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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
花屋敷編 第一章
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散骨と集約

 朝からすっきりとしない曇天だ。

 空気の湿りは驟雨を予感させる。長く泣く空ではあるまい。

 私は庭に立ち、檜の桶の中に手をザラリ、と突っ込み一掴みすると、草木の寝床に向けてばら撒いた。それらは虹色めいた光沢をいくつか刹那に見せる数片を除いては、主張少なく散り散りに落ちた。

 ぱらぱら、と軽い落下音。音の多くは湿った土と草に吸い取られた。

 撒いたのは昨晩食した牡蠣の殻を、金槌で粉々に砕いた物である。

 カルシウムを豊富に含む牡蠣の殻は、広く肥料に利用されている。

 私もそれに倣ってみた。


 これは牡蠣の散骨だ。


 いづれの命もいつかは土の、奥深くに集約されるのだ。私も。


 散骨を終えた私の目の前に、するりと白蛇が現れた。

 口に大きな鼠のような生き物をくわえている。青大将のアルビノであろう、この白蛇は、私の家に棲みついている。

 爬虫類に特有の酷薄を感じさせないつぶらな瞳は、紅玉のように赤い。白い蛇体には、卵の黄身を薄く溶かした色の鱗がちらほらとある。

 それがくわえる茶色の毛は、ヌートリアだ。

 沼狸。

 ぬまたぬき、しょうり、などとも呼ばれる。

 しょうりは勝利に通じると、軍部より飼育が奨励された過去もあったらしい。

 昨今では侵略的外来種と疎んじられる向きが強い。


 白蛇は、どこか誇らしげに首をもたげて私を見ていた。

 私は紅玉の双眸に視線を合わせて頷く。


「ありがとう、お手柄だったね。これからも君の働きに期待しているよ」


 会社の上司の常套句のような私のコトノハに、それでも白蛇はいたく満足した様子で、ヌートリアをくわえたままするすると縁側の下に入って行った。


 青と赤に染まらんとする紫陽花がまるで一対の、似合いの恋人のようだ。


 私は花から視線を外し、長靴を脱いで縁側に上がった。裸足に木目のざらついた板をひんやりと感じる。


 朝食には素麺でも茹でて食べよう。





挿絵(By みてみん)





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― 新着の感想 ―
[良い点] 牡蠣が食べたくなりました♪ 癖のある感じも、次第に読み慣れて良い味になりますね。 [気になる点] ちょっとだけ…舞台やシーン変化が早い気がします。 深さを持たせて印象を付けたら、もっと味わ…
[良い点] 素晴らしい世界観ですね。九藤さんの博識さや言葉選びのセンスが見事に光っていてとても読みやすいです。ことさんの喋り言葉が想像と違い中性的なのもまた惹かれる点です。冒頭の庭の手入れのシーンでは…
[良い点] 言葉選びが美しくて心を奪われます。 コトノハはどこか魔法めいた力なのでしょうか。 効かない人もいるのに、ヘビさんにも効果があるんですね(*´艸`) 続きも楽しみです!
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