一点の凝縮
雨上がり、庭の草木は露を含んでいる。その露が、透明の凝縮のようで美しい。結局、食事会は寿司に加えて私たちの料理を並べることに決まった。麻婆春雨など、中華を入れるとバランスが取れるかもしれない。縁側で麦茶を飲む私の隣には劉鳴殿。オレンジジュースを飲んでいる。感性が若いと味覚も若くなるのか。
「ことさんを宗主にしたことを、後悔したことがあります」
私は無言で劉鳴殿を見る。
「音ノ瀬本家当主の荷に加え、一人の女性には過負荷であったのではないかと」
「意外ですね。師匠がそんなに配慮してくれるとは考えていませんでした」
劉鳴殿が苦笑する。その眼差しは色づく紫陽花に向けられていた。
「妻に言われたことがあります。貴方は女心が解っていない、と」
「当主にしろ宗主にしろ、男女は関係ないでしょう」
「僕もそう思いました。けれどやはり、妻が生きていてことさんを見たら、同じことを言う気がするのです。……亡くなる前、僕が強くて心配だと言った人です」
ああ、その言葉が指すところは、少し解る気がする。
「それなりに生きて醜悪を知るでしょうに、ことさんは未だ玉露のままです。只、強いだけではそうはなれない。けれどそれでは、畢竟、貴方は悲しい人なのではないかと。純粋の煮凝りは、世界の中では如何にも弱い」
「私は、罪も過ちも犯しました。師匠にそこまで言ってもらえるような人間ではありません」
紅玉がちらりとこちらを向いた。読めない赤。
「生きるということは犯すということと同義です。無垢な赤ん坊でさえ、何かを殺している。その理は貴方にも解るでしょう」
「私に何をお望みですか」
「自分を許すことを」
「――――それは出来ない」
私が私を許すことは、消えた命たちを軽んじるようで、至難のことと思われた。私は私に同情する余地がない。聖が死んだ時も、赤子を流した時も、私は罪深い弱者だった。
「聴きなさい。貴方は背負い過ぎています。荷を聖君に分けなさい。食事会の前に、それだけは言っておきたかった。つけ込む輩が来る前に。……子を流したことで、いつまで自分を責めるのです。聖君を生き返らせたことを、罪だとでも?」
私はすぐ近くの草葉に宿る露に手を伸べた。劉鳴殿は優しい自覚に欠けている。飄々とした外面に、誰もが見過ごしていく事実を。亡き奥方の心が偲ばれる。誰より強いから、差し伸べる手がないのではないか。それを危惧したのだろう。
「聖君と分かち合うべきです。貴方たちは、互いを選んだのでしょう?」
私は露に濡れた手で、劉鳴殿の着物の胸元を掴んだ。
言葉は出なくて、時間だけが過ぎて、劉鳴殿はずっと動かないでいてくれた。




