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鉄人の店

作者: 遼馬

 「ついに完成じゃ!」

町外れの研究所で博士が興奮気味につぶやいた。

 博士が作り上げたものは料理ロボット。名前は「鉄人1号」と命名した。

10年間の試行錯誤の末、ついに完成した世界に1台だけのロボット。

その機能はというと

世界中の全ての料理を作ることが出来る。今の時代WEBでレシピを検索すればどんな料理だって出てくる。鉄人1号はWEBと連動し、指示された料理をレシピ通り再現することが出来るのだ。包丁さばきもフライパンの振り方も一流シェフたちのデータが記憶され、完璧にこなす。センサーで調味料の量、火加減、温度などが調節され

味付けも完璧である。

 博士の仕事は食材の調達と調味料等の補充だけだ。

博士は助手に言った。

「小さい頃父に連れて行ってもらった洋食屋さんのハンバーグが忘れられなかったんだ。大きくなったら料理の美味しい小さなお店を出すのが夢だった。そしてついに完成した。この鉄人1号さえあれば、どんなお客様も必ず美味しいと言ってくれるに違いない。」

「じゃあ早速お店を作る準備をしましょう。私は洗い物でもウエイターでもなんでもやりますよ。」

助手も少々興奮気味に喜んだ。


一月ほどしてお店のオープンにこぎつけた。看板には「Mr.アイアンマン」と書いてある。街の中心地からは少し離れているが、環境の良い場所だ。小さなレストランの前には噂を聞きつけた近所の主婦たちも並んでいた。店内にはお客さんたちの声が響く。

「すごいメニューの数ねぇ。」

「和洋中なんでもあるねぇ。」

「おいしーい。」

鉄人1号がレシピ通りに完璧に作っているのだから当然の声である。

大繁盛のうちに初日を終え、博士が言った。

「いやすばらしい。鉄人1号は完璧だ。みんな喜んでくれた。しかもこんなに儲かるとは・・・・」

 開店2日目の朝、博士は鉄人1号の電源を入れた。

反応がない。何度繰り返しても同じだった。

「やや、どうしたことだ?」

いろいろなパーツを調べた結果、大事なマイクロチップが湿って壊れてしまっていた。

「いやまいったなぁ、防水ということを忘れておった。全てのパーツを防水加工するとなると大変な作業になるなぁ・・・・」

やむなく博士は店を一時休業し、約2年かけて完全防水のロボットにした。

名前は「鉄人2号」。

「ふう、長いことかかったわい。しかしこれで防水対策は完璧じゃ。」

二年ぶりに店はオープンした。前回同様大繁盛のうちに初日を終えた。

開店2日目の朝、博士は鉄人2号の電源を入れた。

反応がない。

「やや、またか。防水は完璧のはずなのに。」

博士は各パーツを調べ、重要な基盤が熱で溶けているのを発見した。

高温のオーブンやコンロの熱にやられたようだ。

「いやこりゃまいった。耐熱かぁ。これはまた大変な仕事になるぞ・・・」

やむなく博士は店を一時休業し、約3年かけて完全耐熱のロボットにした。

名前は「鉄人3号」

「ふう、長いことかかったわい。しかしこれで完全耐熱、完全防水じゃ。」

3年ぶりに店はオープンした。もちろん今回も大繁盛、さらに二日目、三日目と順調に過ぎていった。

一週間ほどしたある日の朝、保健所を名乗る数人の男がやってきた。

「実はおたくで食事された方が食中毒症状を訴えられて、入院されております。お忙しいところ失礼ですが、店内を調べさせていただきます。」

そういと男たちは店の中を調べ始めた。

そして営業停止命令が下されたのは数日経ってのことであった。

どうやら食材が古かったり、管理が悪かったことが原因だったようだ。

「まいったなぁ。食材の鮮度のセンサーが必要じゃったなぁ。あと殺菌装置も付けないとなぁ・・・こりゃそうとうかかりそうだなぁ・・・」

どんなに料理が完璧でも、もともとの食材が悪ければどうしようもない。これを解決するには大変な作業だった。

 5年の月日が過ぎた。

「いやぁ長かったなぁ。しかしこれで完璧じゃ。衛生管理、鮮度センサー機能付だ。もう大丈夫だろう。」

その完璧なロボットは「鉄人4号」と名付けられた。

5年ぶりに店はオープンした。ただし店の看板は「アイアンシェフ」と微妙に変わっていた。店はまたまた大繁盛。そして一ヶ月が過ぎこのまま軌道に乗るかと思われたある日の朝。

「やや、また動かなくなったぞ。」

博士は鉄人4号を調べ始めた。するといろんな所から小さなゴキブリがはい出してきた。

「なんということだ。いったい何処からもぐりこんだんだ。」

博士は肩を落としながらつぶやく。

「ここまで来るのに20年以上の月日を費やした。わしももう年じゃ。今度の防虫装置を装備するのに何年かかるだろう・・店の家賃もずっと払ってきたし、もう開発費もない。こんなことなら最初から自分で料理の勉強をした方がよかったのぉ・・・」


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