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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
神代ひもろぎ編 第一章
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鹿島

 伊勢うどんを食べ、京都の宿に戻った時は既に夕刻だった。一つの難事を片付けた私は、少なからず肩が軽くなったようだ。手土産の明太子は撫子に空間転移で取り寄せてもらった。そうでなければ生物なので傷む。宿の大浴場で、撫子と一緒に疲れを落とす。

「聞きしにまさる女傑ですねえ」

「雅さんは、日本でも屈指の術師です。佐保子さんも」

 かかり湯をしてから私たちは身を浴槽に沈めていた。

「このまま出雲にも行かはるんですか?」

「そうですね。伊勢にだけ私が出向いたとあっては、後に色々と言われそうですし」

「お身体のほうは」

「今のところ、大丈夫です」

 浴槽の中、湯が噴き出してくるところがボコボコと泡立っている。撫子が少し考える顔を見せた。ふっくらした右手人指し指を顎にあてている。

「こと様。鹿島(かしま)はええんですか?」

「……」

 良くはない。鹿島神宮のある鹿島もまた、古来よりの術師排出地だ。鹿島神宮に隣接する遺跡群は鹿島郡の中心地であり、中臣(なかとみ)()との関係を指摘されている。中臣と言えば政治家としての顔ばかりが有名だが、神事に携わる一族であったことにも重きを置かれる。だが、伊勢・出雲程、音ノ瀬との交流はなく、互いに意識してはいるものの、知らぬ存ぜぬを通している。だからと言って現状維持は余り望ましいことではない。いずれは顔合わせが必要だろう。撫子が、私の肩を絶妙な力加減で揉んでくれ、最高の気分である。明日は休養日として、撫子と三条や四条の和装小物屋を見て回り、カラオケにも行こうと話している。風呂を上がり、浴衣姿になった私と撫子は、宿の土産物コーナーに足を向けた。途中、同じく浴衣姿の若い男性が向かいからやって来た。妙な違和感があった。改めて相手を見る。男性にしては小柄。私より少し高いくらいの身長。浅黒い肌。髪は一部、紫に染めている。目鼻立ちは彫りこそ浅いがそこそこに整っていた。

「つれないな、音ノ瀬」

 すれ違いさま、男性が言った。やや高い声。撫子が私を庇う位置に立つ。いつでもモーニングスターを取り出せるように構えているのが判る。

「誰や」

「鹿島だよ」

 噂をすれば。そうか。見張られていたのか。

「私は音ノ瀬こと。音ノ瀬の現当主。貴方のお名前を伺いましょうか」

中臣(なかとみ)(まこと)。しがない術師だ」

「とてもそうは思えませんね。こちらでは何を?」

「あんたと話がしたかった。直接会って、ね」

「ロビーに行きましょうか」

 私たちは連れ立って宿のロビーに向かった。コーヒーを注文する。温泉でふやけた頭を覚醒させておく必要がある。誠はどっかりと一人掛けのソファーに腰を下ろした。私と撫子は、その向かいに。

「お話とは?」

 胃にカフェインを流し込みながら誠に尋ねる。

「伊勢と出雲を切って、鹿島と組まないか?」

「……出来ません。今、成り立っている連携を断てば争いが生じます。術師同士の争いなど、考えたくもありません」

 誠は左耳だけにつけた金のピアスを弄り、目を伏せた。

「うちは孤立している。伊勢も出雲も鹿島を低く見積もって相手にしない。音ノ瀬の当主は少し違うと聴いて来てみた」

「貴方は中臣の当主ですか」

「当主の息子だ」

 私は考えを巡らせる。

「私から伊勢殿と出雲殿に口添えしましょう」

「いや、良い。相手にされないよ。鹿島には鹿島の矜持がある」

 誠は立ち上がり、さっさと行ってしまった。

 伊勢出雲と来て鹿島。優れた術師一族が、裏で動いている。音ノ瀬の核をぶれず、確立しておく必要がある。大きくて暗い渦が待っているような、嫌な予感がした。



次の水曜0時に開局するかもしれません。

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