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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
花屋敷編 第二章
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兎哀歌

聖視点の挿話です。

 副つ家の鬼兎――――。


 異相と異能を引っくるめて、僕は同族の一部にさえそう囁かれていた。

 されど胸は痛まず。

 自らにとって重きを成さぬ人間の囀りに痛痒を感じる程、繊細でも若くもなかった。

 その心は冷えていたのだと。

 独りに軋んでいたのだと。


 僕に教えてくれたのは、主家の小さな姫君だった。

 温かな手は無邪気に僕に伸ばされ、長ずれば佳人となるであろうあどけない顔が、親愛の情を満面の笑顔で示した。

 本家の御一家が訪問されると知らせる風を聴くと、僕の顔は知らず綻んだ。


 真っ直ぐな目で。真っ直ぐなコトノハで。真っ直ぐに僕にぶつかる。


 受け容れることを微塵も疑われていないことが、僕を充足させた。

 雪が融かされるように、僕は幼い掌に降伏させられた。

 その幸福。

 高貴の片鱗ある面は、傷つくことも既に知っていた。

 僕と同じ匂いのする傷が姫君にはあったのだ。


 僕は忠誠と慈愛を尽くして彼女の成長を見守った。


 やがてそれは容易く形を変えるであろう予感を、微かな胸の痛みと共に感じつつ。


 時が経ち。


 長い髪がたおやかな手が。

 とりわけ凛とした瞳が。


 僕の中に君臨し続ける。


 打ち明けよう。


 貴方が僕に悲嘆の涙を見せた時。

 この腕の中で泣き崩れた時。


 僕は悲しみと、そして喜びに震えた。

 雪のようには融けない罪が、今でも僕を炙熱し続ける。


 笑っていてくれればそれで幸せではなかったのかと。

 浅ましい物欲しさが己の中にあることを、自分自身に突きつけられた。


 純粋に、貴方のウサギで在り続けたかったのに。

 それは雪のように儚い夢想と知った。


 いっそのこと消えて無くなれれば、楽になれるだろうものを。

 また泣かれてはと思うと前に進めず後ろに退けず。


 迷子の兎とは笑えてしまう。

 貴方だけではない。迷子になったのは僕自身もだ。


 それでも貴方と共になら、ずっと迷い続けても良いと思う。



挿絵(By みてみん)






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