで、影すら見えなかったのに。
〝大海を助けて。守ってあげて〟
「待ってください」
私の制止も虚しく、磨理は宙に溶けるように消えた。




