表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
家督相続編 第二章
104/817

慈雨

 大海の言葉が、私の胸の深いところを強く打った。

 込み上げるものがあった。

 ――――駄目だ。こんなのは間違っている。隼太の手を振り解いて大海を連れ戻そうとしたいのに、腕はびくとも動かない。

 火の粉が躍る。

 何と明るい火炎か。この闇夜に。

 ここで大海を喪うことは認められないというのに。

熱波だけでも小さな火傷が無数に出来そうな中、私は隼太によって屋敷から遠ざけられようとしていた――――取り返しのつかないであろう失意を胸に。


 だが。


「ことはりや 日の本ならば 照りもせめ さりとてはまた (あま)(した)とは」


 少女のコトノハが凛と響き渡った瞬間、空から豪雨がざばりと降り注いだ。


 そこには肩で息をする楓が立っていた。


 尋常でない豪雨の勢いに、花屋敷の火が徐々に消えてゆく。

 雨粒が肌に痛いくらいだ。

 大海も隼太も、呆気に取られた顔で突如現れた楓と雨を見ている。


 楓の後ろから聖が現れた。

「すみません。楓さんにどうしても自分も行くと言われて」

 では楓は自分の力で家から花屋敷まで飛び、雨乞いのコトノハを成就させたのか。

 聖によって力を増幅されたとは言え、それは驚くべきことだった。

(かい)

 楓は更に私の沈黙の縛りに気づき解いてくれた。

「――楓さん――――――――」

 何と言えば良いのだろう。言葉にならない。

「ことさんがあたしを守ってくれるように、あたしも、ことさんを守りたかったの。助けたかったの。役に立ちたかったの」

 強い輝きを宿した瞳で、楓はそう言って私に抱きついた。

 ここ最近の目覚ましいコトノハ習得振りの底には、そんな想いがあったのか。

 彼女はもう守られるだけの子供ではなくなっていたのだ。

 あの、小さなひとひらが。

 柔らかくて幼くて稚いものが。

 私は万感の想いを籠めて楓を抱き締めた。


 こうして命は巡るのだ――――――――。


「楓さん。守られました。助けられました。ありがとうございます」

「うん」

 楓は顔を上げ、無邪気な、けれど芯のある笑顔を見せた。

 大海が、雨に打たれた前髪を掻き上げながら、苦笑している。

 隼太は動かない。その立ち姿からは何の感情も読み取れない。

 皆、びしょ濡れで、大海などは煤だらけだ。

 けれど生きている。

 雨が降る。



 雨が降る。




「大海さん。……生きましょう」





挿絵(By みてみん)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 子供って時に驚くほど大きくなってますよね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ