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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
花屋敷編 第二章
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雪見酒

 秀一郎の言葉を聴いた時、私は耳を疑った。

「うちで飲んで行く?」

「はい。男同士、親睦を深めようかと。お許し頂けるなら……」

「……」


 舐める程度の飲酒の日々を送っている私にその発言。

 良い度胸だ、秀一郎。

「……御当主。お顔が、般若のように」

 控えめに聖が口を挟み、はっと我に返る。

 俊介の顔は主人の顔色を窺う犬のようで。


 男たちで結託して飲み会か。

 しかし私も混ぜろとは言えない。楓を一人には出来ない。


「酒の肴を出したりはしませんからね」

 せめてもつれなく言ってみるが。

「はい。台所を貸してください。まだ晩まで時間がありますし、適当に作ります」

 俊介の申し出に聖がうんうんと頷いている。

 もしかしてこの為に鼈甲ぶち眼鏡男は純米吟醸を持って来たのだろうかと疑心暗鬼になる。

「良いですけど、何を作るんですか?」

 問うと俊介は顔に手を添えながら思案する目で答えた。

 宙にあるレシピを見るように。

 日参している俊介は、うちにある食材も凡そ把握している。

「冷奴に刻み茗荷を散らして。胡桃の味噌和えとか。あとは白飯があれば、まあ」

「野菜が足りませんよ。茄子と胡瓜のバジルソース炒めと法蓮草のナムルを私が作ります。それから、冷凍庫にある鮭の塩麹漬けも焼きましょう」


 男たちの間の空気が緩和する。

 私にはこれぐらい譲歩するだけの借りが彼らにある。

 私と楓の為に大の男たちが日常を潰して動いてくれているのだ。

 恩義に感じていると言葉で言えないぶん、虎の子の塩麹漬けだって焼こう。

 そして成人男性の胃袋が二つ加算されるとなると、三合が最大量の我が家の炊飯器では足りないかもしれない。冷やご飯も解凍しておこう。


 台所で俊介と入れ替わって立ち働いていたら時が過ぎた。

 今日は泊まりになるだろう俊介と秀一郎を含め、全員で順番に入浴も済ませる。

 私が楓の手を引いて風呂に向かう時の俊介と秀一郎の顔が少し変だった。




 聖のいる六畳間に食べ物と酒の匂いが満ちる。

 大きい盆を置いて、それに乗る皿に三人は直に箸を伸ばす。

「こぼさないでくれよ。片付けるのは僕なんだから」

「解ってるよ、聖君」

 美装のランプが映し出す雪景色も、今宵ばかりは情趣が追い遣られるようだ。

「隼太はどんな男だった?」

 冷奴を口に運びながら、気安い口調で聖が秀一郎に尋ねる。

 秀一郎も軽く応じた。

「中々。美形だったよ。癇の強そうな」

「ふうん。声からしてそんな感じはあったな。まあ、うちは昔から容姿の良い人間が多いからね」

「そうなんですか」

 事件の渦中にある男の名前が、肴のように取沙汰されている不思議を俊介は感じる。

 やはり同族ということなのだろうか。

 自分や秀一郎と同じように、透明の切子硝子の盃を持つ聖を見た。

 車座で普段より互いの温度が近く、親しみも気楽さも増している。

 それぞれが持つ盃の光の反射が、時折顔をきらりと照らしていた。

「御当主や秀一郎君が好例だろう?」

 そう言う聖も異相だが端整だ。

 俊介はしょぼくれた。

「……ですよね……俺は所詮、互換インクですから…」

「ぶっ」

 聖が酒を噴き、むせそうになる。

「互換インクが何だい?」

 秀一郎が訝しげな顔で俊介と聖を窺った。

「けほ、……訊いてやるな、秀一郎君。悲話だから」

「――――笑ってるじゃないか」

 秀一郎の呆れ声を受ける聖は最年長者には見えない。

「不可抗力だよ……ああ、危なかった、酒が逆流すると辛いからな」

「そうだね。それで? 俊介君はどうして自分を互換インクだなんて卑下しているのかな?」

 秀一郎が丁寧に訊き直す。

「ぶふっ」

「噴き過ぎです、聖さん!」

 俊介が酒と羞恥に赤らめた顔で、畳に飛んだ酒を台拭きで拭いた。

 親睦会はその晩遅くまで続いた。







挿絵(By みてみん)









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[良い点] 俊介、がんばれ!
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