成宮影虎は執筆家である
あんまりこう言うものを見たことが無かったので書いてみました(皆さんがあえて書いてないだけかもしれませんが)
執筆は不定期ですので次は何時になるかはわかりませんが頑張っていきたいです。
俺は漫画が好きだ。アニメが好きだ。ラノベが好きだ。ゲームが好きだ。
理由なんてものはない。もしかしたらあるのかもしれないが、ただただ好きだ。
昨今では「教育人間悪い」と漫画やアニメなどに対する規制などの動きが強くなりつつあるが、俺からすれば、悪い教育なんてものはない。
それは受け取る方に原因があるだけだ。FPSゲームの中毒者が人間を撃ち殺したからそのゲームが悪いというのはただのこじつけだ。阿呆かと言いたい。別にそいつはゲームやってようがやってまいが、人をぶっ殺してるよ。
犯罪者の経歴を調べる中で毎回毎回真っ先に挙げられるのが「アニメやゲームが〜」だ。どれだけ二次元を悪にしたいのか。二次元は善だ。良だ。合わせて善良だ。断じて悪ではない。
何時だって善を悪に仕立て上げるのは大衆だ。そうやって冤罪が生まれてきた。
そして多分、俺が今ここで目の前の女子をぶん殴って捕まれば、またアニメやゲームと現実の区別がつかなくなったとかいって二次元を悪に仕立て上げるのだろう。
だから俺は手を出さない。
そう。例え、無駄に勝ち誇ったかのような表情で見下ろされていても。背は俺の方が余裕で高いけどな。
「驚いたわ。まさか学校の生徒、教員から畏怖されている成宮影虎くんがこんなものを書いているなんて」
わざとらしく驚いた素振りを見せる女子は手にしていたスマートフォンをこちらに見せつける。
其処に表示されているのは『のんのんノベラーズ』。通称『のんノベ』と呼ばれる自作小説投稿サイトだ。
自作小説、と言っても大きく分けて二種類ある。
一つは完全オリジナル。キャラ名や設定、ストーリーに至るまで何もかも自分で考えた文字通りの自作小説だ。
もう一つは世間一般で二次創作物と呼ばれる。アニメ、漫画、ライトノベルのストーリーを自分の好みなどで思いのまま改変し、其処に自己を投影したキャラを出してみたり、主人公の性格を変えたり、昨今ではサブキャラをメインに持ち上げるものもある。
そしてその『のんノベ』を俺自身もよく利用しているのだ。
どうでも良いことだが、俺の最近のオススメ作者は『仮面少女』さんと『のんびり系ヒーロー』さん。前者は基本的に原作再構成ものが多い。原作を読んでの違和感や齟齬などを元に主人公や周囲のキャラクターの性格などを改変して、それらを上手く活用しているものだが、毎度ながらとても感心させられる。最近では『神だけが知らない世界』を執筆しているようだが、これが面白い。
後者は完全オリジナル作品が大部分を占め、ジャンルは主にバトルやファンタジーを投稿されている。作者名の通り、勧善懲悪を題材にしたヒーローでかなり王道だがキャラが立っていて実に面白い。だが、時々投稿している日常系のものはあまり評価が芳しくない。俺は嫌いではないのだが『のんびり系ヒーロー』さんの良さが消えているので微妙なところだ。
「おかしいと思ったのよ。品行下劣、無法千万、暴虐非道という単語が服を着て歩いているような貴方みたいな人間が他のテストは赤点ギリギリで後ろから数えた方が早いのに現国だけ常にトップをキープなんて、違和感しか感じないわ」
「誰が品行下劣で無法千万で暴虐非道な人間だ。人を見かけで判断すんなって小学校の先生に言われなったのかよ。意外に不良だな。来栖川」
俺の目の前でやたらと勝ち誇ったかのよう表情を浮かべているのは俺の通う公立明星学園始まって以来の優等生。そして学園一の美少女と称される女子。来栖川夜宵だ。
先程言われた、品行下劣、無法千万、暴虐非道で誰からも怖がられている俺とは違い、品行方正、才色兼備、頭脳明晰と二次元にしか存在しないようなキャラをした女子だ。おまけに黒髪ロングで巨乳の物静かで窓際で本を読んでいるような奴だ。俺の生きてる世界はこいつが主人公、或いはヒロインのアニメの世界なん
じゃないかと思った事すらある。
「貴方の場合、見かけ通りじゃない。一週間前、他校の生徒を恐喝して、暴行したと校内で噂になってたわ」
「恐喝なんてしてねぇ。道を開けてくれって言ったらいきなり土下座した挙句、財布置いて逃げ出しただけだ。後で近くの交番に届けたしよ。暴行だって、仕掛けてきたのは向こうだから正当防衛だ。あっちが殺しに来てんだから二、三発ボコっても文句は言われたくねぇ」
「あら?貴方の場合、二、三発殴れば相手が瀕死になるのでしょう?そこまでいけば過剰防衛だわ」
「んなわけあるか。せいぜい半殺し程度だ」
「同じ意味じゃない。全身凶器なのだから」
ああ言えばこう言う。俺だって好きでこんな全身凶器みたいに強くなったわけじゃない。それなりに理由があるんだ。
「それはさておき、人の一人や二人や百人は殺してそうな貴方みたいな人種が一番毛嫌いしそうなこれの事だけど……」
「おい、人の一人や二人や百人て、間の九十八人は何処に消えた」
「気にすべきはそこではないわ。何故貴方がこんなものを書いているのかと私は聞いているのよ。成宮影虎くん?いえ、のんノベ作家の御詠救世先生とお呼びすればいいかしら?」
「は、はぁ?誰だよ、それ」
取り敢えずしらばっくれてみる為、視線を来栖川から逸らす。不意に視界の端で何か動いた……ってあぶねぇぇぇ」
さっきまで俺の顔があった位置に万年筆がかなりの速さで通過し、カンッという高い音を立てて黒板に刺さった。当たったら死ぬと俺の第六感が告げてる。
「何すんだ!」
「私がこの世で最も嫌いなのは見え透いた嘘よ」
「知るか!先に口で言え!」
「そう。因みに二つ目に嫌いなのは酢豚のパイナップルよ。あんなの食べ物じゃないわ」
いや、知らねえよ。何でそんなに親の仇みたいに言ってるんだこいつ。
「ついでに言うとそれを嬉々として食べる人も嫌いよ」
「ついでに全酢豚好きを敵に回すなよ……」
俺には関係ないけどよ。俺も酢豚は嫌いな方だし。
「また話が逸れたわね。それで魔王成宮影虎くんが何故二次創作物なんて自己満足全開の気持ち悪いオタクな趣味をしているのかだけど」
「おい」
「何かしら?」
「今、オタクがキモいつったな」
「ええ。ついでに言うとそれらのアニメや漫画も人に精神的悪影響しか及ぼさないものも反吐が出るわ」
来栖川は吐き捨てるようにそう言う。
言いやがったな………オタク全否定ですら許されざる行いだというのに剰え二次元を悪影響しか及ぼさないだと………ふざけやがって。
「先に聞いとくぞ。今の発言撤回する気は?」
「ないわ。事実だもの」
「はっ!事実だって?流石は優等生サマ。大衆にひどく影響を受けているようで」
「なんですって?」
「大方、お前も「犯罪が起こるのはアニメや漫画の所為だ」とか「規制すれば犯罪が減る」とか理屈もねえ、根拠もねえ事考えてんだろ?阿呆かっつーの。一々、人を傷つける理由と二次元こじつけてんじゃねーよ」
いつもそうだ。犯罪に対した理由がなかったら、犯人像を掘り下げて「趣味がアニメ鑑賞で〜」だ。おまけにそれを当事者も同意しやがる。おかけでオタク文化は異端扱いを受ける羽目になる。日本文化の代名詞といっても過言ではない。発展には利用して、その時以外は非難する。テレビでニュースに取り上げられるたびにテレビを叩き壊しそうになる。
「てめえ、頭良いくせにそんな事にも疑問を持たずに生きてきたのかよ。学園創設以来の美少女優等生が聞いて呆れるな」
「それは周りが勝手に言っているだけよ。だから周囲の評価を否定するのは一向に構わないわ。けれど、私個人を馬鹿にした、というのであれば無視は出来ないわね」
「それはこっちの台詞だ。俺はな。俺個人を馬鹿にする奴はある程度は許してやる。けどな、アニメや漫画文化を否定する奴は許さねえ。誰であってもな」
男だろうが女だろうが関係ない。対処の方法こそ変わるが貶す奴は容赦しない。
「それについてはどうでもいいわ。今の発言、全て貴方の真意?」
「適当言ってるって言いてえのか?」
「違うわ。見え透いた嘘はすぐにわかるもの。私は貴方がそれを心の底からそう思っているかと聞いているのよ」
来栖川は真剣な表情でそう言ってきた。質問の意図が全くわからんが、来栖川の言う通り、俺は心の底からそう思っている。だから強く頷いた。
それを見届けた来栖川は一つ溜息を吐いた後、予想外の言葉を口にした。
「ーーー合格よ」
「はあ?」
間の抜けた声を上げてしまった俺は悪くない。この状況、一連の会話で何に対して合格を出したのか。
しかもまたもや上から目線。
「慣れない事をするものではないわね。人とこれだけ話したのは何時ぶりかしら」
「?」
「貴方も知っているでしょう?私、基本的に人と話さないから」
確かに来栖川が人と話しているのをあまり見たことはない。業務連絡のような会話をしているのを聞いた事はあるが、それ以外は誰も来栖川とは話さない。それは嫌われているからじゃなくて、それは来栖川が高嶺の花のように扱われていて、話しかけようにも迂闊に話しかけられないだけだ。
「それで?慣れない事して、俺を創作家扱いした挙句、俺をキレさせた理由は?」
「貴方が本当にオタクか確かめたかっただけよ。それに創作家扱いしたというのは語弊があるわ。貴方が二次創作家の御詠救世というのは確信を持って言えるわ」
「へぇ、じゃあ確信を持つまでの過程をお教えいただきてえもんだ」
「いいわ。先ずは貴方の書いている二次創作物の一話一話の登校時間。何れも午後十二時で統一されているわ。このサイトには予約投稿機能があるから時間の調整は自由というわけよ」
「でもそれじゃあ俺だっつー確信は持てねえだろ」
「人の話は最後まで聞きなさい。理由はまだあるわ。『腹ペコ騎士王』、『悪魔の第一位』、『難聴系主人公』。この名前に見覚えがないかしら?」
「さあ?心当たりな……いこともないかなぁ。あるかもしれない」
こいつ誤魔化そうとしたら無言でボールペン構えやがった。つか、何処から取り出したんだ。手を握って開いた次の瞬間には全部の指の間にあったぞ。早業なんてレベルじゃねえ。
「あれ、全部私よ」
「ふぅん………はぁ⁉︎」
「だから私よ」
「二回言わんでいい」
どういうこった。さっきの名前には見覚えがある。どれもここ一週間前に俺の二次創作に感想を書いた方々だ。感想を書いてくれる人は結構いるが、俺はそれらの方々の名前は全員覚えている。感想を送ってくれるというというのは執筆しているこちらとしてはかなりありがたいからな。覚えておくのは礼儀というものだ。
「アカウントを変えて遠回しに貴方の周囲の事を聞いていたのよ」
………マジかよ。いや、確かに作品に対するコメントの後に何時も学生生活の事には当たり障りない程度触れられていた。知られていたのは多分俺が自己紹介文で「学生なので更新は不定期です」と書いているからだろうな。全く気づかなかった。
「まだあるわ。というか、これが決定的なのだけれど……」
「なんだよ」
絶対に首を縦にはふらねえ。誤魔化し抜けば、あっちが諦めるだろう。
「私、貴方がそれを書いているのを学校で見たわ」
「………」
言い訳不可能だった。
「し、証拠はどこにあるんだよ⁉︎」
思わず犯人フラグ+露見フラグを建築してしまった。
そりゃ現場押さえられるなんて誰も思ってねえよ。そもそも学園じゃ一度も『のんノベ』に入った事は………あった。
二週間前、俺自身が決めていた投稿日時から大幅に遅れていた。本来なら学園に着く前に投稿し終えるつもりだったが、予想外に時間がかかったせいで家に帰ってからと思ったが、最近投稿出来てないというフラストレーションが溜まり、うっかり執筆、投稿してしまった。
まさか……それを見てたのか?あの時は必死だったとはいえ、かなり警戒してたはずだ。
第一、俺の席の後ろであるはずの来栖川なら余計に見えないはずだ。
「先生に当てられて前に行った時に偶然貴方が携帯を触っているのが見えたの。そしたら画面に面白いものが表示されていたから。お昼休みに見たらあら不思議。同じものがこのサイトに投稿されていたわ」
何があら不思議だ、わざとらし過ぎんだよ。
つーか、これ完全に詰んでんな。執筆してるのを見られてんじゃ、誤魔化せねえじゃん。
「仮に、だ。仮に俺がそいつだとしたらなんだってんだ?泣く子も黙る不良生徒の趣味は喧嘩と二次創作物を書くことでしたとでも言いふらすつもりか?」
「そんな事したところで私には何の利益もないでしょう。それに仮のまた仮の話になるけれど、同業者を売ったりはしないわ」
「あん?同業者?」
「改めて自己紹介が遅れたわね。私の名前は来栖川夜宵。趣味は読書とアニメ鑑賞、そして二次創作物の執筆。作者名は『仮面少女』よ。これからよろしくね、成宮くん」
にこりと微笑んでそう言う彼女に俺はただただ茫然としていた。