死んだ彼女は生きている
評価ありがとうございます。
大海を書いていると、生きるって難しいと思います。
磨理が長生きしていれば、隼太の人生も違ったものになったでしょう。
私は俊介の言葉を反芻していた。彼のコトノハにはいくつも心の琴線に触れるものがあり、私の心の水面を波立たせた。
あ、茄子の素焼きだ。
私の反芻は聖が運んでくれた昼食の前にあっさり消えた。茄子の素焼きに、摺り下ろした生姜、そして醤油をかける。茄子の柔らかで淡泊な味、食感にぴりりとした生姜の風味が絶妙に合うのだ。秋茄子は嫁に喰わせてはならんらしいが、私は婿に料理してもらい、大いに食べさせてもらっている。
「新米も炊けてますよ。お持ちしますか?」
「はい」
「それから今晩は俊介君が持って来てくれた松茸で松茸ご飯と土瓶蒸しをします」
「楽しみですね。――――ところで、泡盛や越乃寒梅は……」
「はい?」
にっこり、笑顔で聖が訊き返す。怖い笑顔だ。病人が何を言ってやがるといったところだろうか。私は大人しく引き下がった。
隼太がソファーに座り経済新聞を読んでいると、目の前のソファーに大海が座った。無視して新聞を読み続けていたが、いつになく大海の視線がしつこい。諦めて新聞を畳んでローテーブルに置く。
「何だ、大海。言いたいことがあるのならはっきり言え」
「磨理は死んでしまうのかい」
「――――」
「また、死んでしまうのかい?」
「……母さんはもうとうの昔に死んでる」
「違う、死んでない」
「死んだ。良いか、大海。この際、はっきり言っておくぞ。母さんはもうこの世のどこにもいないんだ。誰彼構わず母さんだと仮託するのはもう止めろ。不毛だ」
常より強い語調で言った。好い加減、潮時だと考えたのだ。
「磨理は死んだけど生きてる。生きてる……」
隼太は舌打ちする。
「話にならん」
「え? 死んだ? いや、違う違うちがうちがうちがう」
「おい、大海」
「……あの子は助かるのかい」
急な話題転換だったが、あの子、が誰を指すのか、隼太はすぐに察した。
「しぶとい女だからな。助かるだろうさ」
らしくもなく〝父親〟を宥めることに、隼太は苦い思いを抱いていた。
「僕に出来ることは」
「あるぞ、色々。とりあえず宝珠集めを手伝え」
「イエッサー、ボス」
「そのノリを止めろ」
真面目なのか不真面目なのか判らない大海に、隼太は少々げんなりする。
「飲むから」
「つまみね。ちょっと待ってて」
いそいそと、大海は台所に行った。




