僕達は
僕の目の前で、泣いている女の子がいる。
見目麗しく、泣いていてすら美しさを損なわない彼女が、延々と、泣いている。
僕はただ、その背を優しく撫でていた。励ますように。元気づけるように。
すると彼女は不思議と泣き止み始める。
まるで、僕に悲しみが移ったかのように。
「大丈夫、大丈夫」
僕は彼女に語りかけながら、一筋の涙を流した。
まるで、彼女から悲しみを受け取ったように。
彼女の傍らには大体僕が居て、悲しみを共有し、
僕の傍には大抵彼女が居て、喜びを共有する。
周りの人々は僕達の関係を恋人どうしというけれど。
僕達の間にあるのは、恋などではない。
ずっと一緒に育ってきた。
互いの全てを知り尽くし、共に生きてきた。
幼いころは、とても仲の良い二人組。
小中学では、互いの最大の好敵手。
高校では、息の合った夫婦のような。
そんなふうに周りに言われ続け、
そして大学では――
「アンタ、なんで受けなかったのよ」
「学力が足りなかったからさ」
「うそ。常に一緒の私たちに、差ができるわけないでしょ」
彼女は国立へ、僕は私立へ。
生まれて初めて、僕らは分かたれた。
いつも一緒の僕らに、不思議なことに差が生まれたのだ。
僕らが別の道を歩むことに、始めは違和感を感じていた彼女であったが、
「ま、いいわ。おたがい頑張りましょ」
そう言って、日々が過ぎた。
別々の分野を学び、別々に知り合いが増え、それぞれの友人関係が築かれ、そしてそれぞれに恋人ができた。
そして、彼女は泣いている。
「私の考えていることがわからないって……ついていけないって」
「そっか」
「はじめはとても順調だったのに……いつのまにか、すれ違ったの」
「僕の方は今でも順調だよ」
「恨めしいわ」
「悪霊退散」
「なるものか」
悲しみを分けあった僕らは、そう言って口端だけで笑いあった。
僕は言う。
「君なら新しく始められるよ」
彼女も言う。
「そうね、アンタが出来るんだもの」
お互いを知り尽くした僕らは、幼い頃から好敵手やら恋人やらといろんな認識をされてきた。しかし、昔から僕らの間にあるものは変わらない。
「やる気出てきたわ」
「その調子」
信頼とも友情とも、ましてや同情でもなく。
もちろんそれは、恋ではない。