慈雨
大海の言葉が、私の胸の深いところを強く打った。
込み上げるものがあった。
――――駄目だ。こんなのは間違っている。隼太の手を振り解いて大海を連れ戻そうとしたいのに、腕はびくとも動かない。
火の粉が躍る。
何と明るい火炎か。この闇夜に。
ここで大海を喪うことは認められないというのに。
熱波だけでも小さな火傷が無数に出来そうな中、私は隼太によって屋敷から遠ざけられようとしていた――――取り返しのつかないであろう失意を胸に。
だが。
「ことはりや 日の本ならば 照りもせめ さりとてはまた 天が下とは」
少女のコトノハが凛と響き渡った瞬間、空から豪雨がざばりと降り注いだ。
そこには肩で息をする楓が立っていた。
尋常でない豪雨の勢いに、花屋敷の火が徐々に消えてゆく。
雨粒が肌に痛いくらいだ。
大海も隼太も、呆気に取られた顔で突如現れた楓と雨を見ている。
楓の後ろから聖が現れた。
「すみません。楓さんにどうしても自分も行くと言われて」
では楓は自分の力で家から花屋敷まで飛び、雨乞いのコトノハを成就させたのか。
聖によって力を増幅されたとは言え、それは驚くべきことだった。
「解」
楓は更に私の沈黙の縛りに気づき解いてくれた。
「――楓さん――――――――」
何と言えば良いのだろう。言葉にならない。
「ことさんがあたしを守ってくれるように、あたしも、ことさんを守りたかったの。助けたかったの。役に立ちたかったの」
強い輝きを宿した瞳で、楓はそう言って私に抱きついた。
ここ最近の目覚ましいコトノハ習得振りの底には、そんな想いがあったのか。
彼女はもう守られるだけの子供ではなくなっていたのだ。
あの、小さなひとひらが。
柔らかくて幼くて稚いものが。
私は万感の想いを籠めて楓を抱き締めた。
こうして命は巡るのだ――――――――。
「楓さん。守られました。助けられました。ありがとうございます」
「うん」
楓は顔を上げ、無邪気な、けれど芯のある笑顔を見せた。
大海が、雨に打たれた前髪を掻き上げながら、苦笑している。
隼太は動かない。その立ち姿からは何の感情も読み取れない。
皆、びしょ濡れで、大海などは煤だらけだ。
けれど生きている。
雨が降る。
雨が降る。
「大海さん。……生きましょう」




